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先送り・先延ばしから卒業する!(1)

宿題や課題になかなか手をつけない、先送りにする。お子さまのそんな様子を見て、「早くやっちゃいなさい」と急かした経験のある保護者の方は多いのではないでしょうか。とはいえ、やるべきことを「あとでやろう」と先延ばしにしてしまうことは誰にでもあるもの。いったいなぜ私たちは「先送り」「先延ばし」をしてしまうのでしょうか。背景にある心理や改善策、お子さまの「先送り」への対応法を、心理学者の一川誠先生にうかがいました。
(取材・文 松田慶子)

目次

人間は「先送り」してしまう生きもの!?

――おもちゃの出しっぱなしを注意すると「後で片づける」。宿題は終わったのか尋ねると「明日やる」。子どもの先送りにイライラしてしまう、という声をよく聞きます。かくいう大人も、ついつい先送りや先延ばしをしてしまいますが…。

時間管理をテーマにしている研究者も、しばしば先送りしてしまいますよ(笑)。もともと人間は、何かを「する」という積極的な選択が苦手で、先送りする傾向があるんですよ。

20世紀の歴史学者のパーキンソンは、軍人や役人の行動を分析し、人間には締切りまでの時間をめいっぱい使ってしまうという行動特性があることを見いだしました。「パーキンソンの第1法則」といいます。やるべきことに早めに取り組もうとはせずに、締切りまでの時間を使い切ろうとする人間の行動パターンは、多くの研究者によって指摘されています。

――どうしてすぐに行動しないのでしょうか。

心理学では、自分の可能性をなるべく残したいという心情が働くのだと説明しています。

何らかの行動を「する」か「しない」かの選択肢があるとき、「する」を選択すると、ほかのことができなくなります。そのように、何かを捨てなくてはいけない意思決定は心理的に負荷が大きい。人間は負荷の大きいことは避けようとします。だから多くの場合、判断自体を先送りにして、何もしないまま時間の経過に任せてしまうのです。

加えて大きな要因として、自我防衛機制が働くことも指摘されています。

――自我防衛機制とは?

自尊心を傷つけないようにする心の働きです。この働きのために「セルフハンディキャッピング」、つまり「自分自身にハンディキャップを与えること」で、失敗したときのために言い訳を残そうとしてしまうのです。自分にとって大切な課題ほど、こうした行動が起こるとされています。

作業の前の掃除は、無意識に言い訳をつくるため

――自尊心を傷つけないために、先送りするのですか?

はい。課題などに取り組んだ結果、うまくいかなかったときに、「自分に能力がなかったからではなく、時間が足りなかったからだ」といった言い訳をつくろうという心理が無意識に働き、取り掛かることを遅くするわけです。

やらなくてはいけない大事な作業があるときに限って、ついつい部屋の掃除や模様替えのような、今しなくてもいい作業を始めてしまうことがあります。このようなことを逃避行動というのですが、これもセルフハンディキャッピングの1つ。やるべきことに失敗したときの言い訳をつくり出しているのです。

――あとで困るのは自分だと、ちょっと考えればわかるはずなのに、私たちはみすみす困る事態をつくっているのですね。

そう。これも自我防衛機制の働きの一つなのですが、私たち人間には、「自分の失敗は忘れやすく、成功ばかりを認知し記憶してしまう」という特性もあります。この繰り返しによって、自分の能力を過大評価してしまうわけです。

 

 

だから、遅く始めてもギリギリ間に合った場合は、「うまくいった」と記憶するし、間に合わなかった場合は、「今回は時間がなかったせいだ」と記憶して、また同じ失敗を繰り返してしまうのです。

――ところで子どもでは、例えば学校から持って帰ったプリントを親に渡すといった、自尊感情とは無縁に思えることも先送りにする様子が見られます。これは?

労力を要するものに対して、怠けてしまうのは大人も子どもも変わりません。また、プリントを出すことで、何かやりたくない事がらをしなくてはいけない事態になりそうだと、子どもが思ったのかもしれません。そもそもやりたくないことに関しては、認識したくないから忘れやすいという傾向もあるようです。

あとは単純に、怒られそうなものは出さない(笑)。親に叱られるのは、子どもは避けたいことですからね。

 

 

⇒次ページに続く 先送り回避の鉄則は、「思い立ったが吉日」

プロフィール

一川 誠(いちかわ・まこと)

千葉大学文学部教授。1965年生まれ。大阪市立大学文学研究科後期博士課程修了後、カナダYork大学研究員、山口大学工学部感性デザイン工学科講師・助教授、千葉大学文学部行動科学科准教授等を経て、2013年より現職。博士(文学)。日本基礎心理学会理事、日本時間学会会長等を兼任。専門は実験心理学。人間が体験する時空間の特性や、それに影響を及ぼす要因等を実験的手法を用いて研究。一般向けの著書に、『大人の時間はなぜ短いのか』(集英社新書)、『図解 すごい!「仕事の時間」術:1日24時間を「もっと濃く」使う方法』(三笠書房)、『「時間の使い方」を科学する』(PHP新書)他がある。

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