特集
子どものストレス対処法(1)
2017.8.24
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ストレスが多いといわれる現代社会。大人たちと同様、子どもたちも家族関係、友だち関係、学習関係などさまざまな種類のストレスにさらされています。
残念ながらストレスをゼロにすることはできません。人はストレスをうまく乗り越えながら生きていくしかないわけですが、大人でも苦労するストレスの克服、子どもたちにはその手に余る難解な課題といえます。幼いがゆえに自分の状況をうまく説明できず、ある日突然問題が表出することも珍しくありません。そこで今回は、子どものストレスの特徴や対処法について、臨床心理士として日々カウンセリングを行っていらっしゃる洗足ストレスコーピング・サポートオフィスの伊藤絵美先生にお話をうかがいました。
(取材・文 尾内通子)
目次
【インタビュー1】子どものストレスに特徴的なこととは?
「身体化」、「行動化」しやすい子どものストレスやストレス反応
――子どものストレス反応には、大人と比べてどのような特徴・違いがあるのでしょうか?
ストレスに対する反応の違いというのは、どちらかというと「個人差」によるところが大きいのですが、あえて子ども・大人という括りで特徴をあげるとしたら、子どものほうがストレス反応が「身体化」「行動化」しやすい、ということでしょうか。
ストレス反応は、大まかに、
- 頭にあらわれるストレス反応(ストレスを受けたことでさまざまな考えやイメージがわきあがり、不安になったり落ち着かなくなったりする。いわゆる悩んでいる状態)
- 気分や感情にあらわれるストレス反応(イライラする、苦しい、憂鬱など)
- 身体にあらわれるストレス反応(お腹が痛い、胃が痛い、眠れない、おしっこがしたくなるなど)
- 行動にあらわれるストレス反応(いじめる、ものに当たる、手を出す、泣く、ひきこもる、抱きつく、怒る、指をしゃぶるなど)
の4つに分けることができるのですが、低学年から中学年くらいの子どもは言語化する能力がそれほど成長していないこともあり、自分の中の気持ちの変化に対しても捉え方が大雑把になるため、反応も③のように「身体化」、つまり身体的な不調に置き換えられて表に出やすくなります。心の中がつらいのだけれど、その状況をうまく説明できないために、「お腹が痛い」という身体的な不調として訴えるのは典型的なパターンです。
もう一つの特徴である「行動化」は、動物をいじめる、妹や弟をいじめる、ものに当たる、友だちに手を出すなどが当てはまります。
ちなみに、小学校高学年くらいになると、①の頭にあらわれるストレス反応が徐々に優勢になり、もんもんと悩む、考え込むようになります。
子どものストレス反応に対処するときに注意すること
――たとえば「お腹が痛い」という場合は、それがストレスが原因なのか、病気が原因なのか見た目にわかりませんから、やはり注意が必要ですよね? 見分けるコツはあるのでしょうか?
身体的な不調を訴えたときは、まず小児科に行って医師の診察を受けることが第一です。医学的に明確な問題(病気、症状)が確定できなかった場合に、はじめてストレスに由来するものかもしれないと考えるほうがよいと思います。
――年中「お腹が痛い」と訴える場合はどうですか?
やはり第一は医学的鑑別診断を受けるようするべきでしょう。日常的だからといってストレス由来とは限らないし、日常的不調の場合大きな病が隠れていることも考えられるからです。素人判断はしないほうが賢明です。
――行動にあらわれるストレス反応にはどうすればいいですか?
生き物を傷つける、だれかをいじめる、意地悪なことをする、暴力を振るうのは、ダメなことなので、そこは「ダメなこと」「許されないこと」であることを伝え、やめさせることが大切です。
ただ、止めさせると、原因となったストレスだけが子どものなかに取り残されることになるので、代わりのストレス発散法を提示してあげましょう。たとえば「イライラするのなら、殴り書きしてみる」「グルグルと自分の頭の中を回り続ける考えを止めるため、紙をひたすら細かく細かくちぎる」(※) 「石を投げたらまずいけど、クッションなら投げていいよ」などがいいですね。
子どもにとって耐え難いストレスとは何か?
――子どもはどのようなことに対して強いストレスを感じるのでしょうか?
「否定される」・「恥ずかしい思いをさせられる」など「やられた」感覚をもたされたり、「注目してもらえない」・「ほめてもらえない」など「欲しいものをもらえない」感覚をもたされたり、「お兄ちゃんと比べてあなたは!」のような「他人と比べられる」などをされたりすると、強いストレスを感じるようです。大人でも「自分が大切に扱われていないと感じる」のはいやなものですよね。非力な子どもならなおさらです。
――子どものストレスを軽減するもの、軽減してくれるものとしてはどのようなものがありますか?
サポートしてくれる存在の人がいるかいないか、が大きいのではないでしょうか。つらいストレスを受けたとしても、サポートしてくれる人(親、兄弟、先生、近所の大人、親戚)がいるとストレスから受けるつらさの度合いも変わってきます。(※) 「つらい」と言えない環境がさらなるストレスになるのでとても重要です。
プロフィール
伊藤 絵美 (いとう・えみ)
臨床心理士、精神保健衛生士。洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長。千葉大学子どものこころの発達教育研究センター特任准教授。慶應義塾大学文学部人間関係学科心理学専攻卒業。同大学大学院社会学研究科博士課程修了、博士(社会学)。専門は臨床心理学、ストレス心理学、認知行動療法、スキーマ療法。大学院在籍時より精神科クリニックでカウンセラーとして勤務。その後、民間企業でのメンタルヘルスに従事、2004年より認知行動療法に基づくカウンセリングを提供する専門機関を開設。2011年より千葉大学で教育・研究に携わる。近著に『イラスト版子どものストレスマネジメント』(合同出版)がある。