特集

キッチンで自由研究~身近なもので科学を実感しよう~(1)

いよいよ夏休みが始まりますね。せっかく「自由研究」に取り組むなら、科学への興味・関心が長続きするようなテーマを選びたいもの。そこで、今回は、身の回りにあるもので科学の力を実感し、知識を深めていけるような自由研究の題材と進め方のコツを、「科学する料理研究家」の平松サリーさんにうかがいました。

目次

まずは身近なもので科学の力を実感してみよう

やってみよう! ① ~アントシアニンの実験~

やってみよう! ② ~色が変わる?! カラフル焼きそば~

1回実験しておわり! にならないために……

 

まずは身近なもので科学の力を実感してみよう

――子どもが科学に興味をもつにはどうしたらよいとお考えですか?

自分の例で恐縮ですが、子どものころ、わたしの家には小学生向けの科学実験の本があって、よく試していたんですね。「紫キャベツの液にアルカリ性のものを入れると色が変わる」とあれば、「本当に変わるのかな? どのくらいの時間で変わるのかな?」と思って。「レモン汁を入れると変わる」と書いてあったら、少し入れるのかたくさん入れるのか、少し入れたときとたくさん入れたときは色がどう違うのかといったことが気になり、そこまでの情報は載っていないのでやってみるわけです。
実際にやって確かめることを繰り返し、現実に起きている事象や実際の現象を見たときに、「これってどういうことなのかな?」と疑問をもてるようになって、今度は知識を得るために本を読んでみるという活動ができるようになると思うんですね。最初は知識の実証から始まったものが、実験してみる→知識が深まる→知識が複合的につながっていく、というわけです。
 まずは難しく考えずに、最初は本に書いてあることが現実とリンクするということを学習するというか感覚として知るというところから始めてみるのがよいと思います。

――平松さんご自身もそのような経験をされてきたのですね。他にも子どものころのエピソードはありますか?

たとえば「水と油は混ざり合わない。身近な例ではドレッシングがある。」と本で読んで知ったときに、「冷蔵庫にドレッシングある?」と親に聞いて、実際に目で見て確認するような子どもでした。
何か知識を得たときに、本に書いてあることを1回ちょっと疑ってみて、なるべく自分で試してみることは大事なことだと思います。「水と油って混ざり合わないって書いてあるけど、本当にそうなの?」とか、「マヨネーズはお酢と油を使っているけど、卵を入れているから分離しないんだよ」と言われたら、「本当にそうなのかな?」と疑ってみて、実際にマヨネーズを作ってみるといったようなことです。ドレッシングやマヨネーズはどこのご家庭にもあるものですし、目で見て実感しやすいものだと思います。

――実際に実験をしてみて、どのように知識を深めていくのですか?

先ほどのマヨネーズはなぜ分離しないのかという話ですが、卵のレシチンが乳化剤の役割をしているから分離しないんですね。乳化剤なんていうとなんだか難しいイメージで、科学っぽい名前なのですが、マヨネーズ以外にもいろいろな食品で使われていて、水と油が分かれないようにしています。だんだんと食品の成分表示が自分で読めるようになってくると、いろいろな食品の成分表示のなかに乳化剤が入っていることがわかります。

 また、乳化剤を別の言い方では、界面活性剤と言います。意味としてはほぼ一緒ですが、食べ物関係に使うときは乳化剤と呼び、洗剤や化粧品に使うときには界面活性剤と呼びます。油汚れが服についてしまったときに、水に油は溶けないので、そのまま水に浸しておいても油汚れはとれませんね。でも、洗剤のなかに入っている界面活性剤が水と油の間を取り持ってくれるため、油をくっつけて水に溶かして油汚れを浮かしてくれます。洗剤が汚れを落とす仕組みと、マヨネーズが分離しない仕組みの元をただすと一緒というか、同じところに結びついてくるんですね。1つの知識を身につけると、別のところにもどんどん広がっていき、応用が利くことが科学のおもしろいところだと思います。身近な科学を深めていくと、あの話とこの話って一緒だったんだ! とか、理科の授業で習ったことが家のなかにあるものに関係してるんだ! といった知識が有機的に繋がっていくんですね。

――知識を得たらまず実証してみて、その後、別の事象にも応用してみたり、いくつかの知識を結び付けてみたりすることが大切なのですね。

現象を見ただけで「なぜそうなるの?」と疑問をもてる未来のエジソンやアインシュタインみたいなお子さまはよいのですが、初めから疑問にたどりつけるところまでいかないお子さまも多いと思うんですよね。そこで、まずは知識を得たときに本当にそうなのか実証してみるという意味での実験を試してみるのがいいのかなと思います。

 

やってみよう!① ~アントシアニンの実験~

ここからは、実際にキッチンでできる実験を平松さんにご紹介いただきました。

食べものや料理に関する科学のなかでも、見た目の変化があるものや色に関するものは、目で見てわかるので興味をもちやすいですし、イメージもしやすいのではないかと思います。ここでは食べものの色に関する科学と簡単な実験を紹介しましょう。

食べものには、赤、紫、緑、茶など、さまざまな色のものがあります。これらの色は、それぞれの食べものに含まれる「色素」の種類や量によって決まります。たとえば、トマトは未熟なうちは緑色の色素が多いので緑色に見えますが、熟してくるとリコピンという赤色の色素を多く作り出し、真っ赤に色付きます。品種によってはリコピンを作らないものもあるので、そのような場合は熟しても緑色のままです。

