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「語彙力」を伸ばすには(1)

2016年12月に発表されたPISA(学習到達度調査)の日本の結果では、15歳の読解力が下がっていることが話題になりました。読解力の向上に向けて、国立教育政策研究所では「読解力を支える語彙力を強化していくこと」をあげています。「語彙力」を伸ばすにはどうすればいいのか、そもそも語彙力を強化することは本当に読解力向上につながるのかについて、今回は東京大学で語彙学習の研究をされている松下達彦先生にお話をうかがいました。

目次

「読解力」と「語彙力」の関係

  • 文章を理解するためにはどれくらいのことばが必要?

効率よくことばを身につけるためには

  • 「学術共通語彙」の紹介
  • ことばを身につけるカギ!?「学術共通語彙」の特徴
  • 「学術共通語彙」はどう身につけたらよいか

「読解力」と「語彙力」の関係

文章を理解するためにはどれくらいのことばが必要?

「読解力」と「語彙力」の関係を考えるにあたり、まずはご自身の子どものときを振り返ってみてください。大人が読むような新聞や本を読んでみたら、まったくわからなかった……ということがあったと思います。その原因はどこにあるのでしょう?

1)文法知識

2)背景知識

3)語彙知識

などいろいろと考えられますね。その中でもいちばん影響が大きいのは3)です。3)の語彙知識が土台にないと、1)の文法知識や2)の背景知識があっても文章は理解できません。成長に応じてことばを覚えていくことで、大人向けの文章を読めるようになるのです。

では、具体的にどれくらいのことばを知っていれば、文章が理解できるのでしょうか。少し専門的な話になりますが、文章の中ですでに知っていることばが含まれる割合を「既知語率」と言います。この既知語率が高いほど読解がしやすくなります。たとえば英語では

既知語率95%:テキストが6~7割理解できるレベル

既知語率98%:自力で読解を楽しめるレベル

といわれます。

日本語ではもう少し低く、93~96%くらいである程度読めるようになるとわたしは考えています。これはたとえば、新書1ページ(約600字)の中で知らないことばが1行ごとに1つ程度ある状態です。

では、なぜ英語よりも日本語のほうが、知らないことばの多い文章でも読めてしまうのでしょうか。

ヒントは漢字です。たとえば「読解」という単語を知らなくても「読む」「理解」「解答」などの語を知っていれば、「読解」は「読んでわかる(解る)」ことだと推測することができますね。日本語の熟語の場合、一つひとつの漢字に分解したり、部首に着目したりすることで、意味の推測がしやすくなるわけです。英語の学術語彙(=論説文などの硬い学術的文章でよく使われる語彙)にはギリシャ語やラテン語に起源のある語が多く、同系列のフランス語を知っていると英語の学術語彙の学習にも有利なことがわかっています。日本語の場合、それに相当するのが漢字語です。硬い文章には2字漢語が多いですよね。実は学術系の語彙の約4分の3は漢語ですが、文芸書や会話の語彙では漢語は4分の1程度しかありません。ですので、論説的な文章を読むには、やはり漢字の知識が重要で、意味を推測する方法が身についていれば、多少知らないことばがあっても読み進めていくことができるというわけです。逆に言えば、この方法が身についていないお子さまですと、知らないことばに出合ったらすぐに読むのをあきらめてしまう可能性があります。

文章を読むのが苦手なお子さまに対しては、わからなかったことばの意味を一緒に考えていく練習をしてあげましょう。ついつい「わからないことばは辞書で調べておきなさい」で片づけてしまいがちですが、ことばの意味を一緒に推測し、辞書で答え合わせをすることで、クイズのように楽しみながら身につけることができますよ。

また、日ごろからニュースや新聞などを見ながら、世の中の動きに関心を持つように家族でお話をされてはいかがでしょうか。(まず我々大人が興味を持たなくては!)。あるいは「どうして冷たい飲み物が入ったコップの外には水滴がつくのかな」とお子さまに聞いてみるなど、自然現象の不思議に関心を持てるように問いかけるのもよいと思います。そして次に、本でもネットの記事でもよいので、お子さまのレベルにあった書き方になっている文章を読ませてあげましょう。小学生向けの新聞はもちろん、ネット上にはYahoo!きっずなど、子ども向けに学術的な内容を解説したものもあります。

プロフィール

松下 達彦 (まつした・たつひこ)

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部 グローバルコミュニケーション研究センター 准教授
専門は応用言語学、日本語教育。桜美林大学准教授を経て、Victoria University of Wellingtonで語彙の学習・教育について学び、博士号(PhD)取得。大規模コーパス(言語資料)に基づく語彙分析、およびそれをいかした日本語の語彙学習、語彙教育がおもな研究テーマ。Z会グループの基盤学力総合研究所が提供している「日本語運用能力テスト」の監修者でもある。

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