特集

子どもの思春期を上手に迎えるために(1)

やがて訪れる、お子さまの思春期・反抗期。自我の芽生えをほほえましく思いつつも、「あんなに素直だったのに」と寂しくなったり反抗的な態度にイライラしてしまったりと、その時期には、大人も子どもも心が揺れ動くものです。思春期は、子ども時代との決別のときといいます。今回の特集をとおして、少しずつその日に向けた心がまえをしてみませんか。

「うるさい」「何でやらなきゃいけないの!?」と文句を言ったり、無視したり……。子どもの反抗的な言動を目にしてドキッとすることは、子どもの年齢にかかわらずあるもの。反対に従順な態度を見て、「おとなしいけれど大丈夫?」「いつか爆発するのでは?」と不安になる人も。子どもが反抗するというのはどういうことなのか、親はどうするべきなのか――。子どもの発達に詳しい早稲田大学の本田恵子先生に、親に求められる態度について教えていただきました。
(取材・文=松田 慶子)

目次

思春期とはどのようなものか

「反抗」は悪いことではない。成長に不可欠な「対立」と受け止めて

――現代っ子は反抗のしかたが親世代とは異なっているとか、反抗期のない子どもが増えているという話を聞きます。本当でしょうか。

その傾向はありますね。本来子どもは、各発達段階で社会と対立するのがあたりまえなんです。それが「反抗」であり、衝突によるストレスを克服しながら、自我と社会とのおりあいをつけていくもの。

たとえば子どもが2、3歳になると、言葉が出て探究心が旺盛になる(下図内1)。手当たりしだいに物に触り、取り上げようとすると、「いやだ」と言って離さない。これを見て大人は「反抗的になった」と感じるかもしれませんが、触りたいという子どもの欲求と、触らせたくない大人の考えの対立、ともいえますよね。そうして対立するなかで、子どもはルールを学ぶようになるのです。

感情をつかさどる右脳が優先していた幼児期に対し、小学校入学のころになると、言語や論理をつかさどる左脳が追いついてきて、大人の指示を鵜呑みにしなくなる(下図内2)。その傾向は学年が上がるにつれて顕著になりますが、5、6年生になるとほかの人の気持ちを推測し、全体を見通すことができる子どもが増えてくるため、表現のしかたが落ち着いてきます(下図内4)。

そして、14歳。思春期、臨界期と呼ばれる年ごろです。この時期は、「子どもだった自分が死んで、大人の自分が生まれるとき」といわれています。それは子どもにとってももどかしい過程で、大人の価値観と子どもの価値観がせめぎあうために不安定でイライラしやすく、ときに暴力となって表れることもあります(下図内5)。

【図】子どもの発達と反抗の傾向の変化

子どもの反抗は、その発達段階において変わっていくもの。このような反抗・対立を一つひとつクリアすることで、やがて自我が統一され、大人になっていくのです。

 

1 言葉を知り自我や探究心が生まれる

大人から見て危険な行為や、やってほしくない行動にもどんどん手を伸ばし始めるが、あえて反抗しているのではなく、「自分の世界を広げたい」という純粋な思いからの行動。この時期の反抗は「ここまではいい」「ここから先はダメ」というルールを学ぶ機会としてとらえられる。

2 認知・論理性が発達し自分なりの行動を取り始める

言われたことにただ従うのではなく、「自分で工夫したい」「人と違うことをしたい」という発想が生まれ、大人の困った顔を見ることに快感を覚える時期でもある。大人に指示されたことに対し、「どうしてそんなことをしなくてはいけないのか?」と反発するが、建設的にルールを変えられるほど成長しきれてはいないため、たんなるわがままに見えることも。

3 「自分を認めてほしい」という思いが強くなる

仲間内でのつながりを重視し、苦手な子・自分とは違う子に対しては攻撃的になりがち。一方で道徳心も育つため、社会の規範と自分の欲求との間で苦しむ。ストレスをうまく発散できない場合は、物にあたるなどの代償行為が見られることもある。

4 言語能力、論理性が成熟する

ほかの人の気持ちを推測し、全体を見通すことができるようになる子どもが増えてくる。一方で大人の言動を論理的に疑って分析し、おかしいと思ったことには、確信をもって反発するようになる。「いいからこうしなさい」と言っても「どうして? おかしいでしょ」と答えるので、大人からは反抗的だ、融通がきかないと見られてしまうことも。

5 身体的・精神的に大人になる準備を始める

思春期と呼ばれるこの時期は、昔でいう元服の年齢にあたる。子どもの自分と別れ、大人の社会に入っていくための通過儀礼が必要となるが、一方でまだ子どもでいたいという思いもあり、そこに葛藤が生まれる。親を乗り越えてゆくために、今まで受け入れてきた親の価値観のどれを取り入れるか、どのように発展させるかといった試行錯誤を進めるなかで、「親と正面から向きあいたい」「目をこちらに向けさせたい」といった思いが、暴れたり引きこもったりといった態度に表れることがある。

このような反抗を重ねながら、だんだんと大人になっていくのが一般的な流れなのですが、現代は、反抗の様子が見られない子どもが増えていて、クラスの3分の2が、大人の言うことに従順に従い、疑問をもたない「いい子」という時代です。同時に、反抗の時期が遅れている子どもも目立っています。小学校高学年になっても、低学年のように感情をむき出しにして反抗的な態度をとる子どもが増えているのです。

やりすぎの親が反抗の機会を奪う

――反抗期が遅くなっているのはどうしてでしょう。また、反抗しない子は突然爆発しやすいという話も聞きますが……。

反抗期が遅くなっているのは、正しく自分の感情を伝えたり、欲求を言葉にしたりするトレーニングが足りないためだと考えられます。テレビやパソコン画面からのわかりやすい映像に囲まれ、本やラジオのような、言葉の情報からイメージを組み立てる機会がなくなってきているせいで、表現力の成熟が遅れていることもありますが、親の手が行き届きすぎているために、反抗の必要がない子どももいます。触ってはいけないもので遊んだら、取り上げられるかわりに別のおもちゃが与えられる。おなかがすいているときには、子どもが訴える前に「おなかすいたのね」とおやつが与えられる。子どもがストレスを感じ対処する機会が奪われているのです。だから反抗する機会もなく、「いい子」になってしまう。

自分で考え、対処するトレーニングができていないと、指示されないと何もできないまま成長する危険もあります。また「怒り」に限らず「泣く」「はしゃぐ」など、幼少期に感情を高ぶらせる訓練を積んだ子どもは、自分をコントロールするすべを学ぶことができますが、その前に親がなだめてしまうと、「感情が高ぶったらどうなるのか」というのを自分で把握できないままに育ってしまう。刺激に対処し感情をコントロールする力がついていないので、大きなストレスに遭遇したとき、コントロールがきかずに「キレる」ということにもつながるのです。

⇒次ページに続く 思春期の子どもに対して、親ができることとは?

プロフィール

本田 恵子(ほんだ・けいこ)

1960年生まれ。コロンビア大学大学院修了。教育学博士。NY市などでスクールカウンセラーとして勤務後、帰国。玉川大学文学部助教授を経て、現在、早稲田大学教育・総合科学学術院教授。アンガーマネージメント研究会代表。
おもな著書に、『キレやすい子の理解と対応――学校でのアンガーマネージメント・プログラム』『キレやすい子へのアンガーマネージメント――段階を追った個別指導のためのワークとタイプ別事例集』(ほんの森出版)、『脳科学を活かした授業をつくる――子どもが生き生きと学ぶために』(C.S.L. 学習評価研究所)などがある。

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