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「学校」は何を学ぶところか(1)

新学期を前に、お子さまが学校や新しいクラスになじめるか、気にかけている保護者の方は多いことでしょう。子どもたちには、学校で生き生きと過ごし、心豊かな経験を積んでいってほしいもの。しかしながら、その学校が時に子どもを悩ませ、苦しめる原因になってしまうことも。今月は、今の時代における「学校」のあり方について、哲学者・教育学者であり、小学生の父親でもある苫野一徳先生とともに考えます。

目次

「みんな同じ」が息苦しさを生んでしまう、今の学校

――昨今の学校をめぐる状況を見ていると、誰もが安心してわが子を学校に送り出せる状況ではないように感じます。

そうですね。全国で、不登校あるいは不登校傾向にある中学生は推計44〜85万人というデータもありますし、いじめや、人権的に問題のある校則など理不尽な指導の例も相変わらず見聞きします。
個々のケースを見ていけば、特定の人が責められるべき場合もあるでしょう。しかしわたしが問題の根本にあると考えているのは、「学校という制度の限界」。実は日本の学校は、明治5年に学制が発布されてから150年もの間、システムがほとんど変わっていないのです。

――同じ年齢の子どもで学級をつくり、先生がまとめて教えるというやり方のことでしょうか。

そうです。しかも、「みんなで同じことを、同じペースで、同じようなやり方で」勉強するというシステムです。
学校のような、きわめて同質性の高い集団では、同じであることを良しとする雰囲気、すなわち同調圧力が強くなり、集団の規律に従わない子やクラス内の雰囲気になじめない子が、排除の対象になりやすいんですね。

そうならないために、「空気を読み」「キャラを演じ」ながら学校生活を送っている子は少なくありません。一見、学校に適応しているように見える子でも、自分が標的にならないように気をつかっている場合も多いです。

新1年生の子どもが入学後に出合うギャップ

――入学したばかりのお子さんが、入学前の環境とのギャップにストレスを感じる場合もありそうです。

幼稚園や保育園では、子どもの主体性を大切にした活動が多く行われています。遊びに熱中するなかで試行錯誤したり、仲間と協力したり折り合いをつけたりすることが将来の学びの土台になるというのが、幼児教育の基本中の基本となる考え方だからです。

小学校でも、こうした幼児教育の知見や文化を取り入れたらよいのではと思うのですが、実際は逆の場合が少なくありません。園では頼もしいお兄さんお姉さんとして尊重されていたのに、小学校に入学した途端、無力な存在として、「先生の言うとおりに」させる指導になりがちです。机の上の筆記具の置き方から発言の仕方まで、細かなルールを設けている小学校も多くあります。

――なぜそうなってしまうのでしょうか。

「同じことを、同じペースで、同じやり方で」が、学校の基本システムになっているために、本当は子ども一人ひとりを尊重したいと考えている先生も、不本意ではあったとしても、「統率する」ことを意識せざるを得ない面があるのでしょう。

しかし、変化に柔軟に対応する力が求められる今の時代には、指示どおりにこなす従順さよりも、主体性や積極性、自ら学び続ける力をはぐくむことのほうが、より重要であることは言うまでもありません。
ただ、先生も、本当は規則や権力でおさえつけるような教育などしたくないと思っていたとしても、基本システムがそもそも画一的であるために、現場では管理や効率性を重視する力が勝ってしまうんですね。
だからこそ、先生を責めるより、学校というシステムのほうを見直すべきだとわたしは思います。

――システムを見直すとなると、とても時間がかかりそうですが。

いまお子さんが不登校などで苦しい思いをしているという方はとくに、そんな悠長なことは言っていられないとお感じになるかもしれませんね。

ただ、根本的な解決をはかるためには、いじめの問題だとか、学級崩壊だとか、落ちこぼれだとか、そういう個々の問題だけを対症療法で考えていても事態は変わらないと思うのです。

問題の本質は学校というシステム、つまり、今の公教育の形にあることは明らか。世の中の急速な変化を考えれば、少なくともあと15〜20年の間には学校のあり方を根本的に変えていくべきです。

⇒次ページに続く 教育を論じるときには「哲学」が欠かせない

プロフィール

苫野一徳(とまの・いっとく)

熊本大学教育学部准教授。博士(教育学)。専攻は哲学・教育学。多様で異質な人たちがどうすれば互いに了解し承認しあうことができるか、探究している。『「学校」をつくり直す』(河出新書)、『勉強するのは何のため?―僕らの「答え」のつくり方』(日本評論社)ほか著書多数。NHKスペシャル「シリーズ 子どもの“声なき声” “不登校”44万人の衝撃」、ウワサの保護者会(NHK Eテレ)「学校へ行かない!」などの出演も。
ブログ:https://ittokutomano.blogspot.com/

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