特集

親子で楽しむオーケストラ  ~コンサートのすすめ~(1)

「子どもには“本物”を見せたい、聴かせたい」。そう考えてはいても、「クラシックコンサートはちょっと……」と二の足を踏んでしまう保護者の方は少なくないようです。「子どもが寝ちゃいそう」「じっとしていられない」「チケットが高そう」など、さまざまな理由が聞かれます。
でも、だいじょうぶ。昨今はお子さまたちが楽しめるように工夫を凝らしたプログラムや、気軽に親しむことができるイベントが、あちこちで開催されています。こういった機会を利用して、子どものころから生のオーケストラの音楽に触れることは、一般に思われている以上に大切な経験だという指摘も。日本オーケストラ連盟常務理事・事務局長の桑原浩さんに、その魅力と楽しむためのコツを教えていただきました。
(取材・文 松田 慶子)

目次

【数十人が1つの音楽を作り上げる “生”の迫力が最大の魅力】

【成長過程の今だから、得られることは大きい! 音楽教育プログラムとは?】

【もぞもぞ、ウトウトしてもOK! 子どもの心は揺り動かされている】

【気軽なものから本格派までいろいろ。コンサートに行ってみよう!】

数十人が1つの音楽を作り上げる “生”の迫力が最大の魅力

――そもそもオーケストラとは?

一般的には弦楽器、管楽器、打楽器の奏者が集まって1つの音楽を作り上げる楽団のことで、日本語では管弦楽団、交響楽団といいます。
ただ、それらの楽器の奏者が数人集まっただけでは、通常はオーケストラとは呼びません。5人なら五重奏、10人なら十重奏と呼び、何十人か集まってはじめてオーケストラといいます。当連盟に加盟しているオーケストラをみると、少人数の楽団でも40人を超えています。

――吹奏楽団もオーケストラですか?

いいえ、吹奏楽団は、文字どおり吹いて奏でる管楽器を中心に打楽器を組み合わせた楽団です。吹奏楽団にもコントラバスという弦楽器が入っていますが、多くても数人です。それに対しオーケストラは、全体の楽器の構成の約半分を弦楽器が占めています。

――オーケストラの魅力って、何でしょうか?

まず、どんな音色でも出せるということがありますが、何といっても、数十人という人間が1つの音楽をつくりあげていくエネルギーです。人間にしかつくり得ない、ひき込む力がある。
たとえば人工知能をもつロボットが指揮をしても、正しい演奏にはなりますが、まったく魅力的ではありません。生身の何十人という人間がつくるからこそ、感情が演奏にあらわれておもしろみも出るし、その日の雰囲気や天候などにも影響を受けて即興性も出てくる。それらがエネルギーとなって聴く人をひきつけるのだと思います。
コンサートホールに行くと、なおのことエネルギーを感じますよ。

――CDではわからないのですか?

すべてを伝えきることはできないと思います。CDは音を抽出して再現していますね。そうすると、耳には聴こえない響きがカットされてしまうのです。それに対して、コンサートホールで聞くオーケストラの演奏は、繰り返し再現はできない、100%生の音です。拡声器さえ通していない。指で弾き、こすり、息を流し込んで音を出す。それらがすべて客席にじかに届くのです。

――生で演奏を聞くと、そういう部分も含めて全身で音楽を受け止めることができるのですね。

はい。もう1つ、客席と舞台との一体感も魅力です。音楽を聴くという行為は、決して受け身ではなく能動的な行為です。集中し、楽しんでくださることがホール内の雰囲気をつくり、舞台上の指揮者や演奏者はさらにそれに応えようとします。こうして一体となって音楽をつくり上げ、感動を共有する。これは100年、200年前からずっと変わらない、生演奏の魅力だと思います。

成長過程の今だから、得られることは大きい! 音楽教育プログラムとは?

――近年、「音楽教育プログラム」として、子ども向けコンサートが多数開催されていると聞きます。これは、どういうものでしょうか。

 

©池上直哉 
東京交響楽団「こども定期演奏会」こども奏者共演を終えて

子どもたちが、音楽をとおして「心」や「感性」をはぐくむことができるように、子どもたちにも受け入れられやすいような構成にしたコンサートです。たとえば、日本フィルハーモニー交響楽団では、1975年からエデュケーション・プログラムとして「夏休みコンサート」などの親子コンサートを開催しています。また、定期開催の子ども向けコンサートの草分けとして知られているのが、東京交響楽団の「こども定期演奏会」です。近年、文部科学省が情操教育などの目的で芸術鑑賞を推奨するようになったこともあり、取り組むオーケストラが増えています。
コンサートホールでのコンサートのほか、小学校や中学校にオーケストラが出向いて、体育館で演奏するものもあります。

――小学生には、オーケストラもクラシックも、まだ早いという人もいますが……。

そんなことはありませんよ。低学年であってもその年齢なりに深く受け止めています。演奏会の現場にいると、お子さんたちの表情の変化などからよくわかります。
それに心の成長過程にあたるこの時期にこそ、機械を介在しない本物の音楽を聴くことは大事です。先述のように、生演奏はCDでは再現しきれない多彩な刺激を与えることができるし、感性に訴え心を揺さぶることができるのです。
実際に、当連盟が2015年から2016年にかけて行った調査で、オーケストラの音楽を聴いた直後の小学1~6年生2944人にアンケートをとったところ、「ワクワクした」「ドキドキした」という感想はもちろんのこと、実に73%のお子さんが、「自分のなかで何かが変わった」と実感していることがわかりました。「こんなの初めてだ」「違う自分になった」と、ほかでは得がたい心が動き出すような感覚を得ているようです。さらに、3~6年生2087人に、演奏から半月ほど経ったあとの気持ちの変化を聞いたところ、76%のお子さんが、「元気が出てきた」「何だか穏やかな気持ちになった」と、前向きに変わったと答えました。
また、形も音も異なる楽器や、性別も年代も違う奏者が集まって、美しいシンフォニーをつくる様子を見ることで、昨今重視されているダイバーシティ(多様性)を自然に受け入れられるようになったという声もいただいています。

――いずれも、これからの社会で活躍するうえで、大切な力や感覚ですね。

はい。でも理屈抜きに、音楽を聴くことは楽しいんですよ。「子どもコンサート」「親子コンサート」と銘打ったものなら、なおさら純粋に楽しむことができます。
子どもは大人より集中力が長くは続きませんね。だから演奏する曲も短くし、アニメの曲を交えたり、途中でおもしろおかしく楽器を解説したり、観客も参加できるような仕掛けをしたり。各オーケストラが切磋琢磨し工夫をこらしています。もちろん、大人が聴いても十分に楽しめるプログラムです。むしろ、付き添いで行ったはずの保護者の方のほうが楽しんでいるという光景もよく見かけます。

プロフィール

公益社団法人日本オーケストラ連盟

日本の交響楽の振興と音楽文化の発展を目的に、1990年に設立された国内唯一のプロオーケストラからなる公益法人。現在全国36の楽団が加盟し、その情報を発信しているほか、交響楽に関する調査研究、情報収集や、振興を目的にした講習会、ワークショップ、公演の開催、会報の発行、国際交流イベントの主催なども行っている。3月31日の「オーケストラの日」には、気軽に交響楽を楽しむことができるイベントが全国各地で開催されている。

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