連載

印刷

<ことばのチカラで自立しよう>

子どもの自尊感情を高めるには(1)

わたしは自分の気持ちや意見をことばにして伝える練習「ことばキャンプ」を主宰しています。ことばキャンプは度胸力、論理力、理解力、応答力、語彙力、説得力、プレゼン力の7つのチカラのトレーニングで、相手の気持ちに配慮しながらも自分の気持ちを適切に表現できるチカラを育てることをめざしています。

このコラムでは、そんなことばキャンプのエッセンスやエピソードをお伝えします。ことばによって考え、人とよりよくかかわっていくチカラを身につけていきましょう。

【2016年4月28日】


 
 

世界でも低い日本の子どもの自尊感情

自分を伝えられるようになるには、自分には伝えるべき価値があると思えることが必要です。それは「自尊感情」がベースになります。自分を伝える練習をすると、さらに自信がついて発言できるようになってきます。わたしは「ことばキャンプ」をやってきて、自尊感情と自分を伝える練習には相関関係があることに着目してきました。

今回から、子どもの自尊感情はどのように高まるか、ことばキャンプの実践例を交えながら親や大人のかかわり方やコミュニケーションのとり方について、お話ししていきますね。

自尊感情とは、自分を好きだと感じる気持ち、大切に思える気持ちです。自分のよい面も悪い面も含めて、自分を受け入れ、認めるという概念です。

よく使われる「自己肯定」は自分のよい面を認めるということで似ていますが、「欠点も含めて自分を大切に思えるか」という点が違います。

先進国の中で、日本の子どもの自尊感情は極端に低いことが、「高校生の心と体の健康に関する調査」(財団法人日本青少年研究所)で明らかになっています。また、ユニセフの研究所が行った先進国の子どもたちの「幸福度」を測る調査では、子どもの主観的な幸福度の中で「孤独を感じる」と答えた子どもが約30%と、他国の5〜10%に比べて突出しているのが特徴的です。

なぜ日本の子どもの自尊感情が低いのでしょうか。

その理由について、児童精神科医の古荘純一先生は著書『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』(光文社文庫)の中で、「日本では一人ひとりの個性は後回しにされがちで、自分なりのがんばりが評価されにくいシステムであること、親自身も自尊感情が低く社会全体で将来への不安を感じているからでは」と指摘しています。
 

一般に、自尊感情が低い子どもは、暴力的、やる気がない、友だちとうまくいかない、自分で判断できない、など気になる様子が報告されています。また、いじめや引きこもりにつながっていくことも指摘されています。

いわゆる「普通の子」であっても自尊感情が低く、心配な状況にある子どもがたくさんいます。「うちの子はだいじょうぶ」と思っていても、親が思う以上に自尊感情が低いというのもよくあることです。

自尊感情は、人が生きていくうえで必要な心理的基盤であり、精神的に健康に生きていくための必要なすべての土台です。意欲的になってやる気を出せるのも、苦しいとき前向きに乗り越えていけるのも自尊感情が高いとできること。つまり、自尊感情は将来にわたり生き抜いて行くチカラに密接につながっていきます。

 


子どもの話をさえぎらずに聞く

では、自尊感情を高めるにはどうしたらいいでしょうか。

よく自尊感情を育てるには「ほめましょう」と言われます。

でもその前に大切なのが、子どもの話に耳を傾けること。子どもをありのままに受け止め、話をさえぎらず最後まで聞くことです。子どもの言ったことを、否定をせずに「そう考えたんだね」「そう思ったんだね」と受け入れることが必要です。

子どもを育てているときは、家事や子どものお世話、近所づきあい、習いごとの送迎など、忙しい日々を送っていらっしゃることでしょう。時間がないので、耳を傾けるより指示してしまったり、先に結論を言ってしまいたくなったりします。それでは、子どもは自分を受け入れられているとは感じません。

