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小学生の心は6年間でこう変わる 親として知っておきたい発達心理学(3)

小学生は成長する時期、だからこそ葛藤が増える時期

――いま小学生の親には、この先の子どもの反抗期などを心配している方も多いと思うのですが、気をつけることは何かあるでしょうか。

応答性をもって、子どものいいところを見るようにして接していれば、そんなに反抗期を恐れることはありません。

ただ、反抗期の前から子どもの心は大きく変化しています。小学校の6年間で、子どもは過去を振り返ることも未来を想像することもできるようになり、対人関係も広がり、自分のことを客観的に見ることもできるようになるわけですから、悩みや葛藤がぐんと増えます。葛藤があるのだから、いつもニコニコはしていられないですよね。

大人と違うところは、葛藤が増える割には解決法がわからないということです。経験が浅いので、友だちと喧嘩しても仲直りの仕方がわからない。勉強がうまくいかなくてもどうしていいかわからない。でも、それをどう親に言っていいのかもわからない。

――そんなとき、親はどのようにサポートすればよいのでしょうか。

勉強もそうですが、そもそも、そういうときって「何がわからないかがわからない……」という場合が多いですよね。ですから、「仲直りしなさい」「頑張りなさい」や「わからないところがあったら言ってごらん」では、たぶん解決しません。それで解決できるんなら、そもそも悩まないですよね。

喧嘩して悩んでいるんだったら「お母さんがあなただったら、明日の朝、学校でこう言うかな」などと、具体的に、親身になって解決策を一緒に考える。勉強でつまずいている子には、おもしろくなくてもわからなくてもとにかく勉強しなさい、という接し方ではなくて、「ここでつまずいているんじゃない?」などと解決の糸口までは一緒に探してみる。

そもそも、メタ認知ができるようになってくると、自分のダメなところに気づくので誰でも劣等感が出てくるんです。それも葛藤が増える一因ですね。そこで自尊心が低くならないようにするためには、成功体験が大切です。とはいえ、失敗がダメというのではありません。子どもが失敗したら「それは悔しかったね」と共感したうえで、次に「自分で」成功体験をもてるようにさりげなくサポートするわけです。

いつもやってもらって成功しても、成長にはなりません。とはいえ放っておけばいいというのでもありません。本人の実力がどの程度で、どのくらい頑張ればうまくいくか、親も考えて、必要に応じて具体的なアドバイスをしてあげるといいですね。

そのように、物事を表面的ではなくきちんと教えてあげられれば、子どもはそういうものかと理解するので、単純に反発するということはあまりありません。

――応答的な態度をとっていると、子どもは葛藤を抱えずに済むのでしょうか。

いや、葛藤はすると思います。葛藤すること自体は悪いことではないんです。むしろ大事なことです。ただ、親のとらえ方が変わってくると、親も子も楽になります。

たとえばドアを子どもがバンッ!と荒っぽく閉めたとして、それを反抗している!と捉えるのか、なにか苦しんでいることがあるんだなと思って少し観察してみるのか、そうしたことでも親子のコミュニケーションは変わってきます。

問題が起きていないときの接し方が大切

――高学年になると学校でダメなものでもみんな持っているからほしがるとか、禁止されているところに遊びに行くといった行動が出てきます。どのように対処すればいいでしょうか。

そもそも、問題が起きてから子どもに注意を向ける、というのはあまりよくないんですね。むしろ、問題が起きているとき「以外」のふだんの生活で、子どもの言葉を聞き、いいところを見つけ、いいと思ったことは言葉に出してほめながら、子どもとの信頼関係をつくっていくことが大切です。ふだんほったらかしなのに注意だけしてくるというのでは、親の言葉は子どもの心に届きません。

親の考えを伝えたいのであれば、問題が起きていないときに、「こういうことをすると危ないね」「こういうことって大事だね」と話すのがいいですね。ニュースやドキュメンタリーなど、映像を一緒に見ながらそうやって親がガイダンス的に話すと、子どもはすごく学びますよ。

――子どもの行動や言葉にきちんと目と耳を傾けて受け止め、親の考えは子どもが受け止めやすい形で投げかけるのが大切ということですね。実は一番難しいことかもしれませんね。

そうですね。小学生の間に子どもはどんどん賢くなり、同時にさまざまな葛藤を抱えるようになります。それをしっかり見つめて会話をするというのは楽なものではありませんが、その変化に寄り添うことで、親も親になっていくのだと思います。突き放したらもったいない時期ですから、子どもと共に人生を楽しみましょう。

――ありがとうございました。

プロフィール

渡辺 弥生 (わたなべ・やよい)

法政大学文学部心理学科 教授。教育学博士。大阪府生まれ。1983年筑波大学卒業。同大学院博士課程で心理学を専攻した後、筑波大学助手心理学系、静岡大学教育学部助教授、ハーバード大学教育学研究科在外研究員を経て、2001年法政大学文学部心理学科助教授に。2004年より現職。『子どもの「10歳の壁」とは何か−乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『親子のためのソーシャルスキル』(サイエンス社)他、著書多数。

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