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子どものやる気を引き出す「傾聴」のしかた(1)

お子さんとのコミュニケーションにおいて、「話を聞いているつもりが、先に口を出してしまった」「十分に子どもの思いを汲み取ることができていなかった」という経験はありませんか? 「聴く」ことによって子どもの感情を受け止めることは、子どものやる気を高めると、長年、傾聴について研究と実践に取り組んでこられた松本文男先生はおっしゃいます。その松本先生に、子どもが「聴いてもらえた!」と実感し、前向きになる傾聴のしかたをうかがいました。(取材・文 浅田夕香)

目次

子どもの話を「聴く」ことは、なぜ重要なのか?

――松本先生は、傾聴について研究され、その重要性を説かれています。傾聴について、まずは「聞く」と「聴く」の違いから教えていただけますか?

相手の話を耳に入れる行為には、「聞く」と「聴く」の2種類があります。「聞く」は、相手の声が音として耳に入っている状態、「聴く」はもっと話の内容に注意を傾けて聴いている状態を指します。たとえば、話は聞いているものの「なんとなく耳にしている」「ほかの作業をしながら『ながら聞き』している」などは「聞く」にあたり、相手の話に集中し、しっかりと頭に入れようとしている状態が「聴く」にあたります。

人が「話をきいてもらった」と感じられるのは、話している相手がこの「聴く」の姿勢を示してくれたときです。この瞬間、私たちは「自分の話したいことを話せた」という満足を感じます。そして、相手が「この人は、自分の今の気持ちを、少しの誤解や思い違いもなく、わかってくれている」と感じられる聴き方が傾聴です。

――「傾聴」には、黙って聴くというイメージがありますが、実際はどのように聴くことなのでしょうか?

傾聴は、ひとことで言うならば「相手の感情をそっくりそのまま受け止める」ということだと私は考えています。単なる会話のテクニックでも、ただの話し相手や聞き役になることでもありません。相手が「十分に話を伝えられた」という満足感を得られる聴き方となることが一番重要なポイントです。

たとえば、相槌は打つものの実は聞き流している、子どもの話を先回りして乗っ取ってしまう、いつの間にか相槌がお説教に変わる、などはすべて聞いたつもりでいるだけの「つもり聞き」で、子どもは「聴いてもらった」という満足感を得ることができません。聴く側の考えや意見、判断などはひとまず頭から追い出し、まっさらな状態で相手の話を本気で、真剣に、一生懸命、すべて信じる気持ちで聴き、相手の気持ちをなるべく正確に感じ取り、言葉にして返すのが傾聴です。

――先生は、ご著書の中で「保護者の傾聴によって、子どもはやる気を育んでいく」と述べていらっしゃいました。なぜ、傾聴によってやる気が育まれるのでしょうか?傾聴の効果について、科学的に教えていただけますか。

人は本来、自分で考え、自らをよい方向に導いていく力を持っています。「もっとよくなりたい」「もっと成長したい」と思う自己実現欲求が、一人ひとりの中にあるからです。

子どもも同じで、勉強、習いごと、ゲーム、スポーツなど何でも、もっと上達したいという気持ちを本来持っています。

けれど、そうした自然の欲求は、生きていくための十分な活力がないと生まれません。ストレスフルな生活を送っていたり、「悲しい」「不安」「苦しい」といったネガティブな感情を抱いