特集

「ここ一番」に強くなる(3)

インタビューでは、本番で力を発揮するためには、日ごろの練習のなかで心を鍛えることが大切というお話をしていただきました。具体的には、どのような取り組みをすればよいのでしょうか。実際にふだんの生活の中に取り入れられるトレーニング方法を、高妻先生にうかがいました。 (お話=高妻 容一先生、文=松田 慶子、構成=編集部)

やってみよう!「本番力」育成トレーニング

やる気を高める「目標設定」

やる気を高める「目標設定」

「目標設定」は、やる気をもち、夢に向かって前進するための力を養うトレーニングです。将来どうなりたいかという夢を最終目標として、そのためには何をしていけばいいかという道筋をお子さまと一緒に考えましょう。
たとえばお子さまに「有名なピアニストになりたい」という漠然とした希望があるなら、「じゃあ、30歳くらいでそうなれるといいかな」などと話しながら、最終目標に設定します。次に、そうなるための具体的な目標を、時系列を追って「目標設定用紙」に書いていきます。書くことで、今日の練習が夢につながっていると実感でき、やる気がわきます。同時に、夢を現実感を伴って考えられるようになりますし、そうなった自分を想像することで、「好き」という気持ちを強くすることができるでしょう。
目標設定表は、高学年くらいの子どもであれば自分ひとりでも完成させられます。夢が変わるたびに何度でも書き換えてかまいませんので、ときどき取り組みましょう。まだ長期的な視野で考えることが難しい低学年のうちは、あこがれのプレイヤーや選手を見つけて、その人に近づくことを目標とし、プレーや練習法のまねをしてみるのでもかまいません。
どんな練習も、「そこそこでいいや」と思いながらやるのと「日本一になるぞ!」と思いながらやるのとでは、身につくものが違ってきます。ぜひ目標設定用紙を活用してみてください。

プラス思考を身につける「セルフトーク」

プラス思考を身につける「セルフトーク」

本番でも練習のときでも、プラス思考をもつことは大切です。「ついてないなぁ」とマイナス思考を抱くと、くよくよ考え込むようになり、ため息が出て呼吸が乱れ、ミスをおかしやすくなります。そのせいでますますマイナス思考になり……という悪循環に陥ることが指摘されています。
ただ、ピンチのときだけ「プラス思考に切り換えよう」というのは無理な話。ふだんからトレーニングをしてプラス思考を身につけておく必要があります。そこで試してみてほしいのが、ひとり言をポジティブな内容にする「セルフトーク」です。たとえば朝起きたときや洗顔時に、「今日も元気でがんばろう」「髪型、いい感じに決まった」と言ってみたり、勉強中には、たとえ難しくても「解ける解ける!」「絶好調!」と自分を励ましたりしてみましょう。その際、ボソボソしゃべってもあまり効果は期待できませんから、「明るく」「ハキハキと」「語尾を上げて」やってみてください。

プラス思考の習慣づけは、家庭内での雰囲気づくりがなにより大切です。保護者が率先して「おはよう。その服、似合っているね」「おなか空いたの? 最高においしいご飯をつくるね」「パパが帰ってきた。うれしいね」など、ポジティブな会話を照れずに口にしていると、子どもも自然に口にできるようになりますよ。

プレッシャーをはねのける「セルフコントロール」

プレッシャーをはねのける「セルフコントロール」

プレッシャーのかかる場面でも、緊張・興奮レベルを上げすぎず、下げすぎず、中庸に保つには、緊張感を静め、プレッシャーをはねのける「セルフコントロール」のスキルが必要です。いくつかトレーニングプログラムがあるなかから、いちばん簡単で効果的な「深呼吸」のテクニックの一つを紹介しましょう。
緊張すると呼吸は浅く、速くなってしまいますが、意識的に大きく、ゆっくり深呼吸することで、緊張をやわらげることができるため、運動前だけでなく舞台や試験の本番前にも有効です。ただ深呼吸するだけでなく、右のように体を動かしながら呼吸すると効果的で、リラックス効果もアップしますよ。最初はお子さまと向かい合い、呼吸と動作をまねさせるかたちで行うとよいでしょう。

