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子どもの長所の見つけ方、伸ばし方(3)

長所を伸ばせば、短所も是正される

――たとえば中学受験をする場合、苦手教科(=短所)の対策をしないと合格できないですよね。このような場合は、どうすればいいのでしょうか。

受験に必要な教科が、算数・国語・理科・社会の4教科あった場合、まずは比較的得意な教科(=長所)をとことん上げるようにしましょう。その教科の得点が上がってくると、得意教科という一つの武器を手に入れた状態となるので、自信がつきます。得意教科がない中で苦手教科の対策をするのは、アクセルを踏むことができないままブレーキばかりを踏んでいる状態と同じなので、なかなか成績が上がりません。また、苦手教科の対策をする際は、苦手と一言でひっくるめずに、苦手の中でも比較的得意な分野を見つけて、まずはその分野から対策をするとよいでしょう。

このように、まずは得意分野から取り組むことで、子どもは学びの方法や学習のコツを習得し、自信をつけます。そして、得意分野で上手くいった経験が他のフィールドでもいかされることを知り、自分なりに応用するので、苦手教科の得点も上げることができるのです。最後に「目標点まで〇点足りない!」となった場合も、得意教科という武器があるので、一気に目標点まで伸ばすことができます。

――保護者の方は、まずは長所を伸ばすことを考えたらいいんですね。

そうですね。長所を伸ばして自信がつくと、子どもはもともと自覚している短所をあとから是正しようとします。もちろん、まわりに暴力をふるうなど、短所に目を向けすぐに対応しなければいけない場合もありますが、基本的には子どもの長所を伸ばすことを考え、短所は子ども自身が是正しようとするのを待ちましょう。

保護者が笑顔でいることが、子どもの長所を伸ばすうえで大切なこと

――保護者自身が、短所に目を向けるという教育を親から受けてきた世代のためか、頭ではわかっていても、子どもの長所に目を向けるのは難しいという方も多いと思います。

今は価値観の大転換時代だと思います。物理的にいろんなものが新しくなってきて、過去のモデルが強制終了されています。それは、過去の常識や価値観が時代に合わなくなってきているということなんですですよね。

長所よりも短所に目を向けるという考えも同じで、今の子どもにはマッチングしない考えなだけだと思います。私が今まで多くの子どもを育ててきて、多くの保護者の方と話をしてきて思うのは、今までも話してきた通りですが、長所を伸ばすという入口から入ったほうが効果があるということです。短所は後から是正できます。保護者の方が、長所を伸ばすという方向に変えたいということであれば、自分の意思の力で変えないといけません。新しい習慣に慣れるまでには一定期間が必要ですので、しばらく意識をしてみましょう。そうすることで、あなたの世代で短所に目を向けるという考えから脱却することができます。

――他にも、保護者自身がなかなか前向きになれず、子どもの長所に目を向けるのが難しいという場合もあると思います。

そうですね。保護者の方が子どもの長所ではなく短所に目を向けてしまう要因には大きく2つあります。1つは、教育を保護者の方自身が、子ども時代に直面した「こうでなければならない」という枠に子どもをあてはめて考えてしまっていること。そうすると、枠からはみ出た途端にそれが直さなければいけない短所となってしまいます。「自分の子どもにはこうなってもらいたい」という理想像は持っていても構いませんが、その枠がきっちりと決まっていればいるほど、はみ出ると気になりますし、子どもは窮屈に感じて、できることもできなくなります。

もう1つは、忙しすぎて保護者の方自身の心が満たされていないこと。人間は、自分の心と同じ状態のものを周りに見つけようとしますから、保護者の方の心が満たされていないと、お子さんのマイナス部分ばかりが見えてきますし、満たされているとプラスの部分が見えてきます。

たとえば、仕事で疲れて家に帰ったときに、部屋が散らかっていたら、子どもにいろいろ言ってしまいますよね。極端な例ですけれど、宝くじで1億円が当選したのがわかった日だったらどうでしょうか。同じ状況でも、子どもにかける言葉が変わってきませんか?

ですので、保護者の方自身が、心が満たされてご機嫌でいられるように、子育てから離れて何かしらの楽しみを持ってほしいですね。子どものために親の人生があるわけではないのですから。

――保護者である私たちがご機嫌でいるということは、わかってはいても難しいですね。何かアドバイスはありますか。

家事や育児や仕事に忙殺されている方もいらっしゃると思いますが、「どうせやるなら楽しみたい。どうすれば楽しめるかな?」と考えてみるといいでしょう。たとえば家事を楽しんでいる人の真似をすることによって、視点が変わり発言も変わるかもしれません。他にも一人だとマイナスなことを考えてしまうことがあるので、悩みを共有できるコミュニティに参加して、テンションを上げるというのもいいでしょう。

ただ、常にご機嫌でいるという訳でにもいかないので、ネガティブな言葉よりもポジティブな言葉を多めにするというのを目ざすと良いと思います。子どもの自己肯定感を下げるネガティブな言葉の代表として「ちゃんとしなさい」「早くしなさい」「勉強しなさい」といった3つの言葉があります。もちろん、こういう言葉を言わざるを得ない場面はあると思いますが、最小限に留めて、「楽しいな」「面白いね」「ワクワクするよ」といったポジティブな言葉を多めに言うように意識すると良いでしょう。

先ほどもお話ししましたが、現状を変えたいと思うのであればある一定の時間が必要です。保護者自身の強い意思で、しばらく意識を変えるようにしましょう。

――ありがとうございました。

プロフィール

石田勝紀(いしだ・かつのり)

一般社団法人 教育デザインラボ 代表理事。1968年、横浜市生まれ。20歳で学習塾を起業。これまで3500人以上の生徒を直接指導する傍ら、講演会、セミナーなどを通じて5万人以上の子どもたちを指導してきた。35歳で都内私立中高一貫校の常務理事に就任し、経営、教育改革を実践。現在は「日本から勉強嫌いな子をひとり残らずなくしたい」という信念のもと、全国各地で講演会、カフェスタイル勉強会「Mama Cafe」、研修会を年間400回以上主催している。『東洋経済オンライン』での人気教育連載コラムは、累計1億万PVを記録。『子どもの長所を伸ばす5つの習慣』『子どもの自己肯定感を高める10の魔法のことば』(いずれも集英社)など著書多数。

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