●プロフィール
宮川先生のご専門である「超伝導」について、わかりやすくご説明いただけますか?
■先生
超伝導とは、ある物質に電流を流した時に、電気抵抗がゼロになる現象のことを言います。超伝導の性質を示す物質、つまり超伝導体は、非常に魅力的な特徴を持つ材料で、すでに病院のMRIなどにも使われて社会に貢献しているほか、さまざまな分野への応用が期待されています。
磁場を排斥するという性質を使ってのリニアモーターカーへの利用のほか、非常に強い磁場を作ることができることから、河や湖の汚染に対しては磁気分離という手法で汚染物質を取り除くこともできるでしょう。電気抵抗がゼロなので、電線に使えばエネルギーのロスがなく、コンピュータに使われる半導体に利用すれば、ケタ違いの性能が出るでしょう。21世紀の主役となる材料になるのではないかと期待されているのです。
問題は、こうした性質が現れる温度が、10K(摂氏約マイナス263度)とか20Kという非常に低い温度だということです。その低温を作るには、液体ヘリウムという高価な物質が必要になってしまいます。こうしたコストを抑えるには、室温での超伝導を実現すればいい。ということで、物理を志している人たちは、室温超伝導を目指してずっと研究しているわけです。
具体的に先生の研究室で行われている研究とは、どういったものでしょうか?
■先生
今現在、ある程度高い臨界温度を有した超伝導材料があります。その1つが、銅を含んだ酸化物です。1986年に、ベドノルツとミューラーによって発見された銅酸化物の臨界温度が約30K。その後、世界中の科学者が、その材料の構成元素を組み替えたり高圧をかけるなどの「味付け」をすることによって、現在では160K(摂氏約マイナス113度)を超える記録が生まれています。
超伝導の研究には、銅酸化物などの超伝導体に味付けすることによって室温超伝導を目指そうというアプローチと、そこで得られた知見を利用して、全く新たな材料をデザインしていくというアプローチの2つがあります。どちらにしても、究極の目標は、室温で超伝導になる材料を見つけるということです。
北原さんは、どういう研究をなさっていますか?
■大学生
先生のおっしゃる「味付け」をしていく方法の1つに、ケミカルドーピングというものがあります。物質の中には、電子やホールなど、電荷を持つ「キャリア」と呼ばれるものが存在しますが、化学物質によってそのキャリアの数を増やしたり減らしたりする手法がケミカルドーピングです。
そのほかに、最近発見された方法として、電解効果キャリアドーピングというものがあり、僕はそちらの研究をしています。これは、外部から強烈な電場をかけてやることによって、キャリアを変化させるという方法です。
電解効果キャリアドーピングは、今注目されていますが、技術的に課題が多く、実際に実現できている物質が非常に少ない方法なので、その再現性を高めたり性能を向上させたりするのが、僕の研究テーマです。
研究に、面白さややりがいは感じますか?
■大学生
実用化が難しいとも言われている電解効果キャリアドーピングですが、それを改良してなんとかしようと、自分の中でいろいろ工夫するのが楽しいです。手を動かして研究していると、いろいろアイデアが浮かんできて、10個浮かんだうちの9個は使いものにならないようなアイデアですが、そうやって試行錯誤していくのが、やりがいを感じるところです。
川島さんの、大学時代の研究内容と、今のお仕事を教えてください。
■卒業生
大学で研究していたのは、宮川先生がおっしゃられたような、銅酸化物超伝導体で、実験をしながら、超伝導の機構を解明するためのデータをとっていました。
今は半導体関係の会社で、回路設計をしながら、半導体で作られた電子回路の評価をやっています。ディスプレイの中の画素とか、画素を駆動するドライバの電子回路の製造段階で、そのプロセスで作った回路はどういう特性を示すのか、などを調べて、評価するという仕事です。
みんなが使っているディスプレイの、性能向上に寄与する仕事ということですね。
■卒業生
そうですね。
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