子どもに限ったことではありませんが、人は自分の話を聞いてもらうと、自分を尊重された感覚を味わいます。聞くことは相手の時間を大切にすることであるため、話し手は自分の存在が認められたと感じます。

子どもの自尊感情を育てるには、親の聞くチカラがポイントになってきます。詳しくはワークをご覧ください。

ここで、「ことばキャンプ」で実際にあったケースをお話しします。

小学5年生のA君は、軽度の吃音症で一言目のことばが出るまで時間がかかります。このため話をすることを避けていて、いつもうつむき加減で無口な少年でした。
ことばキャンプでは、毎回「スモールトーク」というワークをします。小さなグループに分かれて1分ずつ順番に話します。1分間は話し手の時間。話すことが苦手な子どもにも得意な子どもにも同じ時間を与えます。聞き手は「話している人の時間を大切にする」というルールでしっかり聞きます。
A君ははじめ、とまどいいやがっていましたが、みんながA君の話を聞いてくれるという安心できる場のなかで、少しずつ自分のことばで話すようになりました。はじめはとぎれとぎれでしたが、しだいにA君のなかに眠っていた気持ちや考えが出てきました。周りの子どもたちは、ふだん無口なA君の話す内容がおもしろく、楽しそうに聞いていました。受け入れて聞いてくれる場で、A君は心のなかにあることを話すことが楽しくなってきたようでした。吃音はあるものの、A君は話すことに抵抗感をもたなくなって、学校でも自信をもって発言をするようになっていきました。
半年くらいたってから、お母さんからうれしい報告を聞きました。
学校で行われたスポーツ大会の選手宣誓にA君が、立候補したというのです。そして見事にやり遂げました。自ら挑戦したA君の勇気にたいへん感動した、忘れられないエピソードです。

子どもの話によく耳を傾けること。子どもの存在をあるがままに受け入れ、肯定することで自尊感情が育ってきます。

子どもが言ったことがときにネガティブな場合もあるでしょうが、否定も肯定もせずに「そう思ったんだね」「なるほど」とまず受け止めてみてください。感じたことを素直にことばにできるようになっていきます。

子どもは大人が思っている以上に、世のなかのことを観察し、自分で考えようとしています。よくなろうとがんばる気持ちがもともと備わっています。話しているうちに、自分の頭の中が整理され問題解決の糸口を見つけられることもよくあります。大人が指図しなくても子どもが解決していくのです。

子どもの話を聞くうちに子どものことを理解できるようになり、親子のコミュニケーションも弾んできますよ!

 

ワーク:子どもの話を聞く時間を作ろう!

1日のうち10分でいいので、「ながら聞き」ではなく子どもと向き合い、子どもの話を聞く時間を設けましょう。
子どもに体を向け目を見て、あいづちを打ったりうなずいたりしながら、さえぎらずに最後まで話を聞いてみましょう。

高取しづか
高取 しづか (たかとり・しづか)

NPO法人JAMネットワーク代表・「ことばキャンプ」主宰
消費者問題・子育て雑誌の記者として活躍後、1998年渡米。アメリカで出会った仲間や日本の友人とJAMネットワークを立ち上げた。「子どもの自立トレーニング」をテーマに新聞・雑誌・本の執筆や、各地で講演活動を行っている。神奈川県の子育て支援の委員をつとめ、子育てや教育の現場で支援にあたっている。また、東京都と神奈川県の児童養護施設で社会貢献活動を行っている。おもな著書に『子どもが本当に待っているお母さんのほめ言葉』(PHP研究所)、「子どもに英語を習わせる親が知っておきたいこと』(アルク)、『実用絵本 ことばキャンプ』1〜5(合同出版)、『イラスト版気持ちの伝え方』(合同出版)、 『コミュニケーション力を育てる 実践ことばキャンプ』(主婦の友社)など多数。近著は『ダメッ!って言わない 子どもへ good アドバイス』 全3巻(合同出版 )。


 

ページの先頭へ