各分野で第一人者と称せられる地位にのぼりつめられた方のおっしゃることには、共通項があるように感じます。たとえばある将棋の名人は「将棋だけをやっていても名人にはなれない」という意味のことを力説されていました。将棋の名人ですから将棋の勉強はもちろんものすごく大事です。ただそれだけでは強くはなれても名人にまでは手が届かないそうです。
それ以外の勉強が非常に大切である。

落語界の重鎮も同じことをおっしゃっていた。優れた落語を演じようということで落語の稽古ばかりしていては行きづまる。ときには落語とは全然関係のない難しい本を読んだりして、他の分野の勉強も欠かさないようにしないといけない。そうした努力が落語に深みを与えるというのです。
さらにマンガ界の巨匠も同じことをおっしゃっていました。面白いマンガを描くために他の人のマンガを参考にしたりしていてはとても大成しないというのです。

これ、勉強にあてはめるとどういうことになりますか?
たとえば国語の勉強をするとしますね。教科書を丁寧に読む。問題集を熱心に解く。りっぱなことですが、これは要するに国語力をつける努力を国語という科目の範疇だけでしていることになります。将棋の勉強だけしている棋士、落語の勉強だけしている落語家、マンガだけから学んでいるマンガ家と同じですね。
力はつくでしょう。力はつくでしょうがトップ集団には届きません。

国語力のある生徒がどれだけ多彩なものを読んでいるか。どれだけの古典――夏目漱石などですが――を読んでいるか。私は生徒たちと長年話しているのでよくわかっています。夏目漱石、坂口安吾、太宰治、芥川龍之介などをさらりと愛読書にあげる生徒がときどきいる。例外なく成績がいい。
どうしたら国語がうんとできるようになりますかという質問の背景には、国語を国語の中だけで何とかしたいという発想があり、その発想では残念ながらトップまでのぼることは難しいと思います。

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著者プロフィール

長野正毅先生

Z会進学教室渋谷教室長。
80年代より小・中・高校生(大学受験生)の学習指導に携わり、
97年よりZ会の教室に講師として勤務。担当は国語。
受験国語にとどまらない確かな指導は、生徒はもちろん、保護者からの絶大な支持を集める。

30余年にわたる指導において先生が目撃してきた
できる子の学習法
できる子を育てる家庭の秘訣
について綴ったブログが大人気(日本ブログ村「高校受験」カテゴリーで1位)。
2015年にはブログの記事を集めた書籍「励ます力」を出版。