特集
先送り・先延ばしから卒業する!(3)
2020.7.23
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できたことを褒める。自信が積極的に取り組む姿勢をはぐくむ
――では子どもの先送りはどうしたらいいでしょうか。例えばいつも宿題を後回しにして、夜遅くなってから慌てて取り組むような子には、どう声をかければいい?
机周りを片づけておくなど、気が散る要因をなくすことは有効ですね。また空間的、時間的にすぐに取りかかれることも大事なので、目の前に次にやるべき課題を用意しておくのもいいと思います。
そして、宿題ができたら、それをきちんと褒めることを心がけてください。
一度できたことを繰り返すのは、それほど困難には感じにくいもの。「ちゃんとできたね」と事実を褒めれば、子どもは「自分はできたんだ」と認識し、自信をもって次の課題に臨みやすくなります。
――褒めるきっかけを得られないときはどうしたらいいでしょうか。宿題の例でいうと、結局いつも最後まで終えることができないような場合は?
手をつけたこと自体を褒めてあげるといいと思います。本人も「自分は早く始めたし、親もわかってくれている」と思い、自信につながります。そんな経験を繰り返すことで、自分から宿題に取り組み、最後まで終えられるようになると考えられます。
――先送りしている最中の子どもには、何と声をかければいい?
やっぱり「早くやったほうがいいよ」ですかね。「まず、これをやったら?」と、簡単に取り組めることを示してあげてもいいと思います。
それでもどうしても手を動かさない場合は、もしかしたら苦手意識ができあがっているのかもしれません。「できない」という経験を繰り返すと苦手意識が固まってしまい、ますます先送りしてしまうものです。どこにつまずいているのか、親御さんが探してみるといいのではないでしょうか。
――つまずいている単元や問題を探して、教える?
それもいいと思います。違う指導者から教わると、「あ、わかった」「あ、できた」となることもよくあるので、ほかの指導者に当たってみることも一案です。ただ、勉強があまり進んでいないからといって、すぐに介入するのがよいとは限りません。お子さまは「じっくり取り組みたい」と思っているのかもしれません。いずれにせよ、その人なりのゴールを設定して、それを一つ一つクリアしていく経験をもつことが大切ですので、どんな目的をもって、どんな目標設定で勉強していくのか、親子で話し合う機会をもてるといいですね。
成功体験があれば、何歳になっても「先送り」はやめられる
――長期休みの宿題など子どもがスケジュールを立てるときは、親はどうかかわればいいでしょうか。
個人差はありますが、低学年のうちはまだ見通しを立てることが難しいかもしれません。どう取り組んでいいかわからないお子さまもいると思いますので、そんなときは親御さんが手伝ってあげるといいですね。大体こんな感じで進めていくことが多いという道筋を伝えて、一緒に考えていきます。中学年以降は、本人に任せていいと思いますよ。とはいえあまり無理なスケジュールを組まないように気をつけてあげたいものです。
子どもには「目標を達成できた」という成功体験をさせたいので、どの学年であっても時間的な余裕をもたせることがポイント。そして大人同様、できたこと、できなかったことを書いて、親子で振り返るといいですね。
――小さいころから先送りがクセになっているような子の場合、高学年になってからでも先送りはやめられるものでしょうか。
もちろんですよ。成功体験があれば大きくなってからでも行動は変えられます。それにはやはり、「早めに取り組めば楽しくできて、結果もよくなる」と体験することが大事です。
親御さんは、小さな中間目標を示し、まずは手をつけたこと、できたことを褒めながら親子で一緒に目標に向かうという姿勢を心がけるといいのではないでしょうか。
――ありがとうございました。
プロフィール
一川 誠(いちかわ・まこと)
千葉大学文学部教授。1965年生まれ。大阪市立大学文学研究科後期博士課程修了後、カナダYork大学研究員、山口大学工学部感性デザイン工学科講師・助教授、千葉大学文学部行動科学科准教授等を経て、2013年より現職。博士(文学)。日本基礎心理学会理事、日本時間学会会長等を兼任。専門は実験心理学。人間が体験する時空間の特性や、それに影響を及ぼす要因等を実験的手法を用いて研究。一般向けの著書に、『大人の時間はなぜ短いのか』(集英社新書)、『図解 すごい!「仕事の時間」術:1日24時間を「もっと濃く」使う方法』(三笠書房)、『「時間の使い方」を科学する』(PHP新書)他がある。