連載

イメージ

印刷

<ブックトーク 心を語る子どもの本>

『ふわふわしっぽと小さな金のくつ』

優れた子どもの本は、大人になってから読んでも、変わらずわたしたちの心の奥深くに届くもの。そんな選りすぐりの作品たちをご紹介いたします。

【2015年4月9日】


 
 

『ふわふわしっぽと小さな金のくつ』

デュ・ボウズ・ヘイワード 作/マージョリー・フラック 絵/羽島葉子 訳/パルコ出版/1,553円(本体価格)

  イースターの前日の晩から世界中をまわり、子どもたちに美しいイースターエッグを届けるイースターバニー。その大役を任されるのは、選ばれし5匹の――心がやさしくて、足が速くて、おまけにとても賢い――うさぎたちです。いなかうさぎの女の子「ふわふわしっぽ」は、このイースターバニーに選ばれることを幼いころから夢見ていました。りっぱな体躯をもつまわりのうさぎたちは、この小さな女の子の夢を笑い飛ばしましたが、ふわふわしっぽはきっぱりと言い放ちます。「いまにわかるわ!」

  主人公が結婚し母親となったあとに、かつて懐(いだ)いていた壮大な夢を叶えていくという展開が斬新です。快適な住まいを設(しつら)え、生きるために必要なことを根気強く子どもたちに教えるという母親の務めこそ、最も重要で、なおかつ大いに労力を要する仕事であるには違いありません。しかし、そうした母親業を真っ当に評価する絵本が数多く描かれる一方で、母親本人の自己実現を賞賛したものはあまり見られないのではないでしょうか。

  イースターバニーに選出されたふわふわしっぽは、その賢明で愛に満ちた子育てと家庭運営の手腕をかわれ、最も大切で、しかし困難な仕事を一任されます。それは、雪と氷に覆われた険しい山の頂に住む、病気で寝たきりの男の子にイースターエッグを届けるという務めでした。3つの山を越えても、まだたどりつけないその場所へと、全力で急ぐふわふわしっぽ。しかし、最後の難関であるそそり立つ山を目の前にして、力尽きてしまいそうです・・・。

  前半はパステルカラーの色彩で春の華やぎを伝えていた画面。しかし、後半は一転、青みがかった墨色の月夜へと変わります。銀色に輝く新月の冴えた美しさ、白み始めた曙の空を染めていくサーモンピンク、その暖かなピンクと、雪の冷えた白がみせる幻想的なコントラスト。ふくらみはじめたりんごの花の蕾は、みずみずしくたおやかで、夜明けを待たず、すぐにでも花開きそうです。美しい配色と正確なデッサン力が際立つマージョリー・フラックの絵は、物語のスケールを大きく拡げます。そして、読者の心を、主人公のうさぎと共に彼方へ飛翔させるのです。大きな仕事をやり遂げたふわふわしっぽは、子どもたちの待つ家へと急ぐのですが、この場面から、またやわらかなパステルを基調とした画面に戻り、母親であるふわふわしっぽの日常が無事に戻ってきたのだとわかります。子どもたちは、お母さんが留守の間も、しつけられたそれぞれの役割をきちんと果たしていたので、家の中は隈無く片付いていたのでした。

  明解なテーマ、健全なる主人公、そして愛らしい絵――3拍子揃った、子どもの本としては無敵の強さを誇る絵本です。カバー全体を覆うサーモンピンクもそこに一役買っているでしょう。それは、ふわふわしっぽが着ているワンピースの色であり、物語のクライマックスで空を彩る曙色でもあります。母親として前向きに生きながら、幼い頃の夢を諦めない強さをも兼ね備えた主人公。その人生を温かく応援するはつらつたるサーモンピンクだと感じました。

吉田 真澄(よしだ・ますみ)

「国語専科教室」講師。子どもたちの作文、読書指導を行いながら、読む本の質と国語力の関係を追究。児童書評を連載するなどの執筆活動に加え、子どもと本に関する講演会なども行う。近著は『子どもファンタジー作家になる! ファンタジーはこうつくる』(合同出版)。


ページの先頭へ