特集

友だちづきあいで育む子どもの社会性(3)

基本は、子どもがどうしたいか。子どもどうしの衝突を学びに変える

――保護者の方のかかわり方を、具体的に教えてください。たとえば、消しゴムは白無地と決められているのに、ほかの子たちが持ってきているからという理由で色つき消しゴムを持っていったという場合、どんな向き合い方をするべき?

 お子さんが友だちと同じようにしたいのはわかりますよね。親御さんにも、その気持ちは大切にしてあげてほしいと思います。でも、みんながやっているという理由だけでルール違反を許し続けてしまうと、それが行き過ぎて、もっと大きな違反に発展してしまう可能性も否定できません。そこで、なぜそれをしたいのかていねいにお子さんに聞き、どうするか一緒に考えるといいですね。親御さんがそれをやらせたくない場合でも、意見を聞いたうえで、なぜダメなのか説明し、子どもが納得するように導いてほしいと思います。

――一方で、「ルールをかたくなに守ろうとするから心配だ」という保護者の方もいます。先程の例でいうと、クラスの大多数の子が色つきの消しゴムを持っているのに、「絶対ダメ」という。「融通が利かなくて嫌われそう」と心配になるものです。これは、暗黙のルールを読み取る力が育っていないということ?


 いえ、一概にそうは言えません。友だちどうしのルールを読み取ったうえで、やっぱり学校のルールを守ったほうがいいと考えて、あえて「ダメ」と言っているなら、それは自律的な行動だとポジティブに受け止めてほしいものです。
 やはりまずは、子どもの意見を受け入れた上で聞いてみる。「どうしてそう思うの?」「どうして友だちはそうするのかな?」と。
 親御さんが、お子さんが友だちとのことで融通の利かない部分を変えた方がいいと思うなら、ほかの考え方を提案するのもよいでしょう。「こういう考え方もあるんじゃない?」「その子の立場を考えると、こういうことを言わないであげるという方法もあるんじゃない?」など。いくつかの考え方のなかから選ばせるようにするのが、学びにつなげるために必要だと感じます。

――友だちどうしの慣習が負担になっている場合はどうしたらいいでしょう。たとえばLINE。メッセージを受け取ったらすぐ返信する、といったルールができあがっていて、スマートフォンを手放せなくなっているというお子さんも。

 この場合も、お子さんがどれだけ困っているか尋ねること、親御さんはどうして欲しいのか、それはなぜなのか伝えることが大切。お子さん自身がやめたいと思っている場合でも、「どうせすぐクラス替えがあるから、それまでは続ける」と判断しているなら、見守ってもいいかもしれません。でも、友だちどうしのルールのせいでストレスが高まり影響が出るとか、高額なお金がかかるなどトラブルに発展した場合には、親御さんが介入するべきでしょう。その際も、「○○ちゃんと話してみたらどう?」「私がお友だちのお母さんに話してみようか?」「先生に一緒に相談してみようか?」などと解決策を提案し、お子さんの意見を尊重して行動に移すことが大切です。

社会性はいつの時代にも必要な力。親子で“上手に”会話し、磨きたい

――IT化やグローバル化が進む中で、子どもたちには、みんなと一緒であることよりも、個性的であることが求められるようになっていると言われます。社会を生きるうえで必要な社会性も、親世代とは違っているのでしょうか。

 基本的には同じだと、私は考えます。冒頭に話したように、ほかの人に合わせる共感性も、自分自身を理解して個性を発揮する力も、どちらも社会性には不可欠です。両方が育っていれば、時代や社会の移り変わりに対応できるはずです。現代は周囲から浮かないようにと、共感性を教えることのほうが多いですね。でも、大学生や社会人になったら自己主張も大切になるわけで、やはり小さいころから両方を伸ばすようなかかわり方をしたいもの。お子さんが自由に考え、意見を言える家庭環境であることは大切です。

――高学年になると、会話をもとうとしてもいやがられてしまい……。

 うるさがられることもありますよね(笑)。それでも話す時間をもつことは大切です。そんなときは、なぜ自分の質問がうるさがられたか考えてみてください。タイミングや聞き方はどうだったのか。きっと工夫の余地があるはずです。またオープンクエスチョンといって、YESかNOかではなく、お子さんが自由に話せる聞き方をするのもいい方法です。
 高学年になっても、まだ決して遅くはありません。少しずつでもお子さんの考えに心を寄せるようにしてみてください。

――ありがとうございました。

プロフィール

酒井厚(さかい・あつし)

首都大学東京人文社会学部准教授。早稲田大学人間科学部を卒業後、2002年同大にて博士号取得(人間科学)。国立精神・神経センター精神保健研究所、山梨大学を経て現職。専門は発達心理学,発達精神病理学。主な研究テーマは子どもが他者に抱く信頼感と仲間関係の発達プロセス。日本パーソナリティ心理学会賞、日本子ども学会優秀発表賞等受賞。日本子ども学会の理事であり、2019年10月に首都大学東京で開催する第16回子ども学会議では大会長を務める。

関連リンク

おすすめ記事

スッキリ片づけて新学年に! 「選ぶ」から始める子どもの片づけ力UP!(1)スッキリ片づけて新学年に! 「選ぶ」から始める子どもの片づけ力UP!(1)

特集

スッキリ片づけて新学年に! 「選ぶ」から始める子どもの片づけ力UP!(1)

「感じる心」を大切に!親子で理科や科学を楽しもう(1)「感じる心」を大切に!親子で理科や科学を楽しもう(1)

特集

「感じる心」を大切に!親子で理科や科学を楽しもう(1)

子どもの思春期を上手に迎えるために(1)子どもの思春期を上手に迎えるために(1)

特集

子どもの思春期を上手に迎えるために(1)


Back to TOP

Back to
TOP