特集

イメージ

印刷

<特集>

家庭で磨く言語技術 (1)

 【2015年3月26日】

 

目次

 
【インタビュー】言語技術は良好な人間関係につながる(1)
▶  ものごとを論理的に理解し、わかりやすく伝える技術
▶  問題を整理し、考え、訴えられる だから気持ちの安定につながる!
▶  現代の引きこもりの背景に 言葉のスキル不足がある!?
【インタビュー】言語技術は良好な人間関係につながる(2)
▶  家庭では「なぜ?」を心がける 質問は具体的に!
▶  「別に」「わからない」はダメ! 察しの悪い親になる
▶  絵本の分析や「問答ゲーム」を実践し、親子で論理的思考を身につける

【インタビュー】言語技術は良好な人間関係につながる(1)

 
 「わかったかな?」教師の問いかけに、うんともすんとも言わない子どもたち。感想を聞いても、「別に」「微妙」「普通」。たまに口を開くと、要領の得ない説明や、右へ倣えの答えばかり・・・。
 人間は言葉を使って考え、コミュニケーションをとります。その「言葉の力」が現代っ子には不足していると、多くの識者が指摘しています。先のような光景を目にして、「確かに」と思ったことのある保護者の方も多いのではないでしょうか。
 今回は、言葉を使って論理的に考え、良好な人間関係を築くことにつながる「言語技術」を紹介します。「言語技術」の第一人者である三森ゆりか先生に、習得することの意味や家庭での磨き方を教えてもらいましょう。
 親子の信頼関係を築くためにも、お子さんが上手に社会とかかわっていくためにも、きっと役立つ技術です。

                                                (取材・文 松田 慶子)

ものごとを論理的に理解し、わかりやすく伝える技術

――言語技術とはなんでしょうか。

 言葉を使い、自分なりに考えをまとめて、わかりやすく伝える技術のことです。これには、読んだり聞いたりした話の要点を的確につかむ力、自分の意見をわかりやすく理路整然と話して、書く力、そして論理的に考察して、持論を組み立てる論理的思考力などが含まれます。こういった言葉を媒体にして行われる行為の一つひとつを、言語技術ということができます。これらの技術を駆使して、わたしたちはものごとを理解したり、人とコミュニケーションをとったりしているのです。

――言語技術を身につけることには、どんな意味がありますか。

 ひとことでいうなら、心が豊かになります。社会を深く理解し良好な人間関係を築くことができるからです。たとえば小説を読むとき。なぜこの主人公はこういう行動をしたのか、根拠を探し自分なりに分析することで、登場人物の心情を理解したり、書き手の真意に迫ることができます。これは対象が絵画や音楽でも同様です。たとえばゴッホがかいた『星月夜』を観て、「星がにぎやかに揺らめいて見える。星が点で描かれていて、輪郭があいまいになっているから揺らぎを感じるのだろう。対して、建物は線でしっかり輪郭が描かれているから静寂さを感じる」というように、深く味わうことができるのです。これは、実際に言語技術を勉強している小学2年生が分析した言葉なんですよ。

――絵を鑑賞するのも、言語の技術を用いる?

 そうです。頭のなかでものごとを考え、自分の意見として理解するためには、結局のところは言葉が必要だからです。

言語技術の具体例

以下のような、言葉を使って行う活動の一つひとつを言語技術ということができます。

1.話す技術2.聴く技術3.書く技術
4.読む技術5.論理的思考の技術6.論証の技術
7.推論の技術8.説明の技術9.描写の技術
10.討論の技術11.主張の技術12.交渉の技術
13.説得の技術14.発表の技術15.分析・解釈の技術
16.批判の技術(批判的思考)  

参考:『論理的に考える力を引き出す』(一声社)

問題を整理し、考え、訴えられる だから気持ちの安定につながる!

――良好な人間関係とは?

 相手が言わんとしていることの要点をつかみ、自分の意見もわかりやすく提示できれば、人と深く理解しあえますね。状況を分析し、その場の状況に合わせた行動をとることもできるので、人とのほどよい距離もとりやすくなります。

――実生活で実感しやすいメリットはありますか。

 論理的に思考し、筋道を立てて自分の意見を発信するスキルが、社会で活躍するうえで有効であることは疑問の余地もないでしょう。とくに欧米人と話すうえでは、必須のスキルです。欧米では学校教育の中で言語技術を教えているので、彼らは子どものころから、自分で考察し、論理的に説明する練習を重ねています。意見を求められたとき、「なんとなく」では、相手にされません。国際化が進む今、この技術を身につけておく必要性は高いと言えます。
 もう一つ、言語技術は、気持ちを安定させるうえでも役に立ちます。

――どうしてですか。

 なにか問題を抱えたときに、自分の気持ちを分析し、整理できるからです。悩みを適切に表現することもできるから、1人で抱えこまずにすむ。自分の気持ちを表現するための言葉をもっていないと、なにが問題なのか自分でもわからないし、人に助けを求めることもできませんね。

現代の引きこもりの背景に 言葉のスキル不足がある!?

――日本の学校では、言語技術は教えないのでしょうか。

 学校では教えていません。それでもひと昔前までは、日本にも自由に議論を交わす文化があり、自然に言語技術を身につけた人は多かったと思います。しかし近年、人の目を気にして口を閉ざす風潮が色濃くなりました。とくにこの10〜15年は、言語技術が育たない環境になったといえます。

――確かに現在は、小学生どうしでも空気を読むことが求められます。大勢と違う意見を言う子どもを、「KY」といって仲間はずれにする動きも・・・。

 異なる意見を受け入れず、ときには人格否定をしてしまう。それが引きこもりを生み出すことにもつながっていますね。
 実は引きこもりは、欧米ではほとんどいないんですよ。「引きこもり」に相当する言葉が英語にはないので、イギリスの英語辞書に「引きこもり」と、そのままの言葉で載っているほどです。なぜいないのかというと、欧米人は言語技術を学ぶ過程で「違う意見があるのはあたりまえ」とわかっているからです。意見の食い違いが感情論にはあまり発展しません。
 その一方で日本の学校教育の現場では、意見をぶつけあっていたつもりが、感情論になってしまい、結果としてお互いを傷つけあってしまう。このため自分が否定されているように感じたり、まちがっていると思いこんだりしてしまい、結果として自分の意見を言わなくなってしまう、ということが多いのではないでしょうか。現代の日本の学校でこそ、言語技術を教える必要があると思います。

――これからでも、身につきますか?

 トレーニングすることで、高校生や大学生でも言語技術が身につき、海外で活躍したり、ゼミのような議論の求められる場面で高い評価を受けたりするケースは数多くみますよ。ただし、小さいころから訓練を積む方が身につきやすいのは確かです。
三森ゆりか先生
三森ゆりか(さんもり・ゆりか)先生

つくば言語技術教育研究所所長。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒。商社勤務を経て上智大学大学院中退。中高の4年間を旧西ドイツで過ごした経験、および商社勤務時代に海外の人との交渉に立ちあった経験から、言語技術の重要性を痛感。ドイツ式の言語技術教育システムを参考に独自でカリキュラムを考案し、1990年に上記研究所を開設。これまで幼稚園児から高校生まで、約1000人の生徒にトレーニングを実施してきたほか、およそ10校の小学校〜高校でも指導。日本サッカー協会が開校したJFAアカデミーでも指導している。著書に『論理的に考える力を引き出す―親子でできるコミュニケーション・スキルのトレーニング』(一声社)ほかがある。


 

ページの先頭へ

お役立ちトピック