特集

「ここ一番」に強くなる(2)

プラス思考は「本番力」の土台。家庭内の雰囲気づくりを

「心」のトレーニングに終わりなし 生活の中での習慣化が大切!

――トレーニングをすれば、だれでも平常心を保てるようになるのでしょうか。

メンタルトレーニングは、心配性だったり、神経質だったり……といった個人のもともとの性格を問題にしないものです。ですから、訓練によってだれでも身につけることができますよ。ただし、強調しておきたいのですが、メンタルトレーニングは魔法ではなく、技術や体力の向上をめざすのと同様のトレーニングの1つです。コツを教えてもらえば、翌日からだれもがホームランを打てるわけではないように、後述する内容を、毎日こつこつと積み重ねることが大事なのです。

メンタルトレーニングはほかのトレーニングと違い、授業中や家庭での生活のなかでも実践しやすいものです。野球のイチロー選手、卓球の伊藤美誠選手などの一流選手は、保護者がサポートに熱心である点が共通しています。これはつまり家庭が「技」「体」もさることながら、「心」を育てやすい環境であるよう、保護者が努力していたということです。
平常心を保てるようになると、行動や成績が明らかに変わってきます。ピンチの場面で「もうだめだ」と浮き足立つか、「よし、まだだいじょうぶ」と集中できるか。実力が拮抗している一流選手の闘いほど、メンタル面が明暗を分けるカギになりますから、子どもがいちばん長い時間を過ごす家庭でこそ継続してトレーニングしてほしいですね。

――具体的には、どのようなトレーニングを行っているのでしょうか。

わたしたちの指導するメンタルトレーニングでは、下の8つの心理的スキルの向上を図っています。これらをまんべんなく鍛えることで、「本番力」とでもいうべき力を育てることができるのです。

メンタルを強くする! 8つの心理的スキル

大切なのは、取り組む子ども自身が「トレーニングである」と理解すること。そして、日常生活のなかで習慣化させてしまうことです。一流選手になっても「技」「体」を鍛え続けるように、「心」のトレーニングにも終わりはありません。ですから、いつもあたりまえのようにやっていることのなかに、メンタルトレーニングの要素を含められるといいですね。

たとえば、日々のあいさつ。あいさつは基本的にポジティブな声かけであり、意識して行うことで、「プラス思考」の鍛錬ができるんですよ。上を向いて声を張れば、呼吸が深くなり気持ちも体も動きやすくなって、思考も前向きになるように、人間の体はできています。また「おはよう!」と、顔を上げて大きな声をかければ、相手もつられて大きな声になるでしょうから、自分だけでなく、相手の気持ちも明るくすることができる。これは子ども自身に実験させてもいいですね。「あなたが大きい声であいさつをすれば、お友だちも大きな声であいさつを返すようになるよ。おもしろいからやってみたら?」などと誘う。子どもは遊び感覚でハキハキあいさつをするうちに、気持ちも前向きになっていくでしょう。親の工夫しだいで、楽しく続けさせることができると思いますし、低学年のうちからも取り組めます。プラス思考は、平常心、ひいては「本番力」の土台になりますか ら、ぜひやってみていただきたいですね。

また、スポーツや勉強を続けていくためには、「ごほうびの○○が欲しいからがんばろう」という外発的な動機づけではなく、「もっとうまくなりたいからがんばろう」という自発的(内発的)な動機づけが必要ですが、それには明確な「目標設定」が効果的です。お子さまも、きっと今将来の夢をもっていますよね。その最終的な目標に向けて、たとえば20年後にはどうありたいか、そのためには5年後、1年後、今月、今日どうあるべきか、目標を設定していくのです。「新幹線の運転士になりたい」と子どもが言うなら、「大学で機械を勉強しておいたほうがいいみたいよ」などとアドバイスをしつつ、「それじゃあ苦手な理科や算数を克服しよう」、そのために「今日は難しいけれどこの問題にトライしてみよう」と、今日の目標にまで落とし込むことを、子ども自身にさせる。すると、今やっていることが夢につながると実感できますから、納得して勉強や練習に取り組めるわけです。

そうして、練習中のやる気やプラス思考を忘れないために、あわせて練習日誌をつけることをおすすめします。一日の練習や勉強の内容と、そのときの気持ちを文章で残しておく。その際は、あまり「反省」させないことがポイントです。「昨日より早く走れた」「文章の内容が理解できた」など、できるだけポジティブなことを書くことで翌日の練習が楽しみになります。勉強や習いごとなどは、子ども自身必ずしも「やりたい!」という気持ちだけではないかもしれませんが、記録をつけて読み返すことによって、自分の中に「楽しい」「好きだ」という気持ちがあることに気づけるものです。

保護者の役目は、一緒に楽しむこと

―― 子どもをその気にさせるのは、なかなか難しいことではないでしょうか。

親も一緒に楽しむことですよ。「ダイエットで5キロ減」でもいいから自分も目標設定を行い、日誌をつけて続けてみせるのです。その際、プラス思考を忘れないでください。親が楽しそうに目標に向かっていたら、子どももまねをしてトライするでしょう。いちばんよくないのは、親が子ども自身のやる気を損ねたり、プレッシャーを与えたりすること。家庭内での会話は、チームでいえばミーティングにあたるものですから、暗い言葉を使わずにコミュニケーションしてほしいですね。子どもも思春期になってくると、保護者の思うようにはなかなか動かないかもしれませんが、めげずに「うちはプラス思考でやっていくのだ」という雰囲気づくりをしてください。「ポジティブになれ」と口でいくら言っても人は動きませんが、プラス思考でいることで、気持ちが明るくなる、練習が楽しくなるなどの効果が実感できれば、自然と変わっていくものです。

スポーツは、勝ち負けだけでなく、努力や悔しさ、葛藤を経験することで人間的な成長にも寄与するものだと考えています。それを支えるメンタルトレーニングも、本番に強くなるだけでなく、目標をもって前向きに、自分をコントロールしながら歩み続けるという「人間力」を育てるもの。ぜひご家庭で実践していただいて、どんな分野においても、「一流」をめざす心を身につけていただきたいですね。

――ありがとうございました。

プロフィール

高妻 容一(こうづま・よういち)

東海大学体育学部教授。専門はスポーツ心理学。スポーツ選手の心理的スキルを向上させることによって競技力向上を図るメンタルトレーニングの普及活動をしている。1955年、宮崎県生まれ。福岡大学体育学部、中京大学体育研究科修了後、フロリダ州立大学へ留学。本場のメンタルトレーニングを学ぶ。帰国後、近畿大学教養部在任中に、メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会を設立。以来、現職に着任後も、メンタルトレーニングの普及と現場でのトレーニング指導に尽力する毎日。教え子にはオリンピック選手も多い。近著に『子どもの本番力を120%引き出す方法』(PHP)がある。

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