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<子どものココロジー>

競争心が弱い子・すぐにあきらめる子

子どもの心のそのココロは? 子どもの行動の裏側にある心理を知るコーナーです。
(Z会小学生コース保護者向け情報誌『zigzag time』2014年7月号)

【2015年3月26日】


 
 

今の子は 競争心が弱くなった?

        イラスト・根岸麻衣子

 「最近の子どもには、競争心や向上心があまり見られない」といわれることがあるようですが、それは本当なのでしょうか。いつの時代も子どもは自分たちをとりまく環境からの影響を受けて育ちますので、昔と比べれば確かに競争心が弱くなったように見えるのかもしれません。というのも、まず、学校現場が変わりました。順位をつけないなど、評価方法などにおいても他者との競争心をあおらないように配慮しています。
 また、養育者の意識も変わりつつあります。幼児(0歳から6歳まで)をもつ母親を対象に行われたある意識調査(2010年)では、子どもの将来に対して期待することとして、「自分の家族を大切にする人」と「友だちを大切にする人」が70%を超えて上位でした。3位に選ばれているのは、「他人に迷惑をかけない人」で63.6%なのですが、4位の「仕事で能力を発揮する人」になると、20.4%に減り、最下位の「リーダーシップのある人」は7.1%でした。この調査は2005年にも行われているのですが、順位に大きな変化は見られません。このことからは、幼児をもつ母親の多くが、子どもに対して競争心よりも人とのかかわりを重視していることがわかります。もちろん子どもの年齢が上がるにつれて、母親の期待の方向性も変化するでしょう。しかし社会的成功よりも家族や友人を重視するという傾向が急に変わるものでもないはずです。
 ところで、運動能力検査のなかの一つの種目に、「体支持持続時間」というものがあります。子どもの両側に跳び箱などの台を置き、それぞれの台の上に両手を置いて腕だけで体を支えさせて持続時間を測るものなのですが、1986年以降、現在も下がり続けているのです。その原因を調査した結果からも今の子どもたちの特徴が見えてきます。
 その調査では、20秒間持続できなかった子どもたちを集めて再度測定するのですが、そのときに、今度は「1分間がまんしてください」と時計を見せながら計測します。そうすると3分の2の子どもが1分間以上がまんできたと報告されました。このことは、長く続けられない理由が、腕の力の衰えというよりも、むしろ限界までがんばっていこうとする気持ちや、心のねばり強さの低下と関連していると考えられます。競争を求められなくなった教育環境において、これは自然な現象なのかもしれません。
 しかし一方で、先が見えない世の中を生きていくためには、競争心や向上心をもってがんばれる子になってもらいたいと思うのも親心だと思います。親の本音としては、人との調和を求めながらも、わが子にはもうちょっと競争心や向上心をもってもらいたい、というところなのかもしれません。

競争心が弱いことは いけないこと?

 お子さんが「競争や順位を全然気にしない」とか、「負けても悔しがらない」ということを気にされる親御さんは少なくありません。3年生くらいまでは、まだ勝ち負けや順位ということにピンと来ていない子も多く、ほかの子どもと比較するよりも、自分が前よりもできるようになったことに対して満足しているのかもしれません。また、心が優しくて、人にすぐ勝ちを譲ってしまう子もいますが、そのような子は共感しやすく、相手の思いを感じやすいのでしょう。おっとりとした性格で、のんびりと育った子は、勝ち気な子の激しさに、どうしてそんなに闘争心をむきだしにするのかよくわからないため、たじろぐ場合もあります。しかし、すぐに人に譲ってしまうとしても、自分なりの遊びができていたり、勝気な子とも一緒にそれぞれの役割を担って遊べているようならば、問題ありません。
 競争心のあるなしは、性格やきょうだい関係など育った環境が影響するので年齢によってそれほど変化するものではありませんが、のんびりとした子でも、自分からやりたいことを見つけたときには、「これだけは負けたくない」という気持ちは芽生えてくるものです。しかし、「○○ちゃんみたいにがんばって」とか、「○○くんに負けるな」など、常にだれかのことを意識したり比べたりしていると、子どもは周りの人のことばかりが気になって、やるべきことに集中できなくなったり、努力もせずにただ負けたことを悔しがったりするようになります。そして、人と比較することでしか自分のことを評価できなくなってしまいます。競争心は、「もっとできるようになりたい」という気持ちを高めるためには有効に作用しますが、一方で、負の効果をもたらすこともあるのです。むやみに競争心をあおることよりも、意地やこだわりをもてる何かを見つける手助けをするほうが、よい結果を生み出す場合もあるでしょう。

小さな目標をクリアする 経験の積み重ねを

 だれかと競いあうのではなく、自分が興味やこだわりをもったことをがんばったり、もっと上をめざしたりするのは大事なことです。しかし、がんばるのは最初だけで、すぐにあきらめてしまうことも子どもにはまだよくあることです。
 こうした状況を改善するには、少しずつ目標を立てて、それを達成していけるようにサポートしてあげるといいでしょう。行きづまっているときに、そこであきらめないように手伝ってあげたり、やり方を教えてあげたりしながら乗り越えていく経験が大切なのです。子どもの性格にもよりますが、失敗してもけなさないこと、うまくできたらほめてあげる・認めてあげることも大切です。他人との比較や競争よりも、小さな目標をつくり、それを達成する喜びを得ること。段階を一つずつ上がるようなやり方で、できたことを確認しながら、子どもが、「自分はやればできる」と思えること。こうした経験から、結果的に競争心や向上心は育つものなのです。

 

文 塚崎 京子(つかさき・きょうこ)

お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士前期修了。白梅学園大学子ども学部および鎌倉女子大学児童学部等で非常勤講師。専門は発達心理学・保育学。

監修 無藤 隆(むとう・たかし)

東京大学大学院教育学研究科博士課程中退。お茶の水女子大学生活科学部教授を経て、現在、白梅学園大学教授。専門は発達心理学。

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