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小学生のプレゼンテーション術 〜“発表”の苦手意識をなくすには(2)

“発表”の苦手意識をなくすには

――自分の思いを伝えられたり、相手のことを想像しながらプレゼンテーションできたりすればよいのですが、プレゼンテーション以前に、授業中に手を挙げるなど、発表することそのものに苦手意識がある子どももいます。そのような子にとっては、何から始めるのがおすすめですか?

 

おすすめは、アメリカやカナダなどで幼稚園から行われている「Show &Tell」というワークをご家庭でやってみることです。このワークは、「あなたが好きなものを見せて、紹介して」と、その子が好きなこと、興味があることなどを説明してもらうもの。学校の授業での発表は、大人数の前で、かつ、正解・不正解のあるテーマについて話すため、緊張しやすい、まちがえたくないという2つの壁がありますよね。これは、ご家庭で少人数、正解・不正解がないテーマ、もしくは、その子がいちばん詳しいテーマでプレゼンをするというものなので、プレゼン練習の第一歩としてうってつけです。

たとえば、「このゲーム、すごく好きみたいだね。どんなゲーム?」「新しく始まった番組を熱心に見ているけど、どんな番組?どんなところに興味もってるの?」などと保護者の方が投げかけて、プレゼンというよりは、説明してもらうところからまず始めていくとよいでしょう。

 

――そうやって子どもに説明してもらったときに、保護者はどのように反応するのがよいでしょうか? 子どものモチベーションを上げたり、さらに一歩進んでもらったりするためにおすすめの声のかけ方を教えてください。

大事なのは、お子さん自身で伝えたいテーマを選んでもらうことです。保護者の方は、お子さんが話すテーマについてジャッジすることなく、興味・関心をもって聞いてあげましょう。たとえばゲームについてであれば「それってどういうこと?教えて!」「わたしが子どものころのゲームはこんな感じだったけど、今はどんなふう?」などと、とにかくお子さんに舞台に上がってもらい、保護者の方は教えてもらう、伝えてもらう側に身を置くことです。

おもしろそうなことや不思議に思うことを、インタビュアーになったつもりで聞くのもいいですね。「自分は子どもの磁石になるんだ」と思うといいかもしれません。砂鉄に磁石を向けるとざーっと集まってくるように、お子さんの中にあるふだんは言葉になっていない思いを磁石でキャッチしてあげるんです。ただし、質問攻めにならないように気をつけてくださいね。

お子さんは、最初はうまく説明できないかもしれませんが、1つでも自分の気持ちを表現する言葉が見つかるとうれしさを覚えるでしょうし、話してみたら親が喜んでくれた、自分の思いを知ってもらえた、と感じられれば、「伝わってうれしい」「伝えるって気持ちいい」「教えたい」という感情も生まれてきます。まずはそういった感情を味わってもらうことが伝えることの苦手克服に欠かせません。論理的に説明するとか、わかりやすく説明するといったテクニックの話はそのあとです。

プレゼンテーションの力をより高めるには

――「発表するのが好き」という子どもについてはどうでしょうか? その意欲をさらに伸ばしていくための次のステップとして、おすすめの取り組みを教えてください。

そういったお子さんには、「伝えたい気持ち」がすでにあると思うので、次の段階として、伝えたい気持ちをいかにして相手にわかりやすい表現に乗せていくか、また、わかりやすい論理展開をしていくかなどを意識させていくようにするといいと思います。

そのためのポイントは2つあります。1つめは、論理的に、わかりやすく伝えるテクニックです。5W1Hに代表されるように前提条件をわかりやすく説明する、いきなり詳細を話し始めるのではなく、概要から話し始めて詳細に進んでいくなどです。

その中でも、今日からご家庭で使えて、プレゼンテーション力の向上に即効性があるのが「話す順番」です。普段から話が上手な子も、ご紹介するテンプレートで話してもらうと、よりわかりやすくなったり、足りない情報を補完できたりしてもっと話が充実したりします。

話す順番は「な・な・た・こ」テンプレートで!

話す順番について、子どもたちには、「な・な・た・こ」テンプレートで話そうと伝えています。次のように、話のパートを4つに分けてこの順番で話していく方法です。

1:なにを話すか」 /話のテーマや概要を伝えます
「2:ぜ話すか」  /この話をする理由や動機を伝えます
「3:とえば」  /話のたとえ話や具体的な中身を伝えます
「4:相手にとってもらいたい動は何か」 /相手にとってもらいたい具体的な行動を伝えます

の順です。

たとえば、自分の好きなマンガについて紹介するのであれば次のような流れになります。

 

例)
にを話すか /好きなマンガ「〇〇」について
ぜ話すか  /私が夢中になっているその魅力をたくさんの人に知ってほしいから
とえば   /○○が出てくるこのエピソードがとても勇気をくれる
相手にとってもらいたい動/1冊でいいから読んでみてほしい

日記を書くのが苦手だったのに、実際にこのテンプレートを意識しながら書いてみたところ、日記を書くのが大好きになった!という子もいます。プレゼンテーションだけでなく、作文や日常会話でもぜひ取り入れてみてください。

――プレゼン力をより高めるもう1つのポイントとは何でしょうか。

借り物の言葉ではなく、自分の言葉に昇華して表現すること。たとえば、学校でのできごと、本や映画などの感想をたずねたとき、「うれしい」「楽しい」「おもしろい」といった言葉で子どもたちは答えがちです。でも、心の中にある感情は、100人いれば100通りあって、その子の経験や思いと結びついている言葉があるはずなんです。それをわたしは「自分言葉」と呼んでいますが、自分言葉で表現するには、「なんでそう思ったのか?」とその子の体験を聞き出すなどして「うれしい」「楽しい」「おもしろい」といった借り物の言葉から自分言葉に昇華させてあげることが必要です。発表するのが好きという子であれば、ぜひここにトライしてもらいたいです。

たとえば、過去のプレゼンテーション講座では、「レゴブロックで遊ぶのがおもしろい」と話す子の思いを掘り下げていくと、「説明書どおりに作らなくていい、むしろそのほうがいい」という言葉が、また、「英語が大好き」と話す子からは、「英語にはアルファベットしかない、26文字の組み合わせだけだから日本語より簡単!」という言葉が出てきました。こういった、その子の経験や思いと結びついている「自分言葉」を会話のなかから引き出してあげられるといいですね。それこそが、相手に伝わる力を持っているパワーワードです。

発表が好きなお子さんでも、「事実」を伝えることは得意だけれど、それに対する自分の「解釈や考え、感想」を伝えることは苦手な場合が多いです。この部分こそが、その子らしさが表現できる一番大事な部分なので、やはり周囲が、「どう思うの?」「なんでそう思うの?」と対話式に一緒に掘り下げていくといいですね。

 

――「自分言葉」を見つけられない、なかなか表現できないという場合、保護者からどのような問いかけやアプローチができるでしょうか?

 

自分言葉を語るには、物事を俯瞰してみる抽象的な思考が必要となってきます。ですが、低学年の場合だとまだ抽象的な思考ができる段階にないので、たとえば好きなマンガについて説明してもらうなら、まずは「具体的な事柄」をたずねていくことをおすすめします。「あなたが好きなキャラクターはどれ?」「そのキャラクターのどこにひかれる?ファッション?性格?」などと具体的に。そうやって会話をしていくと、「だってこういうところがあるからこのキャラクターが一番素敵なんだ」と表情が変わる瞬間が必ずあります。

子どもたちは具体的な事柄の羅列は得意です。でも、それをそのまま話しても、そのテーマに詳しい人にしか響かないですよね。そこで、こういった具体的な事柄がいくつも出てきた段階で「つまり?」と抽象度を一段上げる質問をしてあげるとよいでしょう。「つまり魅力を一言でいうと?」「つまりどんな話なの?」といった具合です。

磁石となる保護者の方に必要なのは、この具体と抽象の2つを綱引きのように行ったり来たりしながら問いかけていくこととも言えます。

 

――あくまで、「自分言葉」で表現してもらうのが大切なんですね。

⇒次ページに続く 実践するとより伝わるものになる!プレゼン資料のまとめ方

プロフィール

鈴木 深雪(すずき・みゆき)

子どもが教える学校 主宰。2001年大日本印刷(株)に入社。商品企画として多様な業界数百社へのプレゼンを経験、教育事業にも従事。2016年独立、経営者の思考整理・プレゼン資料代行事業を立上げ。2020年、コロナ休校中の子ども達が自分の好きをプレゼンする「子どもが教える学校」をスタート。発表嫌いの克服プログラムは公立小でも採用、1年たらずで130人参加。NHK・めざましどようび・東京新聞に取り上げられる。プライベートは小3男子の母。

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