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「わかったつもり」にならない学習習慣(1)

子どもに限らず、大人も陥りがちな「わかったつもり」。学習を進める過程で「わかったつもり」を生まないようにするために、有効な方法はあるのでしょうか。具体的な方法と、「わかったつもり」にならないために重要なスキルの一つとされる【メタ認知】について、教育心理学や認知心理学を専門とされている東京学芸大学の犬塚美輪先生にうかがいました。

(取材・文 浅田夕香)

目次

  

「わかったつもり」になってしまうのはなぜ?

――人はなぜ「わかったつもり」になってしまうのでしょうか?

これに関しては、「人間はそういうふうにできている」としか言いようがないものなんです。「自分はわかっていない」と過小評価するよりも、「わかっている」と過大評価するくらいのほうが、人として健やかでいられますよね。それは大人も子どもも同じで、「放っておくと、人はわかったつもりになる」というのが、自然な姿なのだと思います。

したがって、「わかったつもりにならないように気をつけて勉強する」というのは、少し頑張らないとできないことなんですよ。

――なにか、よい方法はあるのでしょうか。

自分の頭の中の状態を認識すること、その認識にしたがって必要な対応をとれるようになること。このスキルを高めていくと、「わかったつもり」を減らすことができます。こうした心の働きを、心理学では【メタ認知】といいます。

たとえば、買い物に行くときに「私はたくさんのことを一度に覚えられないから、買うものをメモしてから出かけよう」という判断・行動は、多くの方がしていることですよね。この場合、「私はたくさんのことを一度に覚えられない」という、自分についての【メタ認知的知識】をもち、その認識にしたがって「買うものをメモしてから出かけよう」という【メタ認知的活動】をしているといえます。

学習においてもこのような判断・行動ができるようになるには、まず「一般的に、人は一度にどのくらい覚えられるのか」「覚えられないときにはどう対処すればよいのか」といった知識をもっている必要があります。当然ながら、こうした知識は、生まれたときからもっているわけではないんですね。

小さな子が、持てそうにない量のおもちゃを抱えて「全部持てる!」と言いながら結局持てずに落としてしまうことがあるでしょう? あれは、「自分はどのくらい持てるのか」についての知識がない、あるいは、見積もりが上手にできないからなんです。このような見積もりや判断ができるようになるのは幼児期の後半ごろからと言われています。したがって、1・2年生のお子さんに対して「わかったつもりにならないように勉強しなさい」などと要求するのは、無茶な話なんですね。

保護者の方には、「普通、人はわかったつもりになるものだし、とくに子どもはそうなんだ」という認識をベースとしてもっていてほしいと思います。そして、高学年以降で「わかったつもり」にならないような習慣が身についていることを目指して、お子さまの学習にかかわっていただきたいですね。

  

「わかったつもり」にならない、家庭学習のコツ(1)低学年の場合

――低学年の子どもは、自分にできることの見きわめが難しいということですね。その前提をふまえて、保護者はどのように子どもの学習にかかわっていけばよいのでしょうか。

お子さん自身が、「自分は何がわかっていて、何がわかっていないか」に目を向けられるようなかかわり方がいいですね。
具体的に、お子さんが漢字の勉強をしようとしている場面で考えてみましょう。どちらの声かけがよいと思いますか?

A「全部の漢字を3回ずつ書いて練習してみようか」

B「最初に1回全部書いてみて、書けなかった漢字があったら、それだけ3回ずつ書こうか」

学校の宿題は、Aのような方式で出されることが多いかもしれませんね。ただ、これだと覚えている漢字も全部3回ずつ書くわけですから、子どもは飽きてしまいがち。しかも、覚えていない漢字についてはもしかしたら練習が足りない可能性もありますよね。

Bはどうでしょう。こういう声かけだと、子どもはなるべく書けるようになりたいと思いますから、最初の1回をすごく気をつけて書いたりするんですね。2回目に書くときも、「次に書けなかった漢字があったら、その字だけ3回ずつ書くようにしようか」と言うと、子どもの意識が変わります。そのうち、「自分が間違えそうな漢字はどれかな?」と考えて、その字を気をつけて練習したりするようになるんですね。つまり、人に助けられながらではありますが、【メタ認知的活動】をし始めるわけです。

――なるほど! 声のかけ方一つで、意識が変わるんですね。

漢字の書き取りのような単純な課題でも、「とにかく繰り返す」ばかりではなくて、1回練習するたびに、「じゃあ次はここを頑張ってみようか」と、「わかったつもり」になりにくい方法を具体的に提示しながらサポートすることが大事なんです。

そのうちに「自分はこの漢字がどうしても覚えられないんだ」と訴えてくるかもしれません。それも一種のメタ認知。自分の苦手なことに自分で気づけたわけですから、一歩前進ですよね。そういう訴えがあったら、「繰り返し書く」以外の方法として、「部首の意味を考える」「左右の組み合わせ(構造)を把握する」「似た漢字を集めてみて、どういうふうに使い分けるのか考えてみる」といった方法を提案してみるといいですね。むやみに繰り返すよりも、意味づけをしたほうが覚えやすいですから。

これはうちの子の例ですが、漢字の一部分が「目」なのか「日」なのかわからなくなってしまうというので、「じゃあ、どういう漢字が目で、どういう漢字が日か分けてみたら?」と言ったら、自分で分類してみて多少は納得感があったのか、「ちょっとわかったよ」と言っていました。

 

――漢字の書き取りや計算ドリルのような、単純反復で身につけていく課題でも、ただ繰り返すのではなくて、もっと別の方法があるよと教えていくことが大切なんですね。

そうです。低学年のうちに、「自分がわかっているところとわかっていないところを見つけるのって大事だな」と気づき、「どうすれば覚えられるかな?」と工夫する経験ができるように、段階を踏んでかかわっていくといいですね。そうすると、高学年以降「全体を理解する→理解できていないところを見つける→その部分を重点的に学習する」といった一連のサイクルを実践できるようになってきます。

 

ここがポイント!
【メタ認知】を促す声かけ例(低学年向け)

「間違えたところだけもう1回復習してみようね」
「覚えにくいものは、別の練習方法を考えてみようか」

⇒次ページに続く 「わかったつもり」にならない、家庭学習のコツ(2)高学年の場合

プロフィール

犬塚 美輪(いぬづか・みわ)

東京学芸大学 教育学部 教育心理学講座 准教授。博士(教育学)。東京大学大学院教育学研究科修了。日本学術振興会、東京大学先端科学技術研究センター、大正大学を経て、2017年より現職。専門は教育心理学、認知心理学。「文章を理解することについての心理学」に関心を持ち、文章理解のプロセスとその指導方法の開発に取り組んでいる。おもな著書に『認知心理学の視点―頭の働きの科学』(サイエンス社)、『論理的読み書きの理論と実践』(北大路書房)。

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