●プロフィール
青山学院大学理工学部の特色を教えてください。
■先生
これは他大学と比べて恵まれた環境だと思うのですが、一つの研究室を教授と助教で運営する体制になっており、それが制度化されています。必ず複数の教員がいることになりますから、目が行き届き、学生への指導が手厚くなるというメリットがあります。
また、今は電気と機械、情報と電気など、複数の学科にまたがる「境界領域」と言われる研究が増えています。ロボット工学などがその代表的なものですが、青山学院大学理工学部には境界領域をやりたいという学生が学科を超えて卒業研究ができる制度もあります。これも特色の一つでしょう。
また、電気電子工学科の特色ですが、1年生から実験の授業が多いです。とにかく実験重視で体験して覚えなさい、というのが私たち電気電子工学科の教育ポリシーです。実体験したものはなかなか忘れにくいものですからね。
■卒業生
機械、化学の実験もやりますし、旋盤の実習などもあります。他大学の電子工学系の出身者にその話をすると、けっこう驚かれますよ。
先生の研究内容について教えてください。
■先生
「世の中の役に立つ電子回路」を作るのが研究の目標です。電子回路は全ての技術の基盤ですが、特に日常生活をより便利・快適・安全に、という視点からの技術開発を目指しています。専門分野としては電子回路工学、LSI設計になります。
私はNTTの研究職に就いていたこともあるのですが、その時代に現場で身をもって体験した通信機器の大変化がニつあります。一つはアナログ音声からデジタル音声への転換です。その経験を活かした、デジタルオーディオの基礎技術は現在の研究テーマにもなっています。
もう一つの大変化、それは公衆電話や家庭用電話から、自動車電話、携帯電話、そしてスマートフォンという形の変遷を通じて実感したことなのですが、通信機器の究極の姿は「持って歩く」ではなく「身につける」ものだということです。ここから生じたニつ目の研究テーマは、ウェアラブルな、すなわち「身につけることができる電子機器」です。あるいは「ユビキタス」というキーワード。身につけることによって「いつでも・どこでも」役に立つ、そんな機器の発達を支える電子回路技術です。
私の研究技術は福祉などの分野での活用を想定しているので、皆さんがイメージする「ウェアラブル電子機器」とは少し離れるかもしれません。例えば、研究の一つに指輪型の音声受信機があります。この指輪は交差点や横断歩道で目の不自由な方の信号の替わりに音を出すもので、ハンディキャップがある方の補助などを目的に研究開発を進めています。
牧嶋さんの卒業研究のテーマは何ですか?
■大学生
デジタル音響機器の高音質化につながる研究です。アナログ信号をデジタルに変換することを「量子化」と言いますが、その際に使用する技術です。音楽レコーディングでは、一番最初の録音の時と、一番最後の再生の部分で使われる技術ですね。オーディオの世界で言う、いわゆる「1bitオーディオ」のことですが、この技術は普及品から高級オーディオまで幅広く利用されています。
僕はエレキギターの演奏を始めたのをきっかけに、音楽鑑賞が趣味になりました。その中で、なぜ音が出るのだろう?という好奇心がオーディオの構造自体への興味にもつながりましたし、情報を「0と1」で表すデジタル信号の世界にも興味が広がりました。
その技術をこれからどんなことに活かしたいですか?
■大学生
先生が研究されている福祉分野のように、他の方の役に立つ形で活かしたいと思いますね。今はオーディオに利用されていますが、医療機器などの分野でも貢献できる可能性が高い技術とも言われています。
渡辺さんの学生時代の研究、そして現在のお仕事について教えてください。
■卒業生
学生時代には、時間をデジタル値に変換するということについて研究しました。専門的には「TDC」と言いますが、ニつの信号の時間差を調整する技術です。具体的に携帯電話を例にして説明しますと、携帯電話はその中にある発信機と基地局の発信機、両者が電波をやりとりして通話が行われる訳ですが、機器に誤差があるので、そのままでは周波数が微妙に合わず、通信がつながりません。このズレを感知し、調整して合わせるために使用するのが「TDC」という技術です。
高校時代から思い描いていた「携帯電話を作りたい」という夢を先生にお話したら、ベーシックな技術としてこういうのがあるよ、と助言をいただき、卒業論文のテーマになりましたし、大学院でもそのまま研究を続けました。
現在は半導体メーカーに勤務し、フラッシュメモリーの中の回路設計を担当しています。このフラッシュメモリーは携帯電話やゲーム機の重要な部品の一つです。つまり私の場合、高校の時にやりたかった夢がそのまま大学・大学院での研究となり、現在のものづくりの仕事までつながっているのです。
|