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おうちで季節の行事を楽しもう ~2021年も笑顔で過ごす(1)

外出自粛、休校、行事の縮小や中止……。2020年は自宅で過ごすことを余儀なくされた1年といえます。「親子ともどもストレスがたまった」というご家庭も多いのでは。
年が改まっても、引き続き三密を避ける新しい生活様式が求められることでしょう。でも幸い、日本には遠出をしなくてもできて生活に彩りを加えてくれる四季折々の行事がたくさんあります。家族で行えばおうち時間が楽しくなるはず。
『しばわんこ』シリーズでおなじみの絵本作家の川浦良枝さんに、家庭での行事の親しみ方を教えてもらいました。

目次

四季折々の日本の行事。暮らしを守りたいという願いが……

――『しばわんこ』シリーズで、和の行事や風習を数多く紹介されていますね。日本人の暮らしに、行事はどのような意味を持つとお考えでしょうか。

絵本を書くためにいろいろと調べていくと、日本には四季それぞれに対応した行事があることに気づきます。桃の節句や端午の節句など季節の変わり目に祝いごとや願いごとをしたり、花見や月見などそのときどきの風情を味わったりしますね。

わたしは研究者ではないので私見になりますが、このように行事を持つのは2つの理由があると思っています。

――理由とは?

まずは、生活にメリハリをつけること。昔は行事のときにだけ華やかな着物を身に着けごちそうを食べてパッと発散した。この楽しみが、普段の労働とつつましい生活を支えていたのだと思います。

そしてもう1つ、災厄や病気から命や安全な暮らしを守るという目的も大きかったのではないでしょうか。

たとえばおひな様は、本来は自分にかかる禍を形代(かたしろ)というお人形に移して流す行事でした。端午の節句に菖蒲湯に入るのも、旧暦の5月という梅雨の時期に、殺菌作用のある菖蒲のお風呂に入って病気を防ごうという意図だったと思われます。

夏祭りや秋祭りにも、住民が集まって地域の顔ぶれをお互いに理解し合い、いざというとき助け合えるようにするという目的もあったように感じます。

これは日本に限ったことではありませんが、行事とは目に見える形で地域の文化やものの考え方を示すものですね。その土地なりの華やかさとかつつしみのある振舞い方とか。行事の意味は、そうした言葉にしにくいものを伝えることにもあるのだと思います。

子ども時代に行事に参加することが、成長後の支えに

――今年の自粛期間中は、「子どもが退屈して大変だった」という声が多く聞かれました。家の中で行事をすれば、生活にメリハリがついて楽しそうですね。

すごくいいと思いますよ。子どもは基本的に「いつもと違うこと」が大好きです。いつもより少しおしゃれな食卓にする、お部屋をかわいく飾りつけするといったことには、喜んで参加すると思います。

わたしは料理の盛りつけが大好きだったので、子どものころはちらし寿司やおせち料理の盛りつけをすすんでしていました。手を動かすことが好きなお子さんにはすし飯を混ぜてもらう、食べることが好きなお子さんなら「この味どう?」と味つけに参加してもらうなど、楽しく参加できるように声をかけてはいかがでしょうか。

――日ごろは「手伝って」という言葉に耳を貸さないお子さんでも、行事となると張り切りそうですね。

そうですね。折々の行事をすることで季節を感じ、また毎年行うことで時の流れも感じられます。
何より、将来、「懐かしい」と振り返ることのできる体験を獲得できます。

――懐かしさですか。

そうなんです。わたしはときどき老人ホームを訪問するのですが、ホームでは四季の行事をとても大切にしています。お年寄りにとって行事は共通体験なんです。桃の節句にはどういうことをしたとか、おせち料理は何を食べたとか、子どものころの思い出話に花を咲かせています。その共通体験がないのは寂しいと思います。

昔だったら誰でも知っている流行歌がありましたが、今はめいめいが別の音楽を聴いていますね。それはいいのですが、今のお子さん方が大人になるころには、誰もが「この曲知っている、懐かしい」と思い出せる曲はなくなっているかもしれません。そんなとき、行事という共通体験があって一緒に「懐かしいね」と話すことができたら、心が温まるのではないでしょうか。行事の仕方は違っても、したという経験が、その人の、何か核のようなものになると思うのです。

教科書通りでなくてもいい。家の個性が受け継がれる

――確かに子どものころの思い出というと、家族でした行事が頭に浮かぶ人は多いと思います。でも、行事をするには正しいお作法を知っておく必要があるのでは?

そんなに構えなくてもいいと思いますよ。

桃の節句にはおひな様を飾って蛤のお吸い物とちらし寿司をいただいて……。そうわたしも絵本に書きましたが、あくまでも一般的な話です。ちらし寿司を作らなくてもいいし、お吸い物は蛤でなくてもいい。

あるお宅では、毎年ひな壇の飾りつけはお兄ちゃんの係なので、おひな様の隣に大好きなアニメのフィギュアがあるそうです(笑)。教科書通りの段飾りもいいのですが、こっちのほうが“わが家のおひな様”という気がしますね。

――わが家流でいいのですね。

もちろんです。それに、必ずしも楽しい思い出じゃなくてもいいんです。寂しい思い出、悔しい思い出でもいい。それでも行事をしたという思い出が、その人の根っこを作る。

わたしの父は、2歳のときに母親と死別しました。ある年のお盆に、屋内にトンボが入ってきてなかなか出て行かなかった。それを見た親戚の人が父に、「あれはお前のお母さんかもしれないね」言ったそうです。

この話をヒントにわたしがお盆の話を書いたところ、たくさんの読者が共感してくれました。ハッピーな話でなくちょっと寂しいお話なのですが、その寂しさこそが人間らしさとして、人の心に残るのだと思います。

ですから、無理に楽しませようとしなくてもいい。代わりにぜひ親子でお話をしてほしいですね。

――どんな話をすればいいでしょうか。

何でもいいですよ。「うちのおせち料理にはこれを食べるのよ。どうしてかというとね……」など、お母さんやお父さんのこれまでの経験や考えを話すといい。その家の個性を、温かさをもってお子さんに伝えることになると思います。

⇒次ページに続く 「おせち料理、恵方巻、福茶……。“いつもと違う!”を感じるひと手間を」

プロフィール

川浦 良枝(かわうら・よしえ)

1963年、東京都生まれ。武蔵野美術大学短期学部卒業。デザイン会社勤務を経てフリーのイラストレーター、デザイナーに。カレンダーやグリーティングカードなどの製作を手がける。2000年より、雑誌「MOE」(白泉社)にて『しばわんこの和のこころ』の連載を開始。NHKでアニメ化も。主な作品に『しばわんこの和のこころ1・2・3』『しばわんこの和の行事えほん』『しばわんこと楽しく学ぼう 和のせいかつ』 (いずれも白泉社)などがある。

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