Early Detection of Cancer using Smartphones

スマートフォンでガンの早期発見を目指す

古代ギリシアの医者ヒポクラテスは、ガンをKarkinosカルキノスと呼んだ。これは12星座の一つであるカニ座の語源となったギリシア語だ。乳がんの腫瘍がカニの甲羅のように硬く、その周りの膨れ上がった血管が足のように見えたからだ。星座の名前は、大昔から人類を苦しめてきた悪性腫瘍の名前でもある。ガンの発病については、昔から様々な原因が考えられていた。例えば、映画『メリー・ポピンズ』(作品の設定は1910年)*にも登場する煙突掃除人にとって、ガンは職業病だった。それが煙突の煤と関係していることは18世紀から指摘されていた。今は様々なガンの発病は遺伝子の変異や遺伝子の働きを制御するスイッチ状態の異常が原因であることがわかっている。
産業革命以降、工業化の進行とともに大気や食品の中に含まれる化学物質が増加し、それがガンを発病する原因になっている。煙突の煤もその一つだ。人の遺伝子は約22,000個あり、体のパーツごとにその一部を使う。例えば特定の組織では8,000個の遺伝子を使い、残りの14,000個は活動を停止した状態になっている。本来オンであるはずの遺伝子が、化学物質や生活習慣などが原因となってオフの状態になると、ガンになる場合があるのだ。

シトシンのメチル化と遺伝子スイッチ機構
東京工科大学の吉田亘講師は、このスイッチを研究している。DNAはアデニン、チミン、グアニン、シトシンなどで構成されている。C(シトシン)にメチル基(CH₃)が付くことをメチル化と呼び、これがスイッチの役割を果たしている。メチル化していればスイッチはオフ、メチル化していなければスイッチはオンとなる。吉田講師はヒトのタンパク質とホタルの持つ光るタンパク質を組み合わせ、メチル化したDNAに結合すると発光の色が変化する人工タンパク質を開発した。彼はこれを使って遺伝子スイッチの異常について研究している。
吉田講師はこの研究を将来、手軽なガン検診の実用化に活かしたいと考えている。例えば、微量の血液を試薬に入れ、発光した色をスマートフォンで撮影して診断を行うというアイデアである。ガンは早期発見すれば、必ずしも不治の病ではなくなった。しかし、今私たちが受けているガン検診は通常年1回で、しかもガンの発見は確実ではなく、手遅れになる場合もある。吉田講師のアイデアが実現すれば、私たちはガン検診をもっと手軽に、また頻繁に行うことできる。それはガンの早期発見につながるだろう。
*『メリー・ポピンズ リターンズ』ではなく、1964年の旧作を指す。

 

吉田亘講師(東京工科大学応用生物学部)

専門は、DNA の配列変化によらない遺伝子発現を制御・伝達するシステムを研究するエピジェネティクス、及び核酸工学、遺伝子工学。開発したゲノムDNA メチル化レベル絶対定量法に関する論文は分析化学に関する学術雑誌「Analytical and Bioanalytical Chemistry」に掲載された。また、本学術雑誌のYoung Investigators in (Bio-)Analytical Chemistry 特集において、分析化学分野で活躍する世界中の若手研究者の一人として紹介された。

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