●プロフィール
先生のご専門の研究について、教えていただけますか?
■先生
大きく分けて2つ専門分野があります。1つ目は「生物無機化学」といって、体内の酵素の中にある金属イオンの働きを調べる研究領域です。例えば、血液をなめたらしょっぱいというのは、ナトリウムイオンが含まれているためです。これ以外にも酵素の機能に深く関与している金属イオンがたくさんあり、これらを研究対象にしています。
もうひとつは、「計算化学」という分野です。薬が効力を発揮する時には、必ずあるタンパク質と結合して、その機能を活性化したり抑えたりするのですが、薬の分子がタンパク質にどのように結合するのかということを、コンピュータでシミュレーションしています。ターゲットとなるタンパク質の構造がわかっているのならば、薬の分子を改変したら、より効き目の良い薬が作れるということになります。そういうことを試験管の中でなく、コンピュータで簡単に調べられるのがこの分野の特徴です。
■卒業生
余談ですが、2013年のノーベル化学賞受賞者のカープラス先生は「計算化学」の専門家ということもあり、今熱い分野です。もっと盛り上がっていいはずだと思います(笑)。
■先生
「計算化学」の概念が普及するまでには10年以上かかるでしょう。しかし、「計算化学」を生物学に応用する人はだんだん増えてきていますよ。片桐さんはまさにそのエキスパートで、優秀な研究者です。
先生の研究は、どのように社会に役立つのでしょうか?
■先生
具体的には、筋肉中の酸素貯蔵タンパク質であるミオグロビンを用いて、人工酸素運搬体、つまりは人工血液を作ることを目指しています。日本は少子高齢化社会になって、献血者が減る一方で、輸血を必要とする人は増えています。血液は保存もできないので、人工血液は現在の献血事業を補完するうえで重要な物質になると考えています。
片桐さんの現在のお仕事について教えてください。
■卒業生
千葉大発のベンチャー企業である株式会社アミンファーマ研究所の専務取締役を務めています。かつて薬学部の学部長や副学長を務められた五十嵐一衛先生と私が二人三脚で7年前に設立した会社で、私は主に事業のマネジメントを担当しています。脳梗塞のリスクが血液検査だけでわかるという商品を提供していて、全国200か所以上の人間ドックと、いくつかの企業の健康保険組合に採用していただいています。
国立大学には近年、研究成果の実用化が強く求められるようになりましたが、その実用化の出口の一つとして、ベンチャーの起業や、企業への技術移転などがあります。私は(独)NEDOに勤務していた時代に産学協同の研究プロジェクトのマネジメント、大学発ベンチャー起業支援、特許管理・活用等をミッションとして行っておりましたものですから、千葉大からの依頼で、産学連携・知的財産機構というところの特任准教授も兼任しています。
したがって、大学の「研究成果の実用化」というのが、私のミッションです。その表現の形として、企業の取締役と、産学連携に関わる大学の准教授という二つの側面があります。
特任准教授としてのお仕事の内容はどういうものですか?
■卒業生
薬学部だけにとどまらず、いろいろな学部の研究成果を知的財産化したり、それを企業にどう使ってもらうかを考え、提案したりします。研究成果を元に起業したいという先生もいらっしゃるので、起業支援なども行っています。
望月さんの研究テーマを教えてください。
■大学生
根矢先生のもとで研究しています。体内には血液中のヘモグロビンや筋肉中のミオグロビンといったタンパク質がありますが、これらは酸素の結合や放出に関わっている物質です。その中で特に酸素の結合に関係しているポルフィリンという部分の構造を変えてみて、特性がどう変わるのか、というようなことを調べています。
■先生
望月さんは6年制の学生ですから、そのほかに薬剤師を目指すための勉強にもかなり力を入れています。6年あると言っても、けっこう忙しいですよ。6年制の5年と6年というのは、普通は修士課程の1年と2年に相当しますが、おそらく修士課程の学生以上の忙しさだと思います。研究もあるし、病院実習もある。薬剤師の国家試験も受けないといけないわけですから。
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