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<ことばのチカラで自立しよう>

ことばのチカラは考える力の基盤

わたしは自分の気持ちや意見をことばにして伝える練習「ことばキャンプ」を主宰しています。ことばキャンプは度胸力、論理力、理解力、応答力、語彙力、説得力、プレゼン力の7つのチカラのトレーニングで、相手の気持ちに配慮しながらも自分の気持ちを適切に表現できるチカラを育てることを目ざしています。

このコラムでは、そんなことばキャンプのエッセンスやエピソードをお伝えします。ことばによって考え、人とよりよくかかわっていくチカラを身につけていきましょう。

今回は前回に続き、ことばの果たす役割について考えてみましょう。

【2016年11月24日】


 
 

もしも、ことばがなかったら

わたしたちは、ふだん何気なくことばを使って暮らしています。でも、もしこの世の中に「ことば」がなかったらどのような世界になるでしょうか?

ちょっと想像してみてください。

「ことばがなければ、人と感情的な感覚は共有できるけど、細かい説明はできない」「争いごとが増えるかも」「せっかくの知恵を次の世代へ伝えられないので、文化がない」・・・さあ、あなたはどのように思いますか?

ことばはあるのがあたりまえですが、もしことばがなければと考えると、人が生きていくためになくてはならないものと、実感するのではないでしょうか。

思考の道具としてのことば

前回は、「ことばは対人関係の基盤」ということについてお話ししました。わたしたちはおもにことばを使って気持ちを相手に伝え、同じように相手の言うことをことばで理解しています。メールや電話にしても、情報を伝えるのはことばです。わたしたちはことばによって、意思を伝え、感情を表し、情報のやりとりをしています。

このように、人とコミュニケーションするときにことばは大切な役割を果たしているのですが、それだけではなくもう一つ、重要な役割があります。

それは、思考の道具としての機能です。

わたしたちは、何かを考えるときにことばを使います。

たとえば、「男女の間に友情は存在するのか」「愛は世界を救うか」について考えるとします。考えるというのは、ことばを介して自問自答すること。ことばを使って考えているのです。

そもそも「友情」や「愛」という目に見えない概念は、ことばによってそれと認識しているのですから、ことばがなければ思考自体が成り立ちません。思考は、ことばがなければ成立せず、その思考を整理し組み立てていくためにもことばが必要です。ことばを駆使し、より深く、高度な思考を練ることができたから、人間は文化を築くことができ、人類が進化してきたと言えます。

ことばには伝達手段だけではなく、思考の道具でもあることを著したのが、ヴィゴツキー(Lev Semenovich Vygotsky 1896-1934)です。その後さまざまな研究によって、思考は言語によってなされていることが認められています。

ヴィゴツキーは、『思考と言語』(1934)で、ことばの伝達手段としての機能を「外言」、自分自身に向けられる個体内の言語活動を「内言」と名づけました。

「内言」とは、ひとり言です。

だれも相手がいないのに「あれ、どこに置いたっけ?」とか「(ちょっと寒い・・・。)風邪ひいちゃったかな」などとブツブツひとり言を言ったことはありませんか?

これは、だれかに伝えるためにことばを発しているのではないですよね。

では、なぜ話しかける相手がいないのに、ひとり言をつぶやくのでしょうか。

それは、わたしたち人間がことばで考え、ことばで感じているからなのです。

「どこに置いたっけ?」と言いながら、アレコレ思考をめぐらし考えています。「風邪ひいちゃったかも」と言い、寒気を感じているのです。

ちなみに、子どもは親や周囲の人とのやりとりによってことばを習得し、初めはコミュニケーションの手段としてことばを使います(外言)。3〜4歳くらいの幼児になると、しだいに外に向けたことば(外言)だけでなくブツブツとつぶやくひとり言(内言)が出てきます。思考の手段へ移行していく年齢です。

ひとり言の経験を通して、子どもは内的世界でことばを使うようになり、ことばが思考として機能するようになるのです。7〜8歳になると内言が思考の道具として完全に機能するようになります。

ことばは文化を反映する

イギリス人の友人が日本を去るときに、“I miss you.”と言いながら、「日本には“miss”という感覚を表すことばがないの」と言っていたのを思い出します。「寂しい」というのとは違う、「ぽっかり穴の開いた感覚」について、丁寧に話してくれました。それ以降はわたしも“miss”という感覚を、味わうようになりました。

言語というのはその国によって違います。ものごとの考え方や感じ方が、民族や国によって違い、それがことばに反映されているのです。

人類学でも、思考と言語のかかわりについて研究されています。

英語では「雪」は“snow”という1語で表されるのに、イヌイット族は雪の状態によって異なる複数のことばを使い分けています。また英語では「トンボ」「飛行機」「飛行士」は対応する単語があるのに、ネイティブ・アメリカンでは鳥以外の飛ぶものを表す“masa'ytaka”という1語で表されるなど、言語の違いによって人間のものの見方や概念の規定のしかたが違ってくるのです。

ことばのチカラをつけよう!

人がじょうずにかかわりながら生きていくためにも(共生)、自分の頭で考え行動していくためにも(自立)、ことばのチカラの果たす役割は大きいのです。

とはいえ、ことばで表現できないこともたくさんあります。ことばは自分の中で考えていることや思っていることの、ほんの一部しか表現できないもの。ことばって難しいなと思います。

また、よどみなく豊富なことばを使って話すアナウンサーのような人よりも、朴訥なことばで誠実に語る人のほうが、胸にグッときて人の心を動かすこともあります。

ことばがすべてではありません。

でも、語彙が増えるとより豊かな表現ができるようになり、ことばを使って思考力も深まりますので、やはりことばのチカラは大切です。

親子で一緒に、ことばのチカラを磨いていきましょう!

<お知らせ>
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高取しづか
高取 しづか (たかとり・しづか)

NPO法人JAMネットワーク代表・「ことばキャンプ」主宰
消費者問題・子育て雑誌の記者として活躍後、1998年渡米。アメリカで出会った仲間や日本の友人とJAMネットワークを立ち上げた。「子どもの自立トレーニング」をテーマに新聞・雑誌・本の執筆や、各地で講演活動を行っている。神奈川県の子育て支援の委員をつとめ、子育てや教育の現場で支援にあたっている。また、東京都と神奈川県の児童養護施設で社会貢献活動を行っている。おもな著書に『子どもが本当に待っているお母さんのほめ言葉』(PHP研究所)、「子どもに英語を習わせる親が知っておきたいこと』(アルク)、『実用絵本 ことばキャンプ』1〜5(合同出版)、『イラスト版気持ちの伝え方』(合同出版)、 『コミュニケーション力を育てる 実践ことばキャンプ』(主婦の友社)など多数。近著は『ダメッ!って言わない 子どもへ good アドバイス』 全3巻(合同出版 )。


 

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