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気持ちを言葉にするための、親子の会話トレーニング (3)

「(2)気持ち・考えを、効果的に相手に伝える」ためのトレーニング

――気持ち・考えを言葉にできるようになると、自分の感情に敏感になれそうですね。

そうですね。そこで認識した自分の感情のゆれを相手に伝えるためには、「(2)気持ち・考えを、効果的に相手に伝える」ためのトレーニングが有効です。どのくらいの強い気持ちでそう思ったのか、そう思った根拠はなんだったのかを伝えられるようになるといいですね。

たとえば、気持ちを表すときには、「楽しかった」「おいしかった」などの形容詞を使いますよね。こうした形容詞を使うと、その程度は「very」をたくさんつけることでしか表現できないんです。でも、それだけだと、自分の気持ちを表す言葉のバリエーションが少なすぎますよね。そこで、次のようなトレーニングに挑戦してみましょう。

トレーニングその4 形容詞は比較でグラデーションをつける

「何かと比較することによって、グラデーションをつける」という方法です。

子:「遊園地が楽しかった」
親:「昼休みのドッジボールとどっちが楽しかった?」
子:「今日の遊園地のほうが楽しかったな」
親:「夏休みに行ったハワイ旅行とどっちが楽しかった?」
子:「同じくらい楽しかった!」
親:「もし宇宙旅行に行けたとしたら、どっちが楽しいと思う?」
子:「宇宙旅行も楽しいだろうけど、どっちか選べと言われたらすごく迷うくらい楽しかった!」

例では、遊園地で非日常感のある「楽しさ」を感じた。それは最近の大イベント「ハワイ旅行」と並ぶくらい「楽し」かった。宇宙旅行を想像してみても、どちらが「より楽しい」か選べないほどだった。と、とても大きな「楽しい」を感じたことが伝わってきました。このようになにかと比較することで、「楽しい」の程度が伝わります。ほかのできごとと比較することで、本人の頭のなかでも新しい発見を生むこともあります。

トレーニングその5 反対意見に反論する

子どもが自分の感想を口にしたら、「あえて反対意見を出し、その意見に反論させることで具体性をもたせる」という方法です。

例1

子:「遊園地が楽しかった」
親:「つまらないっていう人もいるんだよね」
子:「えっ、なんで!? ジェットコースターはふだん味わえないようなスリルがあるし、メリーゴーラウンドはおしゃべりしながら乗れるし、楽しい乗り物がたくさんあるのに!」

例2

子:「遊園地が楽しかった」
親:「並んでばっかりだとつまらないじゃん」
子:「ポップコーンを食べながらならあっという間だよ」

例3

子:「遊園地が楽しかった」
親:「並んでばっかりだとつまらないじゃん」
子:「たしかに3時間並ぶのはきつかった。でも、その疲れが吹き飛ぶくらい、ジェットコースターは楽しかった」

例のように、反対意見をもった人に反論しようとすると、自分の気持ち・考えの根拠となる言葉がするすると出てくるんです。どの例でも、「遊園地が楽しかった」という説得力が増したと思いませんか?

トレーニングその6 極端な例を否定する

子どもが自分の感想を口にしたら、「あえて極端な例を出し、その意見を否定させることで具体性をもたせる」という方法です。

子:「遊園地が楽しかった」
親:「何が楽しかった?」
子:「全部楽しかった!」
:「楽しかったね、まさか遊園地に木があるとは思わなかったよ」
:「えー、 木なんかどこにでもあるじゃん! 乗り物に乗ったのが楽しかったんだよ」

親:「乗り物たくさん乗ったね。とくにあのエレベーターが最高だった!」
子:「ちがうよ! 駅で毎日乗っているエレベーターなんかより、ジェットコースターとメリーゴーラウンドが楽しかったの!」

あ、こういうのは大人もギャグにしなきゃダメですよ。真顔で反論してもおもしろくないので、テンション高めに、ぽんぽんと言葉のキャッチボールを楽しむなかで、子どもの言葉を引き出してあげてください。

――ふだんからこのような会話をとおして、気持ち・考えを言葉にするトレーニングをしておくことが大切なんですね。

はい。最初にこのような会話で、フォーマットというか、表現のしかたを示してあげると、だんだんと子どもひとりでもできるようになります。

また、このような表現は、作文にも応用できますよ。たとえば、作文を書くことが事前にわかっているときには、その作文のテーマについてコミュニケーションをとっておいて、作文の材料となるような要素を引き出しておくのもよいでしょう。

「言葉にする力」は、人生に役立つベーススキル

――気持ち・考えを言葉にするトレーニングを積んでおくことは、さまざまな場面で役に立ちそうですね。

今って、いろんなことがめまぐるしく変わっていく時代で、あるときに「正解」だったことが、次の瞬間には正解ではなくなっていますよね。英語が話せるだけではいけないし、学歴があるだけではいけない。その先の時代で新しいことを考え続けて、自分の意見に自信をもてなければいけないんです。そんななかで、自分の気持ち・考えを、自分でとらえて言葉にして、相手に伝える、ということは、どんな時代になっても必要だと思うんです。

ぼくは数学が得意なんですけど、今の仕事で「数学の問題を解く」スキルは使っていません。一方で、数学の勉強をしているときに身についた「勉強し続ける」というスキルは、今でも役に立っています。前者を特殊スキル、後者をベーススキルと考えたときに、何かに夢中になったり楽しんだりしながら特殊スキルを身につけると、別のベーススキルも一緒に身につくものなんです。けん玉を毎日練習していたら、体幹が鍛えられて集中力が上がった、みたいに。今回お話しした「言葉にする力」は、ベーススキルのひとつです。家族と会話で盛り上がったり、友だちと意見を交わしたり、作文で自分の語りたいテーマについてとことん語ったり、そういうことを楽しんでいるうちに、どんどん力がついていきます。「うまく伝わった!」と思えると、それだけでうれしいし、そういう経験を積むことが自信になります。小学生のうちは、自信をつけてあげることが何よりも大切なんです。自分の考え・気持ちを言ってもいいんだ、という安心感を身につけられるようにする。そのことを意識して会話を工夫してみてください。

プロフィール

木暮 太一(こぐれ・たいち)

木暮 太一(こぐれ・たいち)
一般社団法人教育コミュニケーション協会代表理事。「難しいことをわかりやすくする方法」を中学2年生から研究しており、『「自分の気持ちを言葉にする」練習帳』(永岡書店)、『伝え方の教科書』(WAVE出版)など、著書多数。伝えたいことを言葉にすること、自分がもっている価値を言葉にすることの専門家。日本各地で小・中学生に作文の書き方を教えるボランティア授業も行っている。

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