リベラルアーツ教育を行う国際基督教大学(ICU)では、「メジャー制」という独自の専攻システムなど、多くの先進的な取り組みを行っており、グローバル人材育成推進事業の採択校にもなっています。現在の最新の取り組みについて、学長の日比谷先生にお話を伺いました。
国際基督教大学がどのような大学かを教えてください。
ICUが開学したのは戦後間もない1953年です。第二次世界大戦への深い反省から、二度と戦争を起こさない、平和を構築するために貢献する人を育てることが重要だ、との考えから生まれた大学です。
それまでの日本の高等教育は、明治維新以来ドイツ型の制度で歩んできました。第二次世界大戦はその負の側面が出たとの見方から、アメリカ型のリベラルアーツ教育を行う大学で、国際的社会人としての教養を持った善き市民を育成しようとの思想で、今日まで教育を行っています。
そんなICUの特徴を教えてください。
まず規模の面では、ICUは大学院生を含めても学生数が3000名弱、1学年620名であり、日本の私立大学としてはとにかく少人数です。結果として、教員一人あたりの学生数(ST比)が1:18という、きめ細かい教育を実践できています。
リベラルアーツ大学としては、専攻できる分野(メジャー)が合計31あり、文系分野だけでなく、数学、物理学、化学、生物学、情報科学の理系分野も含まれる点が特徴です。文理が融合した学びという、リベラルアーツ大学の本来のあるべき姿を実現しています。なお、リベラルアーツを端的に語れば、「文理にとらわれず広く知識を身につけながら、創造的な発想法を訓練する教育システム」となるでしょう。それは、ひと言では語りきれない恩恵をもたらしてくれる学び方なのです。
また他の国際教養系の大学との比較では、開学以来「日英両語を学内公用語」としているバイリンガル大学である点が特徴的です。例えば構内のお知らせや学報は日英両語が併記されています。英語で授業を受けるのは当たり前ですが、他方で、講義を聴く力・論文を書く力など、大学での高等教育を日本語で受けないとできないこともたくさんある、という考え方に立っています。複数の言語で学ぶことによって、複眼的な思考が養われる点も重視しているのです。
開学から約60年が経ち、時代も変わりましたので、いまは「日英プラス1」という標語で、3言語の習得を推奨しています。これは中国の歴史を研究するために中国語を習得するなど、自らのメジャーと関連づけつつもう1つの言語を習得するイメージです。
グローバル人材育成推進事業としての取り組みを教えてください。
大きく3つの柱があります。
まず1つ目の柱は、英語で行われる大学の授業に参画できるだけの英語力を身に付けるということです。ICUは帰国生ばかりとのイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、高校時代に海外経験のない学生も相当数います。彼らの英語力、英語運用能力を高め、※IELTS6.5というスコアを1つの目標に設定しています。
※IELTSは旧英連邦系の国の大学で学ぶための試験。最近はTOEFLを実施しているアメリカを含め、欧米の有力大学はIELTSで審査が行われるようになった。
2つ目としてライティングを重要な柱として位置づけています。W(writing)コースという名称で、論文を書けるだけの英語力の習得を目標に、担当教員とチューターがきめ細やかな指導を行います。日本語で考えてもらえれば分かると思いますが、通常の手紙や文章を書くのと研究論文では求められる事は違います。また物理学と哲学でも論文の書き方は異なります。ですから自らのメジャーに合わせた書き方を習得することは重要なのです。
3つ目の柱は、上記の力を身に付けた上での留学です。世界各地にあるICUの協定校へ1年間の交換留学生として送り出し、単位を修得してもらいます。海外の大学で単位を取れるだけの英語力および学力が身に付いているかどうかが試されます。
このグローバル人材育成推進事業のお陰もあるのでしょう。2013年度はこれまでにない数の応募者があり、交換留学に行けない学生も出る結果となりました。交換留学の場合はICUに納めている授業料で済むのですが、1年間の留学を私費で賄うのは大変です。ですから、夏に6週間、韓国の大学に留学できるプログラムを用意するなど、学生の需要に応えるよう努力しています。
ちなみに、ICUでは22カ国66大学と交換留学協定を結んでいます。修得した単位は審査によりICUの単位として認定されるため、4年間での卒業も可能となります。
学内も国際色豊かですね。
教員に占める外国籍比率が3割超と非常に高く、国籍もアルメニア、チェコ、ハンガリー、韓国など実に多彩です。教えている内容も、ブルガリア出身の教員が日本文学を、アメリカ出身の教員が日本美術を教えるなど多様です。日本に関する科目を外国籍の教員が担当するということは、日本のことを相対化して教える、つまり日本の常識とは少し違う考え方で授業が展開されることになり、複眼的な視点が養われるし、何より面白いです。
また日本のパスポートを持っている教員、つまり日本国籍の教員の大半も、少なくとも留学経験があり、多くは海外で博士号を取得しています。一般的に特に私以上の年代の教員では、学生時代に海外で学位を取得している方がそれほど多くないそうですが、ICUでは普通です。この点もユニークではないでしょうか。
ICUは入試制度もユニークですね。
「リベラルアーツ学習適性(LARA)」のことですね。知能テストのような試験です。また、他に超長文と評される長文を出題する科目もあります。特徴的ゆえでしょうか、他大学との併願がしにくいといったご指摘もよく受けます。
実は2015年度の入試から、このLARAに代わり、「総合教養(ATLAS)」という新たな試験を導入します。簡潔に申し上げると、ICUでリベラルアーツ教育を受ける適性をみる試験です。さすがに実際の講義を行うわけにはいきませんが、講義内容を録音したものをリスニング試験の要領で聴き、設問にマークシートで解答する、という新しいスタイルの入試問題になっています。このATLASを1科目とし、そのほか2科目、合計3科目に取り組んでいただきます。
この話だけを聞くと大変そうだと感じるかもしれませんが、ATLAS については、ICUの講義を体験する気持ちで受けていただければと思います。入試問題と入試方法は、大学が受験生に対して発信する一番大事なメッセージです。サンプル問題はWebにも掲載していますので、楽しみながらチャレンジしてもらえればと思います。
講義自体はオープンキャンパスでも体験していただけます。ICUは自然豊かなキャンパスも自慢の一つですので、ぜひ一度いらしてください。
高校生にメッセージをお願いします。
大学に受かることを目的にするのではなく、ぜひ自分が楽しいと思うことに没頭してほしいと思います。高校時代に好きなこと、関心のあることをとことん突き詰めるという経験は非常に貴重であり、大切です。授業で幅広く基礎的な内容を学ぶと同時に、何か打ち込んだものがある人はとても強いと思いますので、ぜひそれを目指してほしいと思います。ICUでも「ICU特別入学選考(AO入試)」を設け、そのような高校生に来ていただく門戸も開いています。
ICUを志望する高校生は多いです。キャンパスも広いですし、もう少し定員は増やせないのでしょうか?
先ほどもお話したように、ICUは大学院生を含めても学生数が3000人ほどなので、よく少人数の大学と言われます。日本国内ではそうだと思いますが、実は世界のリベラルアーツ系の大学のなかでは規模が大きい方なのです。
本学として、きめ細かい教育をし、様々な専門分野が密に連携をとる真のリベラルアーツ教育を維持するには、教員間だけでなく学生同士もある程度名前と顔が一致して、上下、横ともつながりの作りやすい、現在の規模が上限だと感じています。
皆さんとICUで学べる日を楽しみにしています。
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