さて、このような色素のなかには酸性/アルカリ性にしたり、加熱したり、空気に触れさせたりすることによって色が変化するものがあります。ここではそのひとつ「アントシアニン」という色素について取り上げようと思います。

アントシアニンはナスの皮や紫キャベツに多く含まれる色素です。この色素は中性では青みがかった紫色に見えますが、酸性にすると赤紫色やピンク色になり、アルカリ性にすると水色や緑色に変化するという性質があります。

アントシアニン液を作ろう

アントシアニンを溶かし出した「アントシアニン液」を作り、色の変化を確認してみましょう。
【材料】
・紫キャベツ 1枚
・熱湯 200ml
【作り方】
①紫キャベツを切る。
 紫キャベツは包丁で5mm幅程度の千切りにし、耐熱容器に入れます。
②お湯をそそぐ。
 熱湯をそそぐと、お湯が青紫色に色づいてきます。5分ほど置いてから軽くかき混ぜ、茶こしやざるなどで液をこしてキャベツを取り除いたらできあがりです。
 紫キャベツが手に入らない場合は、ナスの皮で代用することもできます。ナスの皮(ピーラーなどでむく)1本分を細かく刻み、100mlの熱湯を注いだら、あとは紫キャベツの場合と同様です。

アントシアニンは非常に水に溶けやすい成分なのですが、通常は細胞の膜の内側に包まれているので、野菜を切って水に浸しておくだけでは溶け出してきません。しかし、加熱すると細胞の膜が壊れてなかの成分が出入りできるようになります。そのため、刻んだ紫キャベツやナスの皮を熱湯に浸しておくと、色素が細胞の外に溶け出し、アントシアニン液を作ることができます。

アントシアニン液の色の変化を確認しよう

用意するものは、先ほどのアントシアニン液100ml程度と、コップ3個、混ぜるもの3本、お酢、重曹です。コップは色の変化がわかりやすいよう、白い紙コップを使うか、透明なプラコップの下に白い紙を敷くとよいでしょう。重曹は耳かき1杯分程度を大さじ1の水で溶いておきます。

まずは3つのコップにアントシアニン液を大さじ2杯ずつ取り分けます。それから、そのうちのひとつにはお酢を、もうひとつには重曹を溶かした水を、少量ずつ加えて混ぜてみましょう。残りのひとつは色を比較するため、何も加えずにおいておきます。さて、それぞれどのような色になるでしょうか。

お酢を加えたものは紫色からピンク色に、重曹水を加えたものは水色や緑色に色が変わるのを確認できるはずです。

アントシアニン液は、身近なものの酸性・アルカリ性を調べるのに使うこともできます。先ほどの実験と同じようにコップに少量ずつ取り分けて、調べたい液体を加えてみましょう。たとえば炭酸水やレモン汁、卵の白身、梅干しの汁、こんにゃくの汁などがおすすめです。

色の変化を調べたら、なぜその液体が酸性・アルカリ性なのか、成分や作り方を調べてみると興味が広がるきっかけになるかもしれません。

食品以外にも化粧水、シャンプー、虫刺されの薬、洗剤なども調べてみてもよいでしょう。これらは用途や使う場所によって、あえてアルカリ性だったり中性だったりするのでそういった違いを考察したり調べたりしてみるのもおもしろいですよ。

 

料理のなかのアントシアニン

アントシアニンの色の変化はふだんの料理のなかでも見かけることがあります。たとえばお寿司と一緒に食べることの多い“ガリ”。これは、新しょうがをさっとゆでて甘酢に漬けたものです。新しょうが自体は薄いクリーム色をしていますが、甘酢に漬けると酸性になり、アントシアニン色素が発色するためほんのりとピンク色に色付きます。

このほかに、いちごやブルーベリーなどのベリー類、ぶどう、紫玉ねぎ、ラディッシュ、みょうが、赤しそなどにもアントシアニンが含まれています。

みょうがはしばしば、さっとゆでて甘酢にひたし、鮮やかなピンク色に発色させて使うことがあります。箸休めとして焼き魚に添えたり、香りづけに和え物や酢飯などに混ぜ込んだりして使われますが、彩りとしてもきれいです。

紫キャベツや紫玉ねぎなどの野菜も、さっとゆでたり電子レンジで加熱したりしてから甘酢をかけると色が鮮やかになるので、お子さまと一緒に試してみてはいかがでしょうか。

また、しそジュースや梅干し作りでも赤しそのアントシアニンによって色が変化する過程があるので、親子で作り方を調べてみるとよいでしょう。

プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

関連リンク

おすすめ記事

スッキリ片づけて新学年に! 「選ぶ」から始める子どもの片づけ力UP!(1)スッキリ片づけて新学年に! 「選ぶ」から始める子どもの片づけ力UP!(1)

特集

スッキリ片づけて新学年に! 「選ぶ」から始める子どもの片づけ力UP!(1)

「感じる心」を大切に!親子で理科や科学を楽しもう(1)「感じる心」を大切に!親子で理科や科学を楽しもう(1)

特集

「感じる心」を大切に!親子で理科や科学を楽しもう(1)

子どもの思春期を上手に迎えるために(1)子どもの思春期を上手に迎えるために(1)

特集

子どもの思春期を上手に迎えるために(1)


Back to TOP

Back to
TOP