息はゆっくり吸い、ゆっくり吐くことを心がけてください。
5秒かけて息を吸い、7秒かけて吐くのが目安です。

  1. ハハッと笑い息を吐いたあと、鼻からゆっくり息を吸いながら、手のひらを上にして両手を胸の高さまで持ち上げます。
  2. 口をすぼめて「ふーっ」と音が出るように強くゆっくり息を吐きながら、手のひらを下に向け、空気を押すように両手を下げます。
    ――3回繰り返す――
  3. 今度は手の動きを変えます。体の前で手のひらを向かい合わせ、息を吸いながら両手を横方向へ広げます。
  4. 先ほど同様、強くゆっくり息を吐き出しながら、手のひらで空気を押しつぶすように両手を近づけます。
    ――3回繰り返す――
  5. 息を吸いながら、今度は手のひらを下に向けて両手を胸の高さまで持ち上げます。
  6. 手のひらで空気を下に押すようにしながら、息を2回に分けて吐き出します。
  7. 5 ・6 をもう一度繰り返します。今度は、息を吸ったあと、少し止めてから吐き出しましょう。

成功を想像する「イメージトレーニング」

成功を想像する「イメージトレーニング」

成功した状態のイメージをもつことは、「あとはこれを実行するだけ!」という気持ちを喚起し、本番での成功にもつながります。まずは「自分がこうなりたい」と思う姿(入試問題がスラスラ解ける姿や、バスケットボールの試合でシュートを決めた瞬間など)を具体的に思い浮かべ、続いて、その理想の自分になったつもりで、自分の視点から見える世界(会場の雰囲気やライバルの様子など)を想像してみるのです。
イメージトレーニングの際には、実際に体を使うことが大切。五感を使って、ゴールにボールが吸い込まれる音や、コートを覆う匂いなどを想像してみたり、シュートの動作をスローモーションでやってみたりすることで、よりリアルなイメージを抱くことができるでしょう。
また、成功をイメージするのに慣れたら、本番前に、当日の様子を親子でイメージしてみましょう。このときは、理想的にうまくいった状態を想像するだけでなく、「もし電車が遅れたらどうする?」「忘れ物をしてしまったときは?」など、起こりうる事態を想像してみるのもいいですね。どんな状態にも落ち着いて対応する自分をイメージできれば、当日の自信につながりますし、実際に起きてしまった場合も、あがったりあわてたりするのを防げます。

今やるべきことに意識を向ける「集中力」

今やるべきことに意識を向ける「集中力」

本番前は、ついつい気負いすぎたり、「前もここで失敗したんだよな……」と考えすぎたりと、気が散ってしまうもの。集中力とは、「今自分がすべきこと」に意識を傾けられるスキルのことで、練習のパフォーマンスを上げるためにも必要な力です。
集中力を高めるテクニックには、「パフォーマンスルーティン」と「フォーカルポイント」があります。「パフォーマンスルーティン」とは、集中力を高める「手順」のこと。イチロー選手が、いつも同じ動作でバッターボックスに入るように、「この手順が落ち着く」という動作を見つけるか、あるいは作るかして、ふだんから習慣にしてしまうのです。これは無意識に行っていると自分ではなかなか見つけにくいものですから、練習の様子を映像に撮っておいて見返したり、保護者の方が「前にサービスエースをとったとき、最初にボールを3回ついていたよ」と伝えたりして、動作を見つけるとよいですね。
「フォーカルポイント」とは、集中力を高める「合図」のことで、会場や教室内のある一点を定め、「ここを見れば自分は集中する」と決めてしまう方法です。教壇、蛍光灯、ゴールポストなど、本番の会場にあるもので、見やすいところならどこでもかまいません。大切なのは、「そこを見たら自分は必ず集中できるのだ」と子ども自身が信じきること。日ごろの練習や勉強のなかで、何度も実行し、自分に言い聞かせることが大切です。

今回ご紹介した内容は、高妻先生のご著書『子どもの本番力を120%引き出す方法 スポーツの試合や発表会・受験に必ず役立つ!』(PHP研究所 本体価格:1200円)に掲載されているものを参考にさせていただきました。

プロフィール

高妻 容一(こうづま・よういち)

東海大学体育学部教授。専門はスポーツ心理学。スポーツ選手の心理的スキルを向上させることによって競技力向上を図るメンタルトレーニングの普及活動をしている。1955年、宮崎県生まれ。福岡大学体育学部、中京大学体育研究科修了後、フロリダ州立大学へ留学。本場のメンタルトレーニングを学ぶ。帰国後、近畿大学教養部在任中に、メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会を設立。以来、現職に着任後も、メンタルトレーニングの普及と現場でのトレーニング指導に尽力する毎日。教え子にはオリンピック選手も多い。近著に『子どもの本番力を120%引き出す方法』(PHP)がある。

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