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算数を嫌いにさせないために (2)

身近な話題に結びつけ 親子で算数を楽しもう

――子どもを算数好きにさせるには、どうしたらいいのでしょうか。

ただ数字が並んでいるだけの問題では、よほど計算好きでなければ楽しめないでしょう。教科書には文章題もありますが、多くは「花子さんが1冊100円のノート3冊と1本30円の鉛筆6本を買って、太郎さんは・・・」と、興味をもちようがない文章です。
身近な話題に結びつけ、算数が生活に役立つと実感させることがいちばんです。音は秒速340m。花火が上がって何秒後に音が届くか一緒に親子で数えて、6秒後だったら340×6=2040だから、「この花火、2km先で上がっているんだね」と話す。わり算も「みかん10個を3人で分けて…」より、「お父さんの体重はAちゃん何人分?」のほうが、子どももおもしろがるでしょう。中学生になって負の数を習うようになったら、たとえば寒い地域の人なら「昨日はマイナス3度で、今日は昨日より5度暖かいって。何度?」と話すと、抽象的な負の数字も生活に落としこめます。

――なるほど。でも、問題を出すのも難しそうですね。

なにも「問題を出してやろう」とかまえる必要はありません。親御さんが疑問に思ったことをお子さんに伝えて、「わたしもわからないわ。一緒に考えよう」と言えばいい。お子さんのほうが先に解けたら「教えて」と言う。そうしたらお子さんはおもしろがって次の問題も解こうとします。
学校ではなかなか算数を楽しむ機会を得にくいので、家庭で一緒に取り組むことは大切ですね。

算数の苦手意識は保護者のかかわり方で改善できる

――子どもが算数の学習でつまずいたとき、保護者としては、どのように対処するのがよいでしょうか。

わたしと親しい数学者のなかにも、小学生のころ、繰り上がり、繰り下がりの計算がわからなくて大変苦労したという人がいますよ。だれにだって、つまずくことはあります。むしろ、本当の意味で数学が得意になる可能性をもつのは、つまずきに対して敏感な人です。逆に、計算や処理の速さを競わせるような条件反射丸暗記的な教育だけで育ってしまうと、つまずきをほとんど意識しません。つまずいたところに成長の鍵があると考えれば、つまずきを意識したときこそ成長のチャンスだということがわかっていただけると思います。それは、「なぜそれではいけないのか」をわかりたい、納得したいという気持ちがあるということだからです。

もしお子さんがつまずいて前に進めなくなっていたら、ぜひ「なぜまちがえたのか」「どうしてこういうやり方をするのか」を一緒に考えてあげてください。
同時に、「まちがいを見つけ出す力」を育てることも重要です。単にまちがえたところをやり直させるだけでなく、どこが、どういうふうにまちがっているのかを自分で見つけさせる――これが非常に勉強になります。もちろん、まちがいを発見しやすくするためには、答えに至るまでのプロセスがわかるように、途中の式はきちんと書くくせをつけておくべきですし、検算や概算を習慣づけておくことも大切です。

――全く解けない子どもには、どう教えたらいいでしょうか。
一緒に教科書に向かい、解き方を教えましょう。ポイントは以下の3つ。

  • 問題の文章をきちんと読ませる。
  • 出てきた数字をわかりやすい数字に置きかえる。たとえば小数点の問題だったら、まずは計算しやすい整数に置きかえて解かせる。
  • 自信がついたら問題に着手させる。

この3つを守れば、解けるようになります。そのときどきで、できていることをほめるようにするといいでしょう。
自信をもてるようになると、みんなあっという間に算数が好きになり、成績も上がりますよ。これも算数のいいところです。本が嫌いで文字を読むのが苦手な子どもを国語好きにさせるのは、もっともっと時間がかかります。

体験的な遊びを通して算数のセンスを磨こう

――抽象的な数は大人も苦手です。分数÷分数の解き方さえ忘れている人も少なくないかもしれません。

小学生にわり算を教えるときの定番は「12個のキャンディを4人で分けます。1人何個になるでしょうか」または「4個ずつ袋に入れました。何人に配れますか」といったもの。しかしこの考え方は、分数のわり算には使えません。この例で出てくる数字が「個数としての数」だからです。これに対し、分数は連続的な数字なので、「量」として考えるとイメージしやすくなります。「ある量をある量でわる」(わるほうの量がわられる方の量の中にどれだけあるのか)と考えればよいのです。たとえば、次のようなケースです。

体験的に学ぶと忘れにくいし、「概算」の感覚、つまり「こういうときは、だいたいこんな数字になる」というイメージもつかめます。
図形でも同様です。紙や野菜を実際に切ってみると、理解が増します。頭で考えることも大切ですが、体験するともっと忘れづらい。図形に関しては、図を言葉で説明させるのも非常にいい方法です。

――説明させるとは?

たとえばあやとりや折り紙で何かつくり、どうやってつくったか、言葉で説明させます。あやとりだったら「右手の親指と小指にひっかけたひもの反対側を左手で・・・」というように。地図を書いて、道順を言葉に置きかえさせてもいい。知恵の輪の解き方やプラモデルの構造でもいいでしょう。そもそもそれらで遊ぶこと自体、空間認知の力をつけるし、それを言葉で説明しようとする努力は、幾何学的なセンスや論理的思考と説明力を一気に伸ばします。

――親は家事をしながら「それ、どうやって折ったか説明して」といえばいいから、すぐできそうですね。

そうです。算数を楽しみ、伸ばす素材は身近なところで見つかります。ぜひ親子で算数を楽しんでほしいものです。

――ありがとうございました。

プロフィール

芳沢光雄(よしざわ・みつお)

理学博⼠。専⾨は数学・数学教育。1953年東京都⽣まれ。慶應義塾⼤学商学部助教授、城⻄⼤学理学部教授、東京理科⼤学理学部教授を経て、2007年より桜美林⼤学リベラルアーツ学群教授。
算数・数学教育の重要性を説き、苦⼿意識を克服させる指導の必要性を訴求。地⽅の⼩中学校への出前授業も
数多く⾏うなど、わかりやすい数学の指導を精⼒的に展開している。『AI時代を切りひらく算数―「理解」と「応
⽤」を⼤切にする6年間の学び』(⽇本評論社)、『算数が好きになる本』、『新体系・中学数学の教科書(上・
下)』、『新体系・⾼校数学の教科書(上・下)』(以上、講談社)他、著書多数。

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