●プロフィール
先生の研究されている専門分野に関して教えてください。
■先生
私の研究室は「食品栄養学研究室」という名称で、主に食品成分と人の老化や健康の関連を研究しています。現在の研究内容をキーワードで言いますと、「ポリフェノール」や「メタボリックシンドローム」(内臓脂肪症候群)になります。植物・食品などに含まれる「ポリフェノール」という成分が、どのようにメタボリックシンドロームを予防・改善するか、というメカニズムについて研究しています。
「ポリフェノール」というのは、単体の呼称ではありません。ポリフェノールは分子内にある決まりを持った植物成分の総称で、専門的に言いますと、「ベンゼン環にヒドロキシ基(-OH)が二つ以上ついたもの」です。ポリフェノールは、化学的にも作れますが、天然にも多く存在しています。例えば、ワインやお茶などに含まれる「カテキン」、「タンニン」、大豆などに含まれる「イソフラボン」、ブルーベリーなどに含まれる「アントシアニン」、など総称して「フラボノイド」と呼ばれるものや、これらに加え、ウコンに含まれる「クルクミン」など多くのポリフェノールがあります。
私の研究では、食品に含まれる大きな分子量を持つポリフェノールにターゲットを絞り、その摂取効果を調べています。分子量の大きいポリフェノールは、赤ワインやチョコレート、紅茶など、私たちの身近な食品に含有されています。
「ポリフェノールがメタボリックシンドロームに対して有効である」、ということはもう研究で実証されたのですか?
■先生
はい。これまでにも医学の分野から、メタボリックシンドロームの患者さんがチョコレートを摂取した場合、「血圧・血糖値・血清脂質が改善される」という報告は度々ありました。
従来は血圧、血糖値、血清脂質の三つを改善させるには、それぞれに対応した薬が必要だと考えられていました。ところがチョコレートを食べて、その三つに効果があるという、とても不思議な現象が起こったのです。ただ、なぜそうなるのか、というメカニズムがわからないままでいました。
そこで2011年に、マウスを使った実験研究を行ったところ、「ポリフェノールを摂取すると、体内の各種エネルギー代謝を促進させるミトコンドリアの量が増える」、すなわち、「ポリフェノールは細胞内のミトコンドリアの新生を促す」ということがわかりました。そもそもメタボリックシンドロームになる根本原因は何かというと、体内のエネルギー代謝の滞りです。つまりポリフェノール摂取により、体内のエネルギー代謝が活性化し、症状を改善させる、というメカニズムがわかったのです。
チョコレートを食べると太る、というイメージがあるのですが…?
■先生
チョコレートを食べると言っても、1日6.2グラムくらいの量です。これくらいの量を食べると血圧などにはいい効果がある、というデータがあります。市販されている100円くらいの板チョコが全体で50グラムですから、6.2グラムというのはひとかけらほどのかなり少量ということです。これくらいですとカロリーと連携しないので太りません。
また、最近欧米で発表された論文によると、「チョコレート摂取の頻度が高いと肥満度を示す指標であるBMI値が低くなる」という研究結果も出ています。「チョコレート摂取=肥満」というのは、単に甘いもの=肥満という一般的なイメージが作ったものであり、間違った認識という可能性もありますね。むしろ、健康にいいと科学的には研究成果が出ていますので、少しずつ食べた方がいいのではないでしょうか(笑)。
■大学生
私もチョコレートを食べると太る、ニキビができる、等のイメージがありました。これからは友達に「ポリフェノール効果があるから食べた方がいいよ」と薦めます(笑)。
先生の研究分野はどこの国が研究先進国ですか?
■先生
健康補助食品、機能性食品という意味では、日本は先進国ですね。サプリメント分野などになると、欧米もかなり進んでいます。
研究成果をどのように発表していますか?
■先生
論文にまとめる一方で、メタボリックシンドロームのような一般的にも関心が高いテーマの場合は、一般の方、企業や報道関係者向けに「プレス・リリース」として、研究成果をわかりやすい形で提供しています。
先生がこれまで謎だったメカニズムの一端を解き明かした発表を行ったことで、健康食品メーカー等、多くの企業などが先生の研究に関心を持ったのではないですか?
■先生
そうですね。食品メーカーさんや飲料メーカーさん等、多くの企業や、官公庁からの反応もいただいており、共同研究などのプロジェクトも生まれています。
先ほど「ポリフェノール摂取によりミトコンドリアの量が増える」というメカニズムについてお話ししましたが、これはすなわち「筋肉の質を保つ」ということにも等しくなるのです。年を取っていくとどうしても筋肉量が細くなり、減ってしまいます。この現象を「ロコモティブシンドローム」と呼んでいますが、こうした筋肉の老化現象にも効果が期待できるということになります。つまり、単なるメタボリック対策のみならず、もっと幅広いアンチエイジング分野にも応用できる可能性をこの研究は秘めているのです。
松村さんは在学当時の専門は? また、現在どのような研究をされていますか?
■卒業生
大学時代は4年次に越阪部先生の「食品栄養学」ゼミに所属し、先生の指導のもとでポリフェノールとメタボリックシンドロームに関する研究をしていました。2013年3月に卒業しましたが、就職ではなく芝浦工業大学大学院理工学研究科修士課程へ進学し、引き続きポリフェノールの研究をしています。
現在の具体的な研究内容は、マウスに対して1回だけポリフェノールを投与するとどんな反応を示すか、というものです。分析結果としては、1回だけの投与の場合ですと、エネルギー代謝に対して好影響を与えていると考えられる、というのが現段階での結論です。
阿部さんは現在3年生ですね。ご専門は?
■大学生
私も越阪部先生の「食品栄養学」ゼミに所属しています。研究テーマはこれから決定します。
学生生活を充実させるために、授業以外ではどのような活動をしていますか?
■大学生
オープンキャンパスの運営や入試の補助に携わる、「入試課学生スタッフ」という活動を3年間やっています。オープンキャンパスに来る高校生からの進路相談に乗ったり、キャンパスツアーで校内を回り、大学で行われている研究内容を教えたり、良いところをアピールしたりしています。
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