特集
子どもを伸ばす住まいづくり ~住み方を考えることは、子どもの育ちを考えること~(2)
2020.8.27
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風通しをよくすると子どもは大きく伸びる
ーー気配を読み取る力をつけるうえでも、家中を自由に冒険させるためにも、子ども部屋はつくらないほうがいいのでしょうか。
それが一概にそうともいえないのです。
人間は生態的に、自分の縄張りを求めます。それが得られないと、「自分は家族の一員だ」という帰属意識が低くなるんですよ。子どもにも家の中で自分の拠点、「ターミナル」をつくってあげるべき。それは個室でもいいし、リビングの片隅に「○○ちゃんコーナー」という場所をつくってあげてもいい。ただし、そこに閉じこめないということが大事なのです。
ーーとはいえ、その「ターミナル」が個室だと、お互いにどうしても気配を感じにくくなるのでは。
わたしは、風通しをよくすることが、回遊性の点でも気配の点でも大切だと提唱しています。
たとえば換気のためにドアや窓を開けておくと、空気が通い、それに乗って、誰が今どの部屋でどんなことをしているのか、何となく把握できます。開放的な雰囲気になるので、子どもも自由に回遊しやすい。常にドアを開けておくようにしてもいいし、子ども部屋のドアを外してカーテンにするという方法もいいでしょう。
可能ならば、厚いドアを、一部ガラス張りや障子に変えるなど、仕切りを薄くするのも効果的です。
ーーなぜガラスにするといいのでしょうか。
視覚的に風通しのいい雰囲気をつくるためです。
お互いの顔がさりげなく見えるということも、とても大事なんですよ。たとえば親が正面に座って「さあ、コミュニケーションをとろう」では、子どもはいやがりますね。でもガラスのドア越しに、学校から帰ってきた子どもの表情を見ることができたら、元気なのか、何かいやなことがあったのか、だいたいわかります。親の気配を感じられ、子どもも安心するかもしれない。
同様に、帰宅後の子どもが自室に向かうときに、親の前を通らなくてはいけないような生活動線ができていると、自然にお互いの様子がわかります。これも風通しの一種です。
親が生き生きと暮らすことで子どもの世界が広がる
ーー先ほど話題に上がった、さまざまな分野の知識や価値観にアクセスできることとは?
回遊性にもかかわりますが、子どもは家の中を旅して、そこにあるものに影響を受けます。だから、いろいろなジャンルのものがあったほうが、好奇心や探求心がより刺激され、世界観が広がるわけです。
実はわたしの父も建築家で、いつも英語の建築雑誌がリビングにありました。子どものころのわたしは、意味がわからないながらも何となくパラパラめくっていた。そのなかで、自然に図学的意識のようなものが培われていたのだと思います。
お子さんのいるご家庭は、意識して子ども向きのもので部屋を飾ろうとしがちですが、そうではなく、親御さんの好きなものを置けばいいと思うのです。
ーー好きなものでいいのですか?
家庭は伝承の場でもあるのです。お母さんがバイオリンを練習していたら、子どももバイオリンに触れるし、お父さんが本好きならば子どもも本を読む機会が増える。
それでバイオリニストにならなくとも、大人の世界を垣間見ることができるわけです。大人の世界にふれておくことは、子どもが社会に出る際のステップを低くする、大切な経験です。
だから、簡単にいえば、親御さん自身が楽しく暮らすことがいちばんいいのです。
ーー子ども仕様にしなくていいのですね。
はい。ただ注意したいのは、子どもの目線に立つこと。せっかく絵や写真を飾っても、背の低い子どもからは見えない場合もあります。子どものスケールに合わせることが大事ですね。
家族と一緒に家も育てていく
ーーいつから子どもの部屋を与えればいいのか、男の子と女の子の部屋を分ければいいのか、わからないという声も多く聞かれます。
いつからというのは、一概には言えないんですよ。その子、そのご家庭によりますから。日ごろのコミュニケーションのなかで、ふさわしい時期を親御さんがつかむしかない。
ただ、それに備えてフレキシブルに対応できるよう、用意しておくことは非常に大事です。「上の子が大きくなったら、パーテーションで仕切ろう」と心づもりをしておくだけでもいい。
ーーあらかじめ対応できるようにしておけば、「ためしに一回、部屋を分けてみようか」ということも可能で、少し気がラクですね。
そうですね。いま一度、ライフステージと住宅の形をシミュレーションしてみることをおすすめします。
家族の形は、子どもたちが小さい時期、自室を欲しがる時期、独立して家を出ていく時期など数年~十年単位で変化します。住宅は、そのときどきの変化に対応していかなくてはいけないのです。
子どもが幼いころは親と一緒に寝るから、大きな部屋を寝室として使おう。子どもが部屋を欲しがったら、仕切って二つに分けよう。その際はリビングにいながら子どもの様子がわかるように、奥の部屋を子ども部屋にしよう……。ライフステージごとの住まいの形を考えることは、実は子どもの成長を考えること。子どもをどう育てたいか、どんな親子関係でありたいか考えることにつながるのです。
住宅にも生命があるとわたしは考えています。そのご家庭にとっていちばんいい住環境を、住み続けていくなかで、家族で育てていってほしいですね。
⇒次ページに続く 「ちょっとした心がけでできる、より快適な住環境のつくり方」 |
プロフィール
渡邊 朗子(わたなべ・あきこ)
東洋大学情報連携学部教授。株式会社市川レジデンス取締役を兼任。博士(学術)。
日本女子大学家政学部住居学科卒業後、1993年、コロンビア大学大学院建築都市計画学科修了、99年、日本女子大学大学院人間生活学研究科博士課程修了。慶應義塾大学環境情報学部助手、豪シドニー大学客員講師などを経て現職。子どもの成長における住空間の重要性にいち早く着目し、住まいづくりに新たな視点を提唱した一人。現在は子どもの意欲や集中力を促す環境づくりについて研究を広げている。『頭のよい子が育つ家』(四十万靖と共著 日経BP社)他、著書多数。