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<特集>

【対談】新しい時代の子どもの読書 (2)

教育心理学者・秋田喜代美先生(東京大学大学院教授)
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児童文学研究者・宮川健郎先生(武蔵野大学教授)

 【2016年9月22日】

 

21世紀を生きる幸せな「生涯読書人」を育てるためには?

 
「本を読みなさい」と言う前に
秋田 最近、いろいろなところで「本を読まない子ども対して、どうしたらいいですか」という質問をされるんですけれども、わたしは「本を読みなさい」と言う前に、図書館とか児童館とか、おもしろい活動をやっているところに親子で行ってみませんかとすすめているんです。図書館なら本はただで借りられますし、そこで自分の好きな本を選べる喜びとか、もちろん選ばない権利も読まない権利も保障されながら、いろいろな形で本と接する、そのプロセスが本との出合いにおいて重要なのではないかな、と。機会があったら、本の著者に会ったり、出版社や印刷所や製本所などで本ができあがる過程を見るのもすごくいいことだと思います。そもそも本がどうやって作られ、手渡され、どう、みんなで喜びあえるのかという一部始終を小学生ぐらいで経験できるのって、本と親しむうえで大事なことじゃないかしら。

宮川 読書の入り口として、まず本に触れる活動や場所を増やすことは大事ですね。

読むだけではない、さまざまな本の楽しみ
秋田 わたし、大阪市立図書館が開催している「書評漫才グランプリ」にはまっているんですよ。3分の間に一冊の本を漫才のやりとりで紹介して、それを「本を読みたいと思わせたか」「紹介のおもしろさ」「その他(インパクトなど)」の3つの基準で審査員が採点してグランプリを決定するんです。ほかにも川柳で「読書」を紹介するとか、各地の図書館でいろいろおもしろい取り組みをやっているので、親子で一緒に出かけていって、本には読む楽しさはもちろん、さまざまな楽しみ方があるんだということを感じてほしいなと思います。

宮川 本の楽しみ方ということでは、「本の帯コンクール」というのもあちこちで開催されていますよね。ぼくも大阪の読書推進会がやっている帯コンクールにかかわっているんですが、賞をとった作品は実際の帯として本に掛けてもらえるんですよ。

秋田 文章で伝えるのが苦手な子でも、絵がうまかったり、デザインセンスがよかったり、写真を撮るのがうまかったり、発想力が際立っていたりする子もいるわけで、帯だったりポスターだったりポップだったり、それぞれが多様なかたちで、自分が気に入った本を「この本のこういうところがおもしろいよ」「自分はこういうふうに読んだ」と表現できるって、素敵なことだと思いますし、その経験は必ず、その子を豊かにしていきますよね。

宮川 子どもの文化をいちばんよく知っているのは子どもですからね。本も読むだけじゃなくて、さらにそれを伝えることによって、「あの子がおもしろいと言っているなら、読んでみよう」みたいなつながりが生まれてくると、本の楽しみ方が広がってくるんじゃないかな。

秋田 「ブックメニュー」と言って、お話の中に出てくる献立を、図書委員会の子どもたちが選んで、給食に出してもらうということを潟上市天王小学校ではやっておられます。給食時間の放送で、その本の紹介をするんですって。

宮川 それはおもしろいなぁ。

秋田 本があまり好きじゃない子も、食べ物の話は嫌いじゃないから、そこから本に興味をもつかもしれない。本って、いろんなところに出合いのチャンスがあるんだなと思ったんです。

子どものころの読書は、豊かな将来に影響する
宮川 親御さんの中には、読み聞かせや読書を「学力をつけるもの」と位置づけている方もいらっしゃるようなのですが、秋田先生はどんなふうに考えていらっしゃいますか。

秋田 ある調査によれば、読み聞かせや読書と学力とは必ずしも直結しないという結果も出ています。しかし一方で、国語の問題集をいくらやっても、それだけでは国語力・読解力がつかないんですよね。やっぱり小さいときからの読み聞かせや読書が土台として必要になる。

宮川 話を聞いたり読んだりしながら、子どもの中に言葉が降り積もっていって、その言葉を構造化するのが国語という教科なのかもしれない。だからもとの蓄積がないと難しい。

秋田 ただ絵本なんかですと、たとえばいわむらかずおさんの「14匹のシリーズ」などは文字が読めない幼児でも楽しめるんだけれど、それだけじゃなくて、自然のよさだとか、登場する生き物たちの関係性だとかがなんとなくわかる。『ちいさいおうち』も、書かれた文字のその奥に何かを感じ取ることができる。登場人物の心情を読み取るとか、作者が伝えたい意図を読み取るとか、児童期に文字に書かれていない「行間」が読めるようになることが、実は生涯にわたるその人の態度の基礎部分になるんじゃないかなと思うんです。字を読むことや言葉を理解することだけが読書だと思っている方には、そのあたりを感じ取ってほしいところです。

宮川 優れた絵本というのはディテールがしっかりしていて、さまざまなことを投げかけてくれる。それを読み取るのもまた、絵本の楽しさですよね。

秋田 読書で何が育つのかという点については、独立行政法人 国立青少年教育振興機構の調査で興味深い結果が出たんですよ。就学前から中学生ぐらいまでの間の読書活動が多い成人ほど、意識、意欲、能力が高く、自信や自己肯定感、論理性、市民性、将来展望なども高い。まさに21世紀社会を生きるために必要な力ですよね。つまり読書には長期的な効用があって、子どものころの読書が成人になってからも影響することが明らかになったわけです。

夢中になれる本に出合う幸せを
宮川 最近、「生涯読書人」という言葉を考えついたんですよ。「読書習慣をもち、生涯にわたる生活のなかで目的や手段として本を活用する人のこと」って説明しています。では、その「生涯読書人」を育てるために、子ども時代にどんな準備が必要なのかを考えたら、小さいうちは本を読んでもらって、声を聴いて物語を受け取ることが楽しかったとか、読んでいる人や一緒に聞いている人と共有する感覚がうれしかったとか、それが原体験になると思うんです。やがて自分で読むようになっても、ある居心地のよい時間を確保して、集中してある物語世界に入り込むことができれば、いつでも原体験の場に戻っていける。そうなると読書というものが自分の核になって、「生涯読書人」の道を歩み始めるんじゃないかなと思うんですね。

秋田 前述の調査でも、中学生ぐらいまでの読書活動が多い成人は1カ月に読む本の冊数や1日の読書時間が長いという結果が出ていますし、小中学生までの読書活動で「忘れられない本」を持っていることと、成人になっても「本が好き」ということにつながりがあることもわかりました。本を読む習慣というのは、高校生ぐらいからでもつくと思うんですけど、読書が好きとか、言葉では言えないけれど本の価値というものを何か感じ取れるというのは、やはり小中学生の読書ならでは、なんですね。

宮川 どの子にも、夢中になってその世界を生きられる本に、1冊でも2冊でもいいから出合って、読書を幸せと感じる「生涯読書人」になってほしいなぁ。

秋田 そのためには、やはりある程度の読書量が必要だし、さまざまなジャンルに触れることも大事だと思うんです。えてして親というものは、自分の尺度で選んだ本を子どもに読ませようとするものですが、スポーツ選手のサクセスストーリーにはまる子もいれば、部活ものから本と出合う子がいたり、鉄道好きで鉄道図鑑から本の世界に入る子もいたりと、本との出合いのきっかけはさまざまですから、親のほうが意識的に間口を広くしておくことも大切なんじゃないかと思います。

宮川 本との出合いはいくつになってもありますから、親御さんも子どもが持ってきたおもしろいものに興味をもって共有してみたら、新たな本との出合いがあるかもしれませんよ。

秋田 かく言うわたしも中高生のときにあまり本を読んでいなくて、自分が親になって子どもに読み聞かせをしたり一緒に読んだりするようになってから本に興味をもつようになったんです。ぜひ、親御さん自身も「生涯読書人」として豊かな生活を送ってほしいですね。




秋田 喜代美(あきた・きよみ)

東京大学大学院教育学研究科教授。同附属発達保育実践政策学センター長。NPOブックスタート理事。文字活字文化推進機構評議員。専門は学校心理学・発達心理学。幼稚園や学校など制度的な教育の場で、先生方とともに考える教育実践研究や市民参加型読書研究を行っている。おもな著書・編著書に『読書の発達心理学―子どもの発達と読書環境』(国土社)、『読む心・書く心―文章の心理学入門』『本を通して絆をつむぐ―児童期の暮らしを創る読書環境』(以上、北大路書房)、『本やさんのすべてがわかる本』(監修 ミネルバ書房)などがある。


 
宮川 健郎(みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学文学部教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。
当さぽナビで「親と子の本棚」連載中。


 

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