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<解決できる? 世の中の難問>

2018年秋冬号 火山の噴火は予測できる?

2018年秋冬号の『Z3』でお話をうかがったのは、火山の噴火予測の実現に向けて研究を進める、東京大学の田中宏幸先生。田中先生はこの難問にどのように挑んでいるのでしょうか?
(取材・文:科学コミュニケーター 本田隆行
 サイト:I AM A SCIENCE COMMUNICATOR ! )

【2018年10月17日】


 

火山っていつもいきなり噴火するイメージがあります。田中先生、火山の噴火を事前に知ることってできないんですか?

 

う〜ん。難しいですね。火山の噴火を予測するというのは、とても難しいことなんです。

そもそも、火山の噴火ってどうして起こるんですか?

火山の噴火には、①マグマが勢いよく上昇して地表に吹き出す「マグマ噴火」②マグマによって温められた火山内部の水が水蒸気となり、地表に吹き出す「水蒸気爆発」③火山内部の水がマグマに直接触れて、水蒸気がマグマとともに吹き出す「マグマ水蒸気爆発」などのタイプがあります。いずれの噴火も、マグマの動きが大きく関係していますね。

では、どうして火山の噴火予測は難しいのでしょうか?

データの蓄積数が少ないことが、噴火予測が難しい一番の理由です。みなさんは、「今後○年のあいだに○%の確率で大地震が発生」といった、大地震発生の確率を聞いたことがあるかもしれませんね。なぜ大地震発生の確率を出すことができるかというと、大地震はある程度の数発生しているので、これまでにさまざまなデータが取られていて、理解も進んでいるからなんです。しかし、火山の大噴火は大地震に比べて発生する頻度が多くないため、まだ予測できるほどのデータが蓄積されていません。そのため、現時点ではまだ噴火発生の確率を出すことすらできていないんですよ。

なるほど・・・。とはいえ、データが蓄積されるのを待つだけでは、噴火予測の研究は進んでいきませんよね。これまでは、どのように噴火予測の研究を行ってきたのですか?

火山のうごき

火山の噴火前にマグマが動くことにより、山体の膨張や火山性微動といった前兆が起こる。

火山の「見た目」を観察し、噴火の前兆を捉えるといった研究が中心でした。たとえば、噴火の前には山の表面が膨らんだり、火山性微動と呼ばれる小さな地震が増えることがこれまでの研究でわかっています。しかし、これらはマグマが動くことにより起こる間接的な前兆なので、「火山の内部でマグマが動いているようだ」という推察はできても、具体的にどのようにマグマが動いているのか、いつ噴火が起こるのかを正確に予測することは困難です。より正確で、かつ「いつ噴火が起こり、いつまでその噴火が続くのか」といった長期的な予測を可能にするためには、火山の「見た目」だけでなく、マグマの動きそのものを観察する必要があると考えられています。

確かに、マグマの動きそのものを観察できれば、噴火予測が実現できそうですね。でも、マグマって火山の奥深くにあるんですよね。マグマの動きを観察するなんて、できるんですか?

そこで注目されているのが、私たちの研究グループが用いている「ミュオグラフィ」という手法です。「ミュオグラフィ」とは、宇宙から飛んでくる放射線が生み出す「ミュー粒子」という素粒子を使って物体を透視する手法のこと。「ミュオグラフィ」を用いれば、まるでレントゲンのように火山の内部を透かして見ることができるんですよ。

honちゃんの豆知識

中高生のみんなは、素粒子という言葉になじみがないかもしれないね。物質を小さくしていくと、分子、原子・・・と、どんどん細かくなっていくんだ。その中で、これ以上小さくならないという極小の“粒”のことを素粒子と呼ぶんだよ。「ミュー粒子」は、12種類ある素粒子のうちの一つなんだ。

火山を透視できるなんて、すごい! どうして透視ができるんですか?

 

「ミュー粒子」は、物質の密度によって通り抜けられる数が変わります。そこで「ミュー粒子」の飛んできた方向と数を測定すれば、その方向にある物体の密度がわかるのです。

「ミュー粒子」の飛んできた方向と数は、どうやって調べるんですか?

2006年に長野県の浅間山で行った最初の実験では、「原子核乾板」という透視撮影用のフィルムを使いました。これは、置いておくだけで「ミュー粒子」の方向と数が記録できる特殊なフィルムです。電気も使いません。その「原子核乾板」を浅間山の中腹に設置し、約2カ月後に回収・現像して、山の内部構造を解析しました。すると、過去の噴火後に火口の底で冷えて固まったマグマや、その下のマグマの通り道(火道)が、はっきり見えたのです。「ミュオグラフィ」は1950 年代にオーストラリアの物理学者が初めて岩盤の密度を求める実験を行い、その後も各国で研究されていましたが、火山の透視に成功したのは、私たちのグループが世界初だったので、この結果は、大きな話題になりました。

「ミュオグラフィ」の手法では、火山の内部を通過した「ミュー粒子」の方向と数を測定することで、火山の内部構造を解析する。


透視像

「ミュオグラフィ」の手法で透視撮影した浅間山の透視像。図内の色彩は山体内部の平均密度を示しており、赤い場所ほど密度が高い。中央下部の赤い箇所が、噴出して固まったマグマ。


やっぱり、小さいものを透視するより、大きなものを透視するほうが大変なんですよね?

そうですね。それに、「原子核乾板」は性質上、あちこちから飛んでくる「ミュー粒子」を四六時中、記録し続けてしまうんです。火山に設置するまでの間も不必要な情報まで記録してしまうので、そういった情報を取り除くために、2枚の乾板を別々に現地まで持っていき、その場でピタッと貼り合わせてから設置することで、2枚に共通して写る痕跡だけを拾い出す工夫をしました。標高の高い山の中腹で、光が入らないように注意をしながら厳密に乾板を貼り合わせる作業は大変でしたね。

2006年に浅間山の透視に成功してから現在までの間に、「ミュオグラフィ」の技術はどのように進歩しましたか?

グラフ

2013年6月14日から7日10日の薩摩硫黄島の透視像。1枚の画像にかかる撮影期間が短縮されたことで、数日単位で連続写真(動画)が撮れるようになった。

2008年に、「原子核乾板」に代わるデジタル方式の「ミュー粒子検出装置」を作りました。デジタル化したことで、火山付近に検出器を設置したまま遠隔操作で撮影を続けられるようになり、1枚の画像にかかる撮影期間も、2〜3カ月から3日へと大幅に改善されました。2013年に鹿児島県薩摩硫黄島で行った実験では、連続写真(動画)の撮影にも成功し、現在は桜島や新燃岳など、活発に活動する火山のリアルタイムモニタリングを行っています。

今後はすべての火山でモニタリングができるようになれば、火山の噴火予測が実現できますね!

 

そうなればうれしいのですが、そのためには、まだクリアしなければならない点も多いのです。

どんなところが問題になっているんですか?

まず、装置の価格です。デジタル方式の「ミュー粒子検出装置」は、当初、装置一つでマンションが買えてしまうほど高価でした(笑)。今では高級車1台分くらいまで値下がりしましたが、まだまだ全国に設置をすることは難しいですね。また、「ミュオグラフィ」の手法にも課題があります。山の形にもよりますが、現在の手法だと、透視ができるのは山頂から300m下くらいの深さまで。そのため、地表付近までマグマが上がってきているかどうかはわかるのですが、地下深くにどのようにマグマが存在していて、どのように動いているかまでは検出できません。

「ミュオグラフィ」は、まだ進歩の途中なんですね、

最新の「ミュー粒子検出装置」

最新の「ミュー粒子検出装置」。赤い光は、「ミュー粒子」が通過した跡。

そうですね。噴火予測を実現するためにも、ますます「ミュオグラフィ」の手法を進歩させていきたいと思っています。さらに今後は、透視によってわかった事実を実益に結びつけていくための視点を、より強くもっていきたいと思っています。「○○がわかりました」だけではなく、「○○がわかったので、△△に役立ちます」という部分ですね。「ミュオグラフィ」は、噴火予測以外の分野でも期待されている手法です。たとえば、内部に人が入れない原子力発電所の状態も、「ミュオグラフィ」を用いることで安全に確認できます。また、大型建築物や高速道路、トンネルなどの安全性は、現在、地中レーダーやX線を使って調べられていますが、これらに加えて「ミュオグラフィ」を用いることで、より確実に検査をすることができるようになると考えられています。さらに、石油のような地中資源の探査や、医療分野での応用も期待されています。火山の噴火予測を始め、こういった社会のニーズに応えられる研究ができるよう、関係者と密にコミュニケーションを取りながら研究を進めていきたいと思っていますよ。

田中宏幸先生(東京大学 地震研究所)

東京大学地震研究所高エネルギー素粒子地球物理学分野教授。東京大学国際ミュオグラフィ連携研究機構機構長。
2004年に名古屋大学大学院博士課程修了。同年、米カリフォルニア大学リバーサイド校で博士研究員。2006年に帰国し、日本学術振興会特別研究員として東京大学地震研究所で研究を始める。2008年同所特任助授に就任、准教授を経て、2013年5月より現職。


 

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