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どうつきあう? スマホ時代のデジタルメディア (1)

子どもたちの間にも、スマートフォンやタブレット端末などのICT機器が急速に普及しています。少し前までは、「携帯電話を小学生に持たせるのは早い?」という会話が保護者の方々の間で交わされていましたが、今や「いつからスマホに切り替える?」など、ICT機器を持たせることを前提とした会話が増えつつあります。同時に、SNSなど双方向で情報をやりとりできるサービスが小学生にも身近になったことから、新たなトラブルも増えているようです。改めて今、小学生のお子さまがこういったデジタルメディアと上手につきあうにはどうしたらいいか、考える必要があるのではないでしょうか。メディアリテラシーに詳しい千葉大学・藤川大祐教授に聞きました。

(取材・文 松田 慶子)

目次

ケータイからスマホへ。テレビから動画へ

どう防ぐ? SNSのコミュニケーショントラブル

ケータイからスマホへ。テレビから動画へ

2013年以降、スマホが急速に普及。「ゲーム障害」も深刻化

――藤川先生には2010年にも弊社の取材に応じていただき、ゲーム、テレビ、携帯電話との上手なつきあい方を解説していただきました。それから約10年。子どもたちを取り巻くデジタルメディアの状況は、どう変わったのでしょうか。

一番大きな変化は、2013年にスマートフォン(以下、スマホ)が急速に若い世代に普及したことです。携帯電話などの通信機器のうちスマホの所持率が、高校生で約8割に跳ね上がりました。スマホ自体はそれ以前からあったのですが、従来の携帯電話、いわゆるガラケー向けサービスがスマホ向けに移行し、また無料のソーシャルネットワーキングサービス(以下、SNS)のLINEが、前年から本格的に日本で広がりを見せたことで、高校生以下の世代がスマホに切り替えたのです。

――藤川先生も企画・分析に参加された内閣府の「平成30年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」を見ると、2018年度には、高校生でほぼ10割、中学生で約7割、小学生高学年でも5割近くがスマホでインターネットを利用しているという結果になりました。

スマホ時代になったということです。小学生ではタブレットの利用も4割を超えています。これが何を意味するかというと、アプリを使ってゲームやSNSが手元でできるようになった、つまりそれらのハードルが下がったということです。
今話題になっている「ゲーム障害」は、その影響を大きく受けている問題です。「ゲーム障害」は、自分ではゲームを止められなくなり生活に支障が生じている状態で、今年5月にWHO(世界保健機関)によって正式に精神疾患だと認定されました。
長時間のゲームを危険だとする指摘は以前からあったのですが、スマホの登場により、ゲームのプラットフォームがゲーム機からスマホに移ったことで、以前より使いやすい環境になりました。というのも、ゲーム機のソフトは有料ですが、スマホのゲームアプリは基本的に無料なので敷居が低い。種類も非常に多く、何時間でも遊べるのです。

――小学生のゲームとのつきあい方には頭を悩ます保護者が多いです。

ときどき楽しむ分にはいいのですが、長時間、利用すると悪影響が生じやすくなります。
1日に何時間もゲームをしていると、まず生活時間が乱れる。朝ちゃんと起きて学校に行くということができなくなるので、ますます学校生活になじめなくなってしまいます。さらに、現実社会では努力が報われるとは限りませんが、ゲームの世界は、継続すれば必ず報酬がある。現実よりゲームの世界のほうが、居心地がよいということになりかねません。
また、子どものとき何かに集中し、継続的に取り組む経験をしておかないと、大人になってからやりたいことが見つからない、長続きしないという事態になりかねないという研究があります。ゲームは楽しいかもしれませんが、もともと楽しませる仕組みになっているものです。それに乗っかるのではなく、好きなものを見つけ没頭する時間を持ちたい。大切な子ども時代をゲームで受け身で遊ぶことに何時間もとられてはもったいないですね。プログラミングまで突き詰めて自分でゲームを作るというのであれば話は違ってきますが。

小学生では動画の視聴が増大。ガラケー時代よりフィルタリング利用率が低下

――ゲーム以外でのここ10年間の変化はいかがでしょうか。

小学生でいうと、2017年くらいから動画の利用が非常に増えています。「YouTuber」が小学生の憧れの職業にあがるようになったことは知られていますね。子どもたちの共通の話題が、テレビからYouTubeになってきている。また、短い動画を作成・配信できる「TikTok」というスマホアプリも高学年の子を中心に人気です。小学生の場合、ほとんどの子は視聴しているだけですが、なかには小学生YouTuberなど自分で出演する子もいます。

――自分たちも情報を発信する側に立てるという双方向メディア時代の波が、小学生にも及んでいるのですね。その点で危険はないのでしょうか。


危険ですよ。「子どもにスマホを持たせるのは繁華街の入り口に一人で立たせておくようなもの」だと説明しています。警戒心を持ち、注意して行動できる子どもならトラブルに巻き込まれる危険は少ないでしょうが、無防備な子は悪い誘いにも安易にのりかねません。スマホを持たせるとはどういうことか、親御さんご自身が危険性について十分に理解し、お子さんに説明する必要があります。
ところがスマホ時代になったら、基本的なリスクマネジメントの手段であるフィルタリングサービスの利用率が、ガラケー時代と比べてかえって低下しているという矛盾が起こっています。

――どういうことでしょうか。

フィルタリングサービスとは、子どもが有害サイトにアクセスできないようにしたり、閲覧するページにアダルト広告が掲載されないようにブロックしたりするサービスです。ガラケーのころは、携帯電話会社にサービスを依頼するだけでよかったのですが、スマホの場合、ご家庭で設定しなくてはいけないので、ややこしいのです。
もちろん、フィルタリングサービスを利用してもトラブルを全部防げるわけではありません。たとえばLINEでのいじめは、フィルターとは関係なく起きるわけです。
しかしフィルタリングサービスで有害サイトへのアクセスなどをブロックできるのは確か。子どもには必須です。かけた上で、スマホを持つ危険を親子で共有するようにしましょう。

フィルタリングの方法については、藤川先生が委員を務めていたこともある「安心ネットづくり促進協議会」のサイトをご参照ください。
フィルタリングサービスを利用しましょう!

⇒次ページに続く 「どう防ぐ? SNSのコミュニケーショントラブル」

プロフィール

藤川大祐(ふじかわ・だいすけ)

千葉大学教育学部教授。専門は教育方法学・授業実践開発。メディアリテラシー教育をはじめ、ディベート教育、キャリア教育など、多様な分野の授業づくりに取り組む一方、いじめや学級経営に関しても研究。1965年、東京生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学後、金城学院大学助教授等を経て、2010年より千葉大学教授。2018年度からは千葉大学教育学部附属中学校長も兼任。『スマホ・パソコン・SNS よく知ってネットを使おう! こどもあんぜん図鑑』(講談社)、『スマホ時代の親たちへ』(大空出版)他、メディアリテラシーに関する著書・監修書多数。

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