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ベテランママの会代表 番場さち子さん (1)

番場さち子さんの本職は、教育アドバイザー、学習支援員。東日本大震災が起こるまでは、福島県南相馬市で人気の学習塾を運営していた。震災後は自身も避難所生活を体験するなか、子どもたちや若いママたちを支える「ベテランママの会」を設立。以降、活動を通じ多くの人々を勇気づけてきた。昨年2月には「日本復興の光大賞」を受賞している。とはいえここに至るまでは苦難の連続で自己破産も考えたとか!? そんな番場さんを支えたものとは?
(取材・文=松田慶子)

 【2016年3月10日】

 
 
わたしの原動力

 

原発事故で不安を抱える 母親や子どもたちの力になりたい!

教室で月に2回開催されているニットサークル。

――「ベテランママの会」とは?

東日本大震災の被災者を支援する福島県南相馬市の市民団体です。わたしは震災前から原町区という地区で小学生から高校生を対象にした学習塾を運営しており、今もそこを拠点に活動しています。具体的には、医師の先生方を招いて放射線に関する勉強会や健康相談会を開催したり芸術鑑賞会を企画したり。被災した子どものための学習支援も行っています。日中はママや子どもの相談にのるほか、教室をサークル活動やアロマテラピーなど、ママたちが集う場として使ってもらっています。

――設立の経緯は?

東京電力福島第一原発の事故により、原発から30km圏内に避難指示や屋内退避指示が出されました。南相馬市は大部分が30km圏内にあたるため、多くの人が市から離れた避難所に移ったのです。わたしも一時、同じく福島県の伊達市の避難所に入りました。ただわずかながら南相馬に留まった子どもたちもいたので、その子たちのよりどころをつくりたくて、4月に戻り、教室を無料開放したのです。集まってきた子どもや若い保護者を見て、みんな情報がなくて不安なこと、だれかに寄り添いたいという思いを抱えていることを強く感じました。そこで、高校の同級生らと会を設立。適当に名前をつけ(笑)、そのまま法人化もせず5年も経ってしまいました。


「放射能がうつる!?」 知らないことの怖さを実感

――当時、放射線量について、さまざまな憶測が飛び交っていた。小さい子どもを抱える住民の不安は、さぞ大きかったのでは?

このまま南相馬に住み続けていいのか、本当に不安を抱えていたようです。遠方に避難している人もまた、「放射能がうつる」と心ない誹謗中傷を受け苦しんでいたり、うつ状態になったりした人もいます。わたし自身、県外の病院で、南相馬市の住民というだけで隔離されたことがあります。正しい情報がないことの怖さを痛感しました。

――番場さんご自身が、「福島にいてだいじょうぶかな」と思わなかったのはなぜだろう。

一つには航空会社でキャビンアテンダントをしている長女の言葉が大きかった。「被ばくには外部被ばくと内部被ばくがあり、福島にいても、気をつけて過ごしていれば、外部被ばくが危険なレベルに達することはない。地上よりはるかに被ばく量の多い環境で働く航空機乗務員がみんな白血病になっていないのがその証拠」と論理的に話してくれたんです。本当にそうだな、と腑に落ちた。
みんな、わからないから怖いんだ――。そう思い、12月、医療支援に来られていた東京大学医科学研究所の血液内科医、坪倉正治先生に講師になっていただき、勉強会を開いたわけです。

わかりやすい冊子を発行 東京にも支援拠点を

『福島県南相馬発 坪倉正治先生のよくわかる放射線教室』は50000冊、その英語版は10000冊発行。

――勉強会には大勢が詰めかけたという。

「外を歩いてきた猫に触れても被ばくしない?」など、子どもたちからも質問が次々に飛び出し、いかに情報を欲していたかがわかりました。そこであちこちに出張勉強会に行くようにした。これまで100回以上、延べ2000人以上を動員しました。
14年夏には、放射線についてまとめた冊子『福島県南相馬発 坪倉正治先生のよくわかる放射線教室』を発行。インターナショナルスクールのママからの要請で、英語版も出しました。

――ご自身も被災者であるうえでのご活動は、資金繰りも含めてさぞ大変だったのでは?

それはもう(笑)。金銭的にも大変でした。今は寄付と助成も募っていますが、当初は自費での活動でした。実は震災直後、5人の弁護士から「このままでは自己破産も考えなくてはならなくなる」と言われたことがあったんです。幸い、支援を受けることができて難をしのぎましたが。

――14年秋には東京の目黒区に活動拠点「番來舎(ばんらいしゃ)」を構えた。

たびたび上京し、喫茶店などで、避難や進学で首都圏に住んでいる若者の相談にのっていたのですが、店では周囲の目が気になり、子どもたちは泣きたくても泣けない。東京でも気兼ねなく話せる場所を確保したいと考えたのです。

――正しい情報を広く発信したこと、自費で被災者の居場所をつくっていることなどが評価され、2015年2月にNPO法人日本トルコ文化交流会の「日本復興の光大賞」を受賞。審査委員長の池上彰氏から表彰された。



Profile

番場 さち子 (Sachiko Bamba)

ベテランママの会代表、一般社団法人番來舎代表理事、教育アドバイザー、発達障害支援員、学習支援員。1961年福島県原町市(現 南相馬市)に生まれる。大学卒業後は故郷に戻り、書道教室や学習塾を運営。生徒やその保護者の悩みにじっくり耳を傾ける面談が信頼を呼び、110人もの生徒が通う人気塾に。震災後は地元の同級生らと被災者たちの相談に応じる市民団体「ベテランママの会」を設立。東京大学医科学研究所の血液内科医・坪倉正治氏を招いて放射線教室や相談会、各種講座の開催を重ねる。2014年、放射線を学ぶ冊子「福島県南相馬発 坪倉正治先生のよくわかる放射線教室」を上梓。同年、東京での支援拠点「番來舎(ばんらいしゃ)」を開設。翌15年2月「日本復興の光大賞」(NPO法人日本トルコ文化交流会)受賞。


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