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折れない心を育てる (1)

 【2015年1月22日】

 

目次

 
【インタビュー】「レジリエンス」こそ 親が子に残せる最高の資産(1)
▶  今の子どもや若者は、嘆かわしいほど「打たれ弱い」!?
▶  レジリエンスの根底にあるのは自己肯定感(自尊感情)
【インタビュー】「レジリエンス」こそ 親が子に残せる最高の資産(2)
▶  親の手のなかにいるうちにたくさんの失敗体験をさせよ
▶  親の「立ち直りストーリー」が子どものよき道案内になる
【エピソード集】お子さまは打たれ強いですか? 「立ち直り力」にまつわるエピソード集(1)
▶  お子さまが落ちこんでいるとき、こんな対応をしています!エピソード
▶  こんなとき、お子さまの打たれ強さを感じた!エピソード
【エピソード集】お子さまは打たれ強いですか? 「立ち直り力」にまつわるエピソード集(2)
▶  こんなとき、お子さまの打たれ弱さを感じた・・・エピソード
▶  あのときこう声かけしていれば・・・エピソード

【インタビュー】「レジリエンス」こそ 親が子に残せる最高の資産(1)

 
 近年、教育・心理・医療・ビジネス分野などで「レジリエンス」という言葉を見聞きする機会が増えました。2014年4月にはNHKの報道番組が「レジリエンス」をテーマに取り上げるなど、次第に世間的な広がりを見せ始めています。
 「立ち直り力」「回復力」とも訳される「レジリエンス」。今、注目を集め始めている背景には何があるのでしょうか。そして、レジリエンスのある子どもを育てるために、保護者や家庭にできることはどんなことなのでしょうか。
 「レジリエンス」研究に精通していらっしゃる深谷和子先生に、お話をうかがいました。

                                                (取材・文 生沼 有喜)
 

今の子どもや若者は、嘆かわしいほど「打たれ弱い」!?

「レジリエンス」について語る深谷先生

――まず、レジリエンスとはどういうことなのか、教えていただけますか。

 もともと「弾性」「回復力」を意味する語として物理学分野で使われていましたが、近年、「落ちこみから立ち直る心の弾力性」「立ち直り力」といった意味で、教育やビジネスなど、人にかかわる多くの領域で使われるようになりました。

 きっかけとなったのは、1954年にハワイのカウアイ島で始まった「カウアイ研究」。当時、非常に貧しい島だったカウアイ島で、極度の貧困、親の精神疾患、離婚など、子どもの成長環境としてはマイナスの条件下に生まれ育った子ども約700人を40年間にわたって追跡調査した結果、その3分の1は普通の子ども同様、健全な発達を遂げ、社会に適応して生きていることがわかったのです。リスクや逆境にもかかわらず、よい適応を果たしている子どもと、そうでない子どもを分けたのは何だろうか――それは研究者たちの関心を呼び起こし、その後さまざまな分野で研究が行われるようになりました。また、強く長いストレスの影響を受けた子どもでも、後から精神的な健康を回復できる、立ち直りは可能であるという発見は、子どもの成長や発達の見方を大きく転換したのです。

――昨今、レジリエンスという概念が日本でも一般に広まってきた背景には、どのようなことがあるとお考えですか。

 今の世の中、不安定要素が多いでしょう? 異常気象や経済不安など、「この先何が起こるかわからない」という不安を、だれしもが感じている。そうしたなかで、親たちは当然、「どうしたら子どもを守れるだろうか」と考えるわけです。しかし、親が死んだ後はどうなるのか。生きている間だって、親の目の行き届かないところで、子どもがいじめや犯罪などのトラブルに巻き込まれて傷つくかもしれない。親や学校が子どもを守るには限界があることに、人々が気づき始めたのだと思うんです。

 ではどうしたらいいのか。子ども自身に困難を切り抜けていってもらわなくちゃいけないんですよ。困難な状態にあっても「折れない心」を持ち、しなやかに立ち直ることのできる子どもをどうやって育てていくかということが、これからの日本の教育の大きな課題なのです。

 ところがね、わたしが教えている大学でも、学生が教育実習に行くときに、指導教官が幼稚園や保育園側に「あまり厳しく指導しないでください」って依頼されるのですって。ちょっと厳しく指導されるとめげちゃって、「もう保育士になるのはいやだ」「幼稚園の先生はやめる」と言い出すからだ、と。それだけ今の子どもたち、学生たちは打たれ弱い、レジリエンスが育っていないという、嘆かわしい現実があるのです。

レジリエンスの根底にあるのは自己肯定感(自尊感情)

――具体的には、どうすればレジリエンスを育てることができるのですか。

 レジリエンスを育てるためには、次にあげる5つが重要だと考えています。

レジリエンスを育てるために大切なこと

1.自己肯定感(自尊感情)を育てる
2.愛し愛されることができる子どもに育てる
3.友だちとのかかわりをもてる子に育てる
4.多様な体験をもつ子に育てる
5.目標(志)をもつ子に育てる
 なかでもいちばん重要で、いわばレジリエンスの中心、根底にあるのが「1.自己肯定感(自尊感情)」なんですね。これがきちんと育っているかどうかが、2.〜5.にも連動してきます。ところが日本の子どもたちは、国際比較調査をしても、圧倒的に自己肯定感が低いんですよ。以前、わたしの大学の学生たちに回答してもらったアンケートの結果を見ましても、「どちらかというと、人間としての自分を好きである」という問いに対して、「あまりそう思わない」が53・6%、「そう思わない」が9・5%と、6割もの学生が「自分を好きではない」「自分を愛していない」という結果が出ました。

――原因は何なのですか。

 「自分はどういう人間か」という自己概念は、周りの人が決めてくれるものなんですね。いちばん身近な周りの人は親や家族。その親や家族が、その子のよい部分だけじゃなくて、ダメな部分も含めてまるごと、ありのままを愛してあげることで、子どものなかに自己肯定感が育つんです。ところが今の子どもは、小さいうちから競争にさらされているでしょう? 学校でも塾でも習いごとでも比較されて、「ものさし」で評価されて、傷ついているかもしれない。そのうえ家庭にまで競争感覚が持ちこまれたら、どこで自己肯定感を育てられるというのでしょうか。

 わたしが子どものころは、子どもも重要な労働力でしたから、親たちは子どもを家族の役に立つかどうかという尺度で見ていたんですね。家の手伝いをすれば、「おかげで助かった。ありがたい」と親や家族に喜んでもらえた。「自分はだれか(家族)のために役に立てた」という体験は、子どもの自己効力感(「自分はできるんだ」)をはぐくむうえで非常に大事なことなんです。

 今の親は、「子どもが、お手伝いしてくれて助かった」という思いをあまりしていないのではないかしら。子どもはいつまでたっても未熟で、自分がめんどうを見てあげなければいけない存在だと思っている。それでは子どもだって、自己効力感や自己肯定感を育てることはできませんよ。

 ですから親御さんたちにはぜひ、子どもが家族のために役に立てる機会を意図的に作ってあげてほしいと思うのです。「あなたのおかげで助かった」「そんなことができるなんて、すごいな」と言ってあげられるチャンスをたくさん作ってください。ここは親の知恵の見せどころですよ。

深谷和子(ふかや・かずこ)先生

1935年東京都に生まれる。東京教育大学(現・筑波大学)心理学科卒業後、同大学院教育学研究科博士課程修了。専攻は、児童臨床心理学、児童社会学、女性論。東京学芸大学教授、東京成徳大学人文学部教授、同心理・教育相談センター長などを経て、現在、東京成徳大学子ども学部講師、東京学芸大学名誉教授、金子書房『児童心理』編集代表をつとめる。各地の教育委員会やPTAなどで行われる「いじめ」「子どもの虐待」「不登校問題」「レジリエンス」をテーマにした講演会講師としても活躍中。
おもな著書に『「いじめ世界」の子どもたち――教室の深淵』『遊戯療法――子どもの成長と発達の支援』(金子書房)などがある。


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