成長は、“自分に期待を寄せること”からはじまる(後編)_2016.3

2016年3月29日

カテゴリー : 教育情報全般

「原体験から当事者意識を得ること」、そして「当事者同士で解決していく」ことの重要性を説く、一般社団法人リディラバの代表理事・安部敏樹さん。後編は、これからの未来を拓いていくのにどのような能力・スキルが必要なのか、さらに詳しく伺います。

 

「当事者同士で決める」体験を培った幼少期

――東大への再受験、学生起業、また大学に入学して間もなくマグロ漁に参加するなど、安部さんのアクティブな部分も活動の原動力になっているように思います。どこで培われたものなんですか?
子どもの頃から不思議と行動力だけはありましたね。それに加えて思い出すのは、小学校1・2年の時に担任だった男性教諭のことです。
授業の時間割をすべて生徒たちで決めるよう促されました。年間で学ばなければいけない授業のコマ数は決められていたけれど、それを配置するのは生徒の自由。道徳や体育だけが続くこともあれば、国語ばかりの1週間もある。小学1年生というと、まだ学校に慣れるかどうかという時期なのに、すでに自分たちで考えなければいけない。非常に印象に残っています。
――国語ばかりで1週間! 非常にユニークな先生ですね。
こんなこともありました。体育の時間にクラス対抗のドッジボールをしたのですが、ほかのクラスが「心を1つにしよう! エイエイオー!」とやってるときに、その先生が「40人もクラスメートがいて、そんなすぐに心を1つになんてできないから、戦略を共有することに注力しよう」と言ったんです。結局僕らはブロックサインを決めて敵チームに圧勝しました(笑)。
大人と子どもの関係性というよりも、対等に話ができる先生でした。小学1年生の僕らに、自分で考え、クラスメートと話し合い、あとは当事者同士で決めていく機会を提供してくれて、それは今のリディラバのコンセプトに通じる部分があると思います。

 

未来を拓くリーダーシップスキルとは?

――ところで、安部さんは「未来を拓く力」を、どのようにお考えですか?
一言でいえば「課題設定能力」、言い換えれば「問いをつくる力」です。 社会課題はこれからも絶対になくなりません。人は相対的な差があると、それに問題意識を感じてしまうからです。だから社会課題の“解決”はこれからもずっと求められ続けていくでしょう。では、そもそも僕らが口々に言っている「課題」とは何なのか。それは「理想の状態と現状のギャップ」だと思います。

安部さんの考える「課題」。理想の状態と現状のギャップこそが「課題」であると考える
安部さんの考える「課題」。理想の状態と現状のギャップこそが「課題」であると考える

多くの社会課題解決の活動は、現状分析し、それに対しての解決策を働きかける状態にとどまってしまっています。しかし「本来理想とされる状態が何であるか」を知ることこそが重要で、そしてそれは人によって異なるため、当事者同士の合意形成が求められます。
合意形成を達成するにはスキルがともないますが、それは機械に代替されません。当事者全員の理想状態を合意形成することは、まだまだ人工知能には難しいと思います。
――合意形成に求められるスキルとは、どのようなものだとお考えですか?
ファシリテーション能力、コミュニケーション能力、言語活動、チームビルディングなど、さまざまです。特にチームビルディングに関しては、4つのリーダーシップが必要だと思います。
合意形成のための「4つのリーダーシップ」(出典:『いつかリーダーになる君たちへ』(安部敏樹/日経BP社) ※P・ハーシーとK・ブランチャードの「SL理論」をもとに、安部さん作成の図を引用)
合意形成のための「4つのリーダーシップ」(出典:『いつかリーダーになる君たちへ』(安部敏樹/日経BP社) ※P・ハーシーとK・ブランチャードの「SL理論」をもとに、安部さん作成の図を引用)

基本的に人はチームのなかに入れば「参加的リーダー」となります。自分と他者の差があまりない状態で、その関係性のなかで合意形成を図っていく。しかし人より経験豊富になれば「こうなるはずだから、こうやってみよう」ということがわかってくる。これが「説得的リーダー」の状態。歩兵から騎馬兵になるイメージです。
さらに進めば「委譲的リーダー」、すなわち組織をどうつくるかという話に進化し、最終的には「教示的リーダー」として、みんなで解くべき問いやコンセプトをつくる「課題設定」の段階に至ります。 最終的には教示的リーダーシップをめざすのですが、最初からそれをできるはずもありません。だから「参加的→説得的→委譲的→教示的」とステップアップしていく。
一度だけならその分野での教示的リーダーシップを発揮できるかもしれませんが、もっとマクロな視点でスキルを発揮できるようになるには、もう一度、別のチームに「参加型」から介入し、何度でもこのサイクルを繰り返さないといけない。
自分を相対化して「なぜ自分がその役割にいるか」、そのうえで「どうアクションするか」を“メタ認知”(自分自身を客観的に見ること)と言いますが、メタ認知をして振り返りを行うことで、理想状態を他のメンバーに広げる合意形成のスキルが養われていくのではないでしょうか。

 

自分以上に自分に期待してくれる人はいない

――最後に、中高生・保護者に向けたメッセージをお願いします。
僕がずっと自分に課していることは「自分で自分のことを嫌いにならない」ということです。裏を返せば「自分に対して、自分以上に期待してくれる人はいない」ともいえます。
どんな先生や親でも、大小問わず「勝手に」期待を寄せてくるものです。もちろん他者の期待に依存することは生きていくうえではとても大事なんですが、その期待に寄りかかりすぎては自分が保てなくなってしまいます。最後は、自分自身でどれくらい自分に期待できるかを決めてあげたほうがいい。つまり、期待値を下げないということですね。
「ここまででいい」と自分にストップをかけて“減算”するよりも、ほんのちょっとでもいいから「自分はできるんだ」と“加算”してほしい。1年後、「1.01の365乗」と「0.99の365乗」をくらべたら、どれだけの変化があるか想像してみてください。その姿はまったく変わったものになっているはずですから。

 

プロフィール
安部 敏樹(あべ・としき)
一般社団法人リディラバ代表理事 1987年生まれ。一般社団法人リディラバ代表。東京大学在学中の2009年に「社会問題解決のプラットフォーム」リディラバを設立。600名以上の運営会員と150種類以上のスタディツアーの実績があり、3,000人以上を社会問題の現場に送り込む。総務省起業家甲子園日本一、学生起業家選手権優勝、ビジコン奈良ベンチャー部門トップ賞、KDDI∞ラボ第5期最優秀賞など受賞多数。
東京大学大学院総合文化研究科の博士課程では脳と社会論のインタラクションの研究に取り組む。「マグロ漁師」としての顔も持つ。著書に『いつかリーダーになる君たちへ』(日経BP社)がある。

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