国際的に活躍する科学者・研究者を育成することを目的に、「飛び級」制度を採用して専門教育を行う千葉大学先進科学プログラム。物理・化学をはじめ特定分野に優れた才能を持った学生の力を伸ばし、実績を挙げてきました。17年目を迎える今年度には秋入学を導入。進化を続ける教育内容と今後の展望についてお話を伺いました。


先進科学プログラムとはどのような取り組みですか?

【橋本先生】
国際的に通用する研究者の育成を目的とした特別なプログラムです。通常とは異なる入学試験を突破した年間数人から十数人を対象として、放課後や長期休み期間など大学の講義時間以外を中心に、科学者・研究者となるための英才教育を行います。1998年度にスタートし、2014年度で17年目を迎えます。
最大の特徴は飛び級制度でしょう。高校2年生の冬に受験し、1年早く大学に入学する仕組みです。2014年度からは高校3年生の秋に入学する、秋入学もスタートします。



ユニークな選抜方法を採用されていると伺いました

【橋本先生】
内容は筆記試験と面接試験ですが、我々が本来行いたい試験を実施しています。一人の高校生に対してその能力・素質を深く見る、と同時に多角的な面から評価することを重視しています。
筆記試験ではいくつかの選抜方法があり、通常の入試問題を解いてもらう方法のほかに、朝から夕方まで7時間をかけていくつかの課題に取り組んでもらい、その姿勢を評価する方法も採用しています。これに加え面接試験では、1人あたり45分をかけて知識レベルや理解度だけでなく、人間性まで評価して、合否を判断しています。いわゆる受験テクニックは気にしませんから、テスト自体ができていなくても、その分野の本質を理解していたり、粘り強い性格が際立っていれば、合格にすることもあります。
このようにじっくり見させてもらいますが、合否を判断する際には意見が分かれることもよくあります。「この子は大丈夫かな?」と思っていた学生が、2年目からぐんぐん成長し、いまは東京大学で助教をやっている、という事例もあり、当時の自分の考えが浅かったのかな、などと考えますね(笑)。

【松元先生】
筑波大学の助教になった学生もそうでしたね。地方の高校出身で少し世間離れしている大人しそうな子だったので心配していました。大学入学後は数学の勉強ばかりしているので、「物理も勉強しろよ!」って怒ったりもしたのですが(笑)、数学の才能を開花させて、大学で数学を教えるまでになっていますから驚きです。




先生方の指導も、熱が入りますか?

【橋本先生】
もちろんです。我々は研究者ですが教員でもあります。頑張っている学生は応援したくなりますし、熱心な質問・相談にはつい時間を忘れて、本質的な話・ディープな話に夢中になります。

教育制度も充実しているようですね

【橋本先生】
海外短期留学、少人数制の個別指導、世界の一流研究者を招待してのキャリア教育等、充実した内容です。海外への短期留学は1年生の夏に全員が経験します。この資金は大学が出しますが、とても良い経験になるようで翌年に自費で再渡航する学生も多くいます。
その中でも特に、入学当初から大学教員と1対1に近い形で指導が受けられる環境を重視しています。少人数ですから行き届いた指導が実現できます。

【松元先生】
先進科学プログラムの学生には専用の学生室が用意されており、学年に関係なく利用できます。そこで上下のつながりといいますか、先輩から伝統を継承し、苦楽を共にするなかで、積極的に質問や議論ができるようになり、目標とする学問レベルも自然と高くなっていくのだと思われます。

飛び級ならではの心配事はありませんか?

【橋本先生】
年齢差や高校が中退になる点については、当初我々も心配もしました。でも大学には浪人生や社会人の方も多いですから、実際には通常の大学生活で1年の年齢差を気にされることはあまりありません。また、高校中退については、大学をきちんと卒業してもらえれば心配はありません。むしろ研究者の世界では、優秀な成績を修めて大学や大学院を中退(飛び級)し、次のステップに進むことは評価されます。「中退を3度した」と自慢している卒業生もいるほどです。

他にはどのような卒業生がいますか?

【橋本先生】
多くが大学の教員や博士課程・修士課程に進学していますが、初期世代の卒業生の中には出版社に勤めていたり、海外の大学院を修了し、そのまま海外の企業に就職した方もいます。

【松元先生】
独立行政法人で研究費の配分を決める仕事に就いている方もいますね。我々大学の研究者は、国に研究予算の補助を申請することもありますが、その際の目利きの役をしているようです。この方は先ほど紹介した7時間のテストでB4用紙に30枚は書いたという最高記録保持者で、とても印象に残っていますね。

【橋本先生】
どの学生も自分の考えに沿った行動をするフレキシビリティといいますか、バイタリティがありますね。3度は珍しいかもしれませんが、中退して次のステップに進む、思い切って飛び出す学生は少なくありません。まぁ、入学してくる時点で思い切って中退して来るわけですから、そういう気質の学生が集まるのでしょうね(笑)。

【松元先生】
念のため申し上げておきますと、先進科学プログラム受講生における大学から大学院等への飛び級は決して多くはなく、全50数名の中でも8名だけです。高校から大学進学に掛けて1年飛び級していますから、もう1年短縮するのはなかなか大変ですね。

秋入学を導入する目的を教えてください

【橋本先生】
2012年度から2013年度にかけて、東京大学を中心に秋入学が検討されていました。その機運を受け、本学が検討したのが先進科学プログラムでの秋入学でした。ただ我々の秋入学は「高3の秋から」です。他大学の検討している「高3を卒業後、秋から」とは違います。
導入の狙いは、飛び級での受験をしやすくすることです。入学を「高3の秋」にすることで、部活動を最後までできますし、物理オリンピックの国際大会にも出場資格を得られます。高校時代にしかできない課外活動を十分に経験いただいた上で、受験勉強に集中する最後の半年間を大学生活に置き換えてはどうかという提案にもなっています。
秋入学の方には、9月の1ヶ月間で数学・物理等の理数系科目を集中的に学んでもらい、春入学の大学一年生の知識レベルに追いついてもらいます。その上で10月からは他の大学生や、同じ先進科学プログラム受講中の春入学の同級生と合流します。先ほどお話した海外留学は2年生の夏に、卒業は4年後の秋になります。大学卒業後、9月から始まる海外の大学院への進学がスムーズになるという利点もあります。
なお一定要件を満たせば、4年目の春時点で国内の大学院へ進学することも可能です。


【松元先生】
先進科学プログラムを3年半で卒業する要件としては、例えば物理の場合には大学院入試の合格が必要です。そして、大学院への進学を後押しするためにも、秋入学の学生には卒業研究を通常より半年早く終わるようなスケジュールにしています。ただこれは、通常の春入学の学生と同じタイミングで取り組むということですので、心配は要りません。
海外の大学院に進学する場合は、直前まで大学に在籍している方が色々と都合が良いですから、8月に大学を卒業いただいて、9月から海外での大学院生活をスムーズに開始できます。

今後の展望をお聞かせください

【橋本先生】
この16年間で、知見がたまってきました。先進科学プログラムの学生は入学当初こそ心もとないですが、これまでご紹介した学びを通して、才能を大きく開花させて卒業していきます。ほぼ全員が大学院に進学し、若くして東大をはじめとする各大学の教員として活躍している卒業生も多数輩出していることからも、成果は十分に出ています。
今後は、先進科学プログラムで受け入れる学生数を増やすこと、またここで得た知見を、各学部の学生にも還元できるような仕組みを作っていきます。

高校生にメッセージをお願いします

【橋本先生】
自分の可能性を信じて、チャレンジをしてみませんか?皆さんの目の前には、たくさんの可能性が広がっています。先生や親御さんも色々とアドバイスをくれるでしょう。でも最後に決めるのは自分自身なのです。世界は広い、一歩踏み出すことで可能性が大きく開けるのです。
そして将来研究者を目指す皆さんは、最適な環境がここにあることを覚えていただき、ぜひ千葉大学の先進科学プログラムへの進学を検討してくださいね。


インタビューに答えてくれた方


先生
橋本研也先生  

千葉大学教授 千葉大学先進科学センター センター長
工学博士
福島県立福島高校出身
千葉大学工学部電気工学科卒業。同大学大学院工学研究科電気工学専攻修士課程、 東京工業大学論文博士(工学博士)。千葉大学助手、助教授を経て、 2005年より現職。




先生
松元亮治先生  

千葉大学大学院理学研究科教授
千葉大学先進科学センター 副センター長
理学博士
加古川東高校出身
京都大学理学部卒業後、同大学大学院理学研究科宇宙物理学専攻修士課程、および博士後期課程修了(理学博士)。千葉大学教養部講師、同助教授、千葉大学理学部助教授、同教授を経て2007年より現職。