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夏休みに体感! 身のまわりにある算数のおもしろさ(1)

学ぶにつれて好き嫌いや得意・苦手が分かれがちな算数。苦手に感じているお子さまも、「好き」「得意」というお子さまも、夏休みを迎える今、学校で学ぶ算数から少し離れて、身近なところから算数のおもしろさを感じてみませんか? 算数・数学のおもしろさを伝える講演活動をされているサイエンスナビゲーター(R)の桜井進さんに、算数が「嫌い」「苦手」なお子さまでも「おもしろいかも!」と思える身のまわりの「数」「形」「計算」の楽しみ方を教えていただきました。(取材・文 浅田夕香)

目次

算数は、身のまわりにあふれている

――桜井さんは、講演活動やご著書を通じて身のまわりのものから算数を楽しむための視点を発信されています。算数を「楽しむ」という感覚がもてずにいる小学生も多いと思いますが、桜井さんなら、そんな小学生にどんな話をされますか?

たとえば、漢数字の「十」には「つなし」という読み方があり、名字にも使われていますが、なぜ「つなし」と読むかご存じですか?

ヒントは、数の数え方にあります。1から9までは「ひとつ、ふたつ、みっつ、……ここのつ」 と「つ」が付きますが、10はどうでしょうか?「とお」で「つ」が付きませんよね? このことから、「つなし」と読まれるようになったと言われています。また、「一」を「にのまえ(2の前)」と読んだりもしますし、漢数字はおもしろいですね。

――漢字の読み方の由来に数の数え方が関係しているんですね。

そうなんです。ほかにも九十九(つくも)や八百万(やおよろず)などおもしろいものがいろいろあるので……、調べてみてください。
もう1つ、九九のマジックを紹介します。九九の九の段の答えは、両手の指10本で出せるんですよ。

――??どういうことでしょうか?

たとえば、「9×3」の答えを知りたいときは、両手を開いて左から3本目の指(左手中指)を折ります。すると、その指を境に左側には指が2本、右側に7本の指が立っていますよね? 左側の指の本数が十の位、右側の指の本数を一の位と考えると、2と7で27。9×3の答えと一致します。同じように、「9×1」の場合、左から1本目(左手親指)を折ると、左側0本、右側9本で答えは9。
「9×2」だと、左から2本目(左手人差指)を折るから、1本と8本で答えは18。
「9×4」だと、左から4本目(左手薬指)を折るから、3本と6本で答えは36。
「9×9」だと、左から9本目(右手人差指)を折るから、8本と1本で答えは81。
「9×10」だと、左から10本目(右手親指)を折るから、9本と0本で答えは90。……という具合に、九の段は指を折るだけで答えを出せるんです。

――これは驚きです! 考えてみたことがなかったです。

九の段の答えをよく見てみてください。「9×1=9」から「9×10=90」まで、1の位が「9、8、7、……3、2、1、0」と1つずつ減っているでしょう? さらに見ていくと、答えの十の位と一の位を足すと、「0+9」「1+8」「2+7」……「8+1」「9+0」と、すべて9になることがわかります。だから、指を折ると答えが出る、というマジックをつくることができるんです。おうちの方がお子さまに「ねえ、こんなの知ってる?」とやってみせることで、お子さまは楽しい気持ちで九九に触れ、九九のヒミツを知ろうと思ってくれるのではないかと思います。これはほんの一例ですが、身のまわりには、数や形、計算に関連づけて楽しく考えられる題材がたくさんあります。夏休みはまさに身のまわりの算数を楽しむチャンスです。算数を勉強するのではなく、算数を楽しむ時間をぜひつくってほしいですね。

――「算数を楽しむ」というのは、学校の勉強からはなかなかイメージしづらいように思います。

学校の算数とは少し切り離してとらえるといいですよ。英語に、「do math」という表現がありますが、日本語に訳すと「数学をする」で、能動的になんでも数学で考えてみることを表します。音楽やスポーツ、ダンスに「自分がプレーヤーになる」「人のプレーを観戦する」などさまざまなかかわり方があるように、数学や算数も「学校で授業を受ける」だけでなく、「能動的に何でも数学で考えてみる」というかかわり方もできるはずなのです。
たとえば、ピザのように丸いものを「人数分、同じ大きさに切り分けるにはどうしたらいいだろう?」と考える、ミートボールをお兄ちゃんは5個食べて、自分は3個しか食べられなかったところから「同じだけ食べるにはいくつといくつに分ければよかったんだろう?」「あと何個あったら同じだけ食べられたんだろう?」などと考える。このようにして日々の生活を数学・算数の視点で見ていくことも「do math」です。そうやって、身近にある数や形からお子さまの「なんでだろう?」が出てくるよう、保護者の方が身構えずに、お子さまとコミュニケーションをとっていけるといいですね。

――桜井さんご自身も、幼いころから身のまわりの事象を算数・数学で考えていらっしゃったのでしょうか?

そうですね。ぼくの場合、入り口はラジオでした。ラジオを聞くのが好きで、聞くことが高じて「ラジオを作りたい!」と思ったんです。ラジオを作るには、電子回路を設計しないといけなくて、そのためには数学が必要だということに10歳で気づき、ラジオ・音響技能検定を受けたり(現在は検定試験休止中)、関数電卓を買って、「√」や「π」と書かれたボタンを「これってどういうことだろう?」と触ってみたり、知り合いのお兄ちゃんから中学・高校の数学の教科書を借りて必要なところだけかじったりしていきました。

チューニングを表す公式にf=1/2π√LC(2π√LC分の1)というものがあり、意味がわからないまま覚えて、ラジオを設計して、形にしたら、本当に計算通りにラジオから音声が流れた!という体験がぼくの原点です。「ほんとに動くんだ! 数学ってすごい!」と衝撃を受けました。この経験から、「なんでこの公式ができるんだろう?」と数学に興味を持ち、より深く探究して、わかって、驚いて、の繰り返しで現在に至ります。

ぼくにとって数学は、「ダンスを踊れるようになりたいから踊れるまで練習する」「シュートを決められるようになりたいから決めるまで練習する」ことと同じだったんですよね。わからない公式をあと10年たったら理解できるだろうと思いながら見ているだけで楽しかったですし、先ほどご紹介した九九のマジックなんかも小学校のときに自分で見つけていたんですよ。学校のテストや、先生・親からの注意におびえながら学ぶのではなく、「知りたい」「作りたい」から探究する。すると、必要な知識がどんどん頭に入っていくんです。いま小学生のみなさんにも、身のまわりにある算数のワクワクを見つけて、楽しんで数や形について知っていってほしいと思います。

⇒次ページに続く 夏休みに体感!日常のなかにある算数の例

プロフィール

桜井 進(さくらい・すすむ)

サイエンスナビゲーター(R)。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。東京理科大学大学院非常勤講師。1968年山形県生まれ。東京工業大学理学部数学科卒業、同大学大学院社会理工学研究科博士課程中退。大学在学中から予備校講師として教壇に立ち数学や物理を楽しくわかりやすく生徒に伝える。2000年にサイエンスナビゲーター(R)を名乗り、数学の歴史や数学者の人間ドラマを通して数学の驚きと感動を伝える講演活動をスタート。
小学生からお年寄りまで、誰でも楽しめて体験できる数学エンターテイメントは日本全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアに出演。著書は『親子で楽しむ! わくわく数の世界の大冒険』(日本図書センター)、『考える力が身につく! 好きになる 算数なるほど大図鑑』(ナツメ社)など50冊以上。

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