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<ことばのチカラで自立しよう>

学力差につながる語彙力

わたしは自分の気持ちや意見をことばにして伝える練習「ことばキャンプ」を主宰しています。ことばキャンプは度胸力、論理力、理解力、応答力、語彙力、説得力、プレゼン力の7つのチカラのトレーニングで、相手の気持ちに配慮しながらも自分の気持ちを適切に表現できるチカラを育てることを目ざしています。

このコラムでは、そんなことばキャンプのエッセンスやエピソードをお伝えし、ことばによって考え、人とよりよくかかわっていくチカラを身につけていきます。

子どもの自立を促すために、子どものことばのチカラを磨いていきましょう。

【2016年12月22日】


 
 

思考を支える語彙力

人に何かを伝えるときに、「どいて!」というより「ちょっと、よけてくれる?」の方が感じがいいし、「明日、時間がありますか?」ときかれたとき「残念ながら、忙しくて」というよりも「あいにく都合がつかなくて」と答えた方が、洗練された言い方になるでしょう。

語彙力とは、頭の中に入っていることばの集まり、リストです。

人とかかわるとき、ことばをたくさん知っていると、豊かな表現ができて人間関係に良い影響を与えます。

それだけでなく、語彙力は知性や頭の良さと関係があることが、経験的に知られています。

前回の記事で、ことばは思考の道具だと書きましたが、人間の思考を規定するのはことばのチカラです。そしてことばのチカラの基礎の部分は、語彙の豊かさに支えられているのです。

子どもの学力と語彙力

子どもの学力と語彙力にも相関関係があります。

国語はもちろんですが、算数や理科といったほかの教科も、実は語彙力が学力に大きく影響しています。テストで文章題を読み解くには、一つひとつのことばの意味をわかって理解することが必要ですし、理解したことばをもとに考えを進めていかなければならないからです。

子どもの語彙数と成績の関係を調べた研究では、よくできる子は語彙力が豊富で、普通の子はできる子の語彙数の半分しかことばを知らない、ということがわかっています。

文部科学省の学習指導要領改訂の重点項目に、「思考力・判断力・表現力等の育成」があげられていますが、思考力・判断力・表現力の前に、それらを支えることばのチカラを伸ばしていかなければいけないのではないでしょうか。

友人の小学校の先生は、「ことばの意味が正確にわからなくても、そのことばを読み飛ばして問題を解こうとする子どもが増えている」と、嘆いていました。

ことばをいくら知っていても、意味があやふやで理解していなければ、正確な理解を妨げている場合があります。わかったつもりで、読み飛ばして問題を解こうとするなら、正解には至らないでしょう。

「あっ!それ知ってる!」と言って話をしっかり聞かない子どもよりも、知っているつもりの話でも、よく話を聞いて用語の使い方を正確に理解しようとしている子どもの方が学力は高くなっていくのです。

家庭環境の違いで差がつく語彙力

では、子どもはどのようにことばを獲得していくのでしょうか。

赤ちゃんは目の前にあることを「ことば」として認識し、ものには名前があることがわかるようになり、ことばをため込んでいきます。1歳くらいになると、ため込んだことばと意味がつながり「ことば」として出てきます。1歳半くらいから発語の伸びが顕著となり、2歳以降語彙がどんどん増えていきます。

小学生に上がるころまでに獲得することばの数は、3000語〜10000語。子どもによって、なんと3倍以上も差がついてしまうのです。

もちろん発達の個人差もありますが、家庭環境によってかなり違ってくることは容易に想像がつきます。

子どもの語彙力を伸ばしていく方法として、受験塾などでお金をかけてことばを覚えさせる方法があります。ところが、ことばの数は増えても、実際に使えることばや、自らことばを知ろうという意欲は育ちません。

大事なのは、ことばを詰め込む教育よりも、家庭で子どものことばのチカラを伸ばしてあげること。親のことばかけや親子の会話のしかたで、子どものことばを知ろうとする意欲や探求心といったものが変わってくるのです。

語彙を増やすには?

イギリス人のサリー・ウォード氏は、赤ちゃんに1日30分語りかける「語りかけ育児」を提唱しました。語りかけることで子ども達の心と知能の発達に驚くべき効果が立証されました。子どもの言語能力&知能を確実に伸ばす方法として、イギリス政府が推奨を決定しています。

わたしは、2009年に『言葉の発達に差がつく 語りかけ育児実践ルール』(宝島社)を出版し、「語りかけ育児」を、日本のママやパパたちが日常生活のなかで実践できるように、シーン別に具体的なことばにして0〜3歳児をもつご家庭向けに紹介しました。

ことばを獲得するには、一方的に刺激を与えてことばを覚えさせようするのではなく、親が子どもに優しく語りかけ、子どもの表情やしぐさをよく見て会話をすること。自分が話しかけると親が応えてくれるから、子どもは人とコミュニケーションするのが楽しくなります。そのなかで子どもは、親に愛されているという実感がはぐくまれ、その結果情緒が安定して、何ごとにも意欲的になって、ことばの発達も促されます。

自分にしっかり向き合ってくれる、という安心感があるから意欲と自尊感情の土台ができるのです。

日本の童謡や、美しい日本語に触れさせること。また読み聞かせをしたり、ことば遊びをしたりしながらことばに興味をもたせること。以前ご紹介した語彙力を育てるワークなどを参考にして、楽しくことばのチカラをつけていってあげてくださいね。


高取しづか
高取 しづか (たかとり・しづか)

NPO法人JAMネットワーク代表・「ことばキャンプ」主宰
消費者問題・子育て雑誌の記者として活躍後、1998年渡米。アメリカで出会った仲間や日本の友人とJAMネットワークを立ち上げた。「子どもの自立トレーニング」をテーマに新聞・雑誌・本の執筆や、各地で講演活動を行っている。神奈川県の子育て支援の委員をつとめ、子育てや教育の現場で支援にあたっている。また、東京都と神奈川県の児童養護施設で社会貢献活動を行っている。おもな著書に『子どもが本当に待っているお母さんのほめ言葉』(PHP研究所)、「子どもに英語を習わせる親が知っておきたいこと』(アルク)、『実用絵本 ことばキャンプ』1〜5(合同出版)、『イラスト版気持ちの伝え方』(合同出版)、 『コミュニケーション力を育てる 実践ことばキャンプ』(主婦の友社)など多数。近著は『ダメッ!って言わない 子どもへ good アドバイス』 全3巻(合同出版 )。


 

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