特集
子どものウソにどう対処する?(1)
2019.12.26
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思いがけず子どものウソに直面して、ショックを受けたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。子どもなりに「ウソはいけないもの」とわかっているにもかかわらずウソをついてしまうのには、どのような背景があるのか、また、保護者はどのように対処するとよいのか、子どもの対人コミュニケーション能力の発達について研究されている東京学芸大学・松井智子先生にうかがいました。
(取材・文 浅田 夕香)
目次
発達段階によって異なる、子どものウソ
――子どものウソにもいろいろなものがあるように思います。どのように分類できるでしょうか?
そもそも、発達段階によって子どもがつけるウソは異なります。
まず、最初につけるようになるのは、隠すためのウソ。たとえば、「チョコレート食べたでしょ?」「食べてないよ」といったウソを、3歳ごろからつけるようになります。3歳ごろから「怒られたくない」という気持ちが生まれ、「この状況では『やってない』とか『知らない』とか言ったほうがいい」といった判断がつくようになるためですが、まだこの段階だと、「おいしかった?」と尋ねれば「うん」と返ってくることも(笑)。単純で、ほほえましいウソといえるでしょう。
次の段階は、5歳ごろから。単純だけれど、相手を驚かせるような、現実でないことを想像して話すようなウソがつけるようになります。たとえば小学1年生くらいだと、「宿題やったの?」「まぁね。だいたい終わったよ(実はやっていない)」というように。
多くの場合、「本来やるべきことを回避したい」というのが理由ですので、その場その場でタイミングよく対処して、回避しようとしたことを回避しないようにすることが重要です。先ほどの宿題の例であれば、「だいたい終わったよ」と言われた時点で「ん?ほんと?ちょっと見せて」などと軽快に応じつつ、「ウソをついてごまかしてもよいことはないのだ」ということを伝えましょう。この時期はルールとして守るべきことは守る、という習慣づけが大切です。
その次の段階が、8歳ごろから始まる、つじつまの合ったウソ。1つのウソから「このウソの世界なら次はこういうことが起こるだろう」と、つじつまの合ったウソの世界を構築できるようになるのです。たとえば、ほしいものがあって貯めておいたおこづかいを使ってしまったことを隠すために「おばあちゃんがおこづかいをくれたから買ったんだよ」などと、筋の通ったストーリーを作り出したりします。
保護者の方の多くが「子どもがウソをつくようになってショックを受けた」と感じるのも、この、8歳前後からのつじつまの合ったウソに直面したときでしょう。そして、必要に応じて対処したほうがよいのも、このつじつまの合ったウソに対してです。
ウソの5つのパターンと、保護者の対処法
――「つじつまの合ったウソ」といっても、いろいろなケースがありそうですね。
8歳ごろからのこのウソは、大きく5つに分けられます。まずは、心配度の低いものを2つ、対処法と合わせてご説明します。
1つめは、相手を心配させないためにつくウソ。8〜9歳ごろになると人の気持ちを理解できるようになるため、「相手を傷つけないために」などの理由でウソをつくことがあります。たとえば、もらった誕生日プレゼントが欲しいものではなかったとしても「ありがとう、これ欲しかったんだ」と言ってみたり、運動会で転んで悔しいときにも「別に平気だよ」と強がってみたり。日本では「優しいウソ」、英語圏では「White Lie」とも呼ばれています。
優しいウソをつく能力は、社会性の一つとして必要なものでもありますから、成長として見守ってよいでしょう。
2つめは、いわゆる「話を盛る」というものです。「冬休みにどこに行ったか?」という友人どうしの会話のなかで、本当は国内の父母の実家に行ったのに「海外旅行に行った」と話していた、という例もあります。見栄えのよい写真をインスタグラムに載せるのと近いかもしれませんね。
背景には、「周囲の期待にこたえたい」「理想の自分に近づきたい」という気持ちがあります。とくに、5〜6年生以上になると、周りの人の気持ちや、「こう言ったら周りが喜ぶ/自分が注目される」ということがわかってくるため、このようなウソをつくことがあります。
この場合、「自分をよく見られたい」という気持ちは悪いものではありませんから、「よく見られたいがために保護者のお金を取って、海外の高価なお菓子をふるまった」といった、明らかに問題のある行動に進まないかぎり心配する必要はありません。
ただ、まったく現実に起きていないことを話してはいるので、なぜ子どもがそのようなウソをつくに至ったのか、その背景や気持ちを受け止めるようにしたいですね。実は、「友だちにすごいと言われたかった」とか「旅行に行っている友だちがうらやましかった」というような思いがあるのかもしれません。そういった子どもの願望や目標のありかがわかれば、保護者ができる対応が見えてくると思います。
心配度の高いウソ
――あとの3つは、どのようなウソでしょうか?
あとの3つは、心配度が上がります。
3つめは、保護者を困らせたくない/保護者からの期待を裏切りたくないためにつくウソ。「自分は今とても困っているけれど、保護者を困らせたくない/期待を裏切りたくない」という理由からつくウソで、背景には、いじめや成績の伸び悩み、保護者の期待とは異なる方向への興味など、対処が必要となる現実が存在するため、注意が必要です。
ひとつお伝えしておきたいこととしては、子どもが楽しそうにふるまっているからといって、悩みを抱えていないわけではないということです。うまくいっているように見えるときでも、放任してしまわないよう、子どものようすをよく見て、話を聞く機会をもつようにしましょう。
4つめは、保護者の財布からお金をとった、友人のゲームを壊してしまったなど、問題行動や犯罪につながりかねない事実を隠すためのウソです。財布からお金をとった理由を子どもに尋ねると、「友だちにジュースを買ってあげたかったから」など無邪気な理由の場合もありますが、なかには「いじめられていて『お金をもってこい』と言われた」など深刻な理由が隠れている場合があるので、気づいた時点で理由を聞き出し、必要な対処をしましょう。
5つめは、熱がないのに「熱がある」、お腹が痛くないのに「お腹が痛い」など、事実と異なる体調不良を訴えるウソです。背景には、保護者に構ってほしい、心配してほしい、という気持ちや、学校に行きたくないという気持ちが存在する場合があります。
1回限りの訴えであれば気にしなくてかまいませんが、続くようなら、親子で対処の仕方を考える必要があるでしょう。
⇒次ページに続く 「ウソがわかったときの、適切な声のかけ方」 |
プロフィール
松井智子(まつい・ともこ)
東京学芸大学国際教育センター教授。1987年早稲田大学教育学部英語英文学科卒業。1988年ロンドン大学ユニバーシティカレッジ文学部英文科修士課程修了、1995年同大学文学部言語学科博士課程修了(言語学博士学位取得)。国際基督教大学、京都大学霊長類研究所を経て、2010年より現職。専門は認知科学、語用論で、近年の研究テーマは子どもの対人コミュニケーション能力の発達。主な著書に『子どものうそ、大人の皮肉――ことばのオモテとウラがわかるには』(岩波書店)など。