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未来を自分で選ぶ力をつけるには〜小学生の選択力を高めるヒント〜 (1)

受験や就職など、子どもたちが自分の未来を選びとるとき、本人にとって最良の選択ができるようになってほしいと願う保護者の方は多いのではないでしょうか。進路選択に限らず、自分で「選ぶ」ことができるようになるために今からできることについて、コミュニケーションデザインについて研究し、小中高校におけるキャリア教育やワークショップなどに多数取り組まれている京都大学総合博物館准教授・塩瀬隆之先生にうかがいました。
(取材・文 浅田夕香)

目次

与えられた選択肢から最良の選択をすることだけが、選択する力ではない

――塩瀬先生は、小・中・高校生向けにキャリア教育やワークショップなどに取り組まれています。子どもたちの「選択する力」について、課題に感じていることがあれば教えてください。

すべての選択肢に点数がついていて、その中に正解が1つあり、その正解を選ぶことが「選択する⼒」だと⾔われることもありますが、それは選択のごく⼀部なんです。そういった択一問題に素早く解答するだけなら⼈⼯知能の方が得意ですし、むしろ勝ち目がありません。

もちろん正しく答えを選ぶ力も部分的には必要ですが、大人になって誰もが気づくことは、その出番は実はそれほど多くはないということです。

子どもたちと接する中でいちばんの課題だと感じているのは、「与えられた選択肢の中から選ぼうとする」ことです。社会で生じる問題の多くは、選択肢が出し尽くされていなかったり、選択肢の評価が定まっていなかったりするもの。その場合、既存の選択肢の中に最適解があるとは限らず、選択肢の外側に目を向けるとより良い解があることも往々にしてあります。

しかし、子どもたちに限らず多くの人は、「選択肢の中から正解を、あるいは最も評価が高いものを選ぶことが選択する力だ」と考えてしまっている。それが大きな課題だと思います。

私が接してきた⾼校⽣や⼤学⽣の中には、誰かが決めた選択肢の中から、誰かのアドバイスを無批判に受け入れてしまい、そのまま疑いもなく決めてしまう⼦もいます。それが⼤切な自分の⼈⽣の選択であってもです。

すると、⾃分のことなのに、どこか他⼈事のようにふるまってしまう。その結果、ミスマッチが起きたときに、思っていたのとは違うという理由でモチベーションを落としてしまったり、すぐ辞めてしまう。自分で踏ん張る理由が自分の中から湧き立たないのです。

――なぜそのような選択のしかたになってしまうのでしょうか?

「選択肢の中には必ず正解がある」「それぞれの選択肢には評価がついている」「教科書に書いてあることは(その条件の中においては)嘘はない」という前提で、学ぶ場面が多すぎることが要因の一つでしょう。

これからの時代、進路選択や就職の際に「ここへ行けば間違いない」という進学先、就職先があるでしょうか。グローバルマーケットで勝負するときに、与えられたA~Cの選択肢の中から選んで勝てるでしょうか。勝負どころでの選択というのはだいたいは不条理で、「実はABCどれでもなくて、Dなんだよ」ということもあるでしょう。

ですから「与えられた選択肢以外にも何かあるかもしれないと考えられること」と、「選択肢を⾃分でつくり出せること」の2つが、⾃分⾃⾝の⼈⽣を切り開く上で⼤切な⼒だと思います。どんなに最初はうまくいっていても、いろいろな理由で行き詰まることがあります。そのとき、選択肢が与えられたものだけだと思い込んでしまうと、どこにも逃げ道がなくなってしまいます。選択肢はそれだけではない、他の選択肢を自分でつくることもできるというこの2つの力があれば切り抜けられることもあるはずなので、できるだけ早いうちに、⼦どもたちに身につけてもらいたいといつも考えています。

選択肢の外側に目を向けるには

――与えられた選択肢以外にも目を向けたり、選択肢を自分でつくり出したりできるようになるには、どうすればいいでしょうか?

1つは、「選択肢の中から正解を選ぶ」以外の時間を確保すること。ふだんの学習では選択肢の中から正解を選ぶ訓練をする時間が長くなりがちなので、そうではない時間をいかに確保するかが大事です。答えが出せないとか、はっきりしないということは、教科書の中にはないけれど、日常生活にはたくさんあるので、それが「ある」ということを認識していけるといいですね。

もう1つは、与えられた選択肢以外に目を向けることや自分で選択肢をつくり出すことの大切さについて、周りの大人が口をすっぱくして言い続けることです。

選択に関するこの2つの力は、もともと就学前の子どもには備わっているものです。お子さんの幼稚園・保育園時代を振り返っていただくと、好奇心の赴くままに何かに取り組んだり、気に入ったことに没頭したりしていた時間ってありましたよね? このとき、子どもは誰かに教えてもらうのではなく、自分で考えてやることを決める経験をしています。それは与えられた選択肢の外側のものを選び取ったり、自分で選択肢をつくったりしていたということでもあります。

ところが、小学校・中学校・高校と進んでいくうちにこのような時間が削ぎ落とされていってしまいます。ですから、周りの大人が意識的に働きかけていくことが重要になるのです。

――なるほど。ということは、保護者の方が「ほかの人がどう思うかではなく、あなたは何がやりたいの?」とお子さまに問いかけることも、2つの力を取り戻す突破口になるでしょうか?

なると思います。「親が喜ぶから」とか「先生がほめてくれるから」と、自分の外側にある評価を気にして選ぶのではなく、「自分が好きなものは何か」「これを選ぶことは自分にとってどういう意味があるのか」などと自分自身の気持ちや考えを根拠に決めることがいちばん良い選択です。

そのためには「自分が好きなこと」や「うまく説明がつかないけれど気に入っていること」などに向き合う時間が必要です。

――小学生のご家庭で、日常生活のなかで取り組めることはありますか?

学校の課題でできることだと、自由研究や読書感想文において、学校から提示された選択肢以外で考えることです。たとえば自由研究なら、「大人にほめられる研究を」「優秀賞をとれる研究を」などという考えをとっぱらって、「自分が好きだからやったんだ」と言えるテーマでやる。いくら「なんでそんな研究をしてるの?」と言われようが、気にせず好きなことをやる。また、読書感想文でも、例示された本の中から選択するよりも、お子さんが興味をもてる本を親子で頑張って探すほうがよいと思います。

あとは、子どもが選択したことを、大人が条件なしに認めることでしょうか。大人は子どもの選択に対して「○○もできるならいいよ」「これは○○を満たしているからよい選択」などと、条件をつけて口を出してしまいがちです。しかし、その条件付き容認は、子どもからすると、否定に近いものとして受け止められることもあります。そうではなく、子どもの選択をそのまま認めることが、子どもの自己肯定感を高め、自分で選択肢をつくる力を育むことにもつながっていくと思います。

たとえば、私は⽇本科学未来館(東京都江東区)にある「”おや︖”っこひろば」の監修をさせていただき、科学的な「モノの⾒⽅」を親⼦で⼀緒に体験できる空間をつくっています。来場者があふれるほど多かったオープン当初は50分間の⼊れ替え制で運営していました。中には5つのアクティビティがあり、どこでどれだけ遊んでいただいてもよいように用意していたつもりだったのですが、ある保護者の⽅が「50分しかないけれど5つあるから、10分遊んだら次のアクティビティに⾏きなさい」とお⼦さんに助⾔していたんです。でも、⼦どもの興味・関⼼は、10分やそこらで区切れるものではないですよね。⼦どもがどれだけ1つのアクティビティに夢中になって遊んでいても、本当はそのまま遊ばせてあげてほしいと思い、すかさずデザインのコンセプトをお伝えすべく声かけをしてしまいました(苦笑)。

だから「”おや︖”っこひろば」の標語は、「手をださず 口をださず 目をはなさない」としています。もちろん、保護者の方もよかれと思って、たくさんの種類の楽しさを子どもに届けたくてかけてくださった助言だということは重々に承知しているのですが、遊んでいても⼝を出さず、⼦どもの「これをやりたい/続けたい」を⼤⼈が認めることができれば、「1つのことをじっくりやっていいんだよ」というメッセージになり、⼦どもは⾃分を認めてもらった感触を得ることができると信じています。

子どもの「やりたい」を認めてあげることは、科学館や博物館などの特別な場所でしかできない行為ではなく、むしろ近所の公園やご家庭のなかでのほうが適しています。「今日できなくても、また明日やってみればいい」と思えるような、何度も挑戦することができる日常の環境の中で、子どもの「やりたい」をうまく認めていけるといいと思います。

⇒次ページに続く 選択を自分のものにするために

プロフィール

塩瀬隆之(しおせ・たかゆき)

京都大学総合博物館准教授。1973年生まれ。京都大学工学部卒業、同大学院工学研究科修了。博士(工学)。専門はシステム工学。ロボット研究に取り組むうちに哲学や人とロボットとのコミュニケーションなどに関心をもち、コミュニケーションデザイン研究に取り組む。2012年7月より経済産業省産業技術政策課にて技術戦略担当の課長補佐に従事。2014年7月より復職。小中高校におけるキャリア教育、企業におけるイノベーター育成研修など、ワークショップ多数。平成29年度文部科学大臣賞 (科学技術分野の理解増進)受賞。近著に『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』(学芸出版社)。

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