●プロフィール
先生の研究内容を教えてください。
■先生
ひと言でいうと、コンピュータで世の中の自然現象をシミュレーションするという学問です。例えば、天気予報、そして地震や津波の動きや被害の広がりの予測。そういうたとえが想像しやすいと思います。
もともと、自然現象を数式で記述すること、これを数理モデル化と言いますが、水や空気など流体の解析をはじめとして、それは以前からありました。しかし、世の中の自然現象は、あまりにいろいろな要素がありますから、全ての要素をきれいな数式で数学的に正しく、つまり「解析的に解く」ことには限界がありました。厳密な答えを求めようとすると複雑になりすぎるのです。
天気予報がまさにそうですが、例えば気温は連続的に分布しています。でも実際には、この地点、この地点と、いくつかのサンプルに的を絞るということをしていますよね。滑らかな曲線ではなくギザギザの形で近似する訳ですから、数値解で計算するというのは、ある種「妥協」の産物です。そして、そういった実用的な答えをいかに効率的に解くかという時に、コンピューターを活用するのです。
純粋数学に対する応用数学の面白みはどこにあるのでしょうか?
■先生
純粋数学というのは、代数や幾何、それに解析も含まれます。それに対する応用数学の面白みというのは、私の場合、やはり「何かの役に立つ」というところにまずあると思います。ところが応用数学をやっていくと、純粋数学的な発想も必要になってきます。突き詰めていくと、非常にシンプルな構造がその中に隠れていて、それを発見する、というのが面白いところなのです。つまり、実用性だけでなく、「美しい構造」が見えてくる、という楽しみもある。そういう意味では、数値解析という応用数学の中にも、純粋数学と共通するところがあると思います。
富澤さんはなぜこの大学を選んだのですか?
■大学生
私は高校時代から、将来は中高の教師になりたいと決めていました。数学科、あるいは情報科の先生です。そのための情報系の専門的なことを学べる大学を探しましたが、その条件を満たして、なおかつ、自分の身の丈にあった授業がある、という大学は意外と少ないんですね。その中で一番近かったのが東京女子大学でした。
4年生になってゼミが始まりますね。やってみたいことはありますか?
■大学生
荻田先生の研究室のテーマである、数値計算、数値シミュレーション、やはりそういう分野をやってみたいです。数学も好きですが、PCを使って解析できるところに面白みがありそうです。電卓だと段階を踏んで時間がかかるところを、PCで時間短縮になる。私は基本、めんどくさがりなんです(笑)。
■先生
それはある。めんどくさいことをしたくない、効率的にやりたいというのは人間の本質的な欲求で、工学なり科学というのはまさにそれがモチベーションだと思いますね。
■大学生
モンキーハンティングというシミュレーションは面白かったですね。自動車の制動距離をシミュレートするのもそうですが、要は、物理現象、身の回りのいろいろな動きを計算して表現する、目に見える形にする、ということをやってみたいです。高校では漠然と数学に興味がありましたが、今はやりたいことが少し具体的になってきました。
日野さんは東京工業大学の大学院へ進学されたのですね。
■卒業生
大学では数学系と情報系の授業を受講していましたが、その中で解析的には求めることが困難な微分方程式や偏微分方程式などを、計算機を用いて近似的に求めるという、理論数学と応用数学を使用する数値計算という分野に興味をもち、荻田ゼミに入りました。その中でも特に、物理シミュレーションの研究をしたいと思いました。
大学院進学にあたっては、いろいろな研究室を訪問しましたが、その中で唯一、東工大の現在私が所属している研究室の先生が、「数値計算をやってきたのなら、それはすごく役に立つことだ」とおっしゃってくださり、進学を決意しました。
具体的にはどのようなバーチャルリアリティを?
■卒業生
バーチャルリアリティーという分野は広く、キャラクターモーションや物理シミュレーション、力覚インターフェースと言うように、研究分野は多岐に渡っています。物理シミュレーションで言うと、現研究室では熱伝導方程式を応用したバーチャル料理シミュレーターの研究を行っています。肉や野菜はバーチャルで再現されており、実物のフライパンとフライ返しには、SPIDERという力覚インターフェースを繋いでいるので、肉や野菜の重みを実感することができます。さらに時間が経過すると焼き色が入るようになっており、これは熱伝導方程式を解くことで実現されているので、物理現象に従っています。そのほかにも、液体シミュレーションも研究されています。液体は3次元情報を持っているので、計算量が0(n^3)になってしまうところを、表面上2次元だけで計算が出来るように、上手く物理法則を適用し計算量を0(n^2)にした上で、液体同士の結合や分離のシミュレーションを行っています。バーチャルリアリティーの分野では、計算量を少なくし、リアルタイムに結果が返ってくることに重きを置いています。東京女子大学では数値計算のゼミに属し、卒業研究のテーマが波動方程式でしたので、数値計算の手法をよく使用するリアルタイム物理シミュレーションの研究をしたいと考えています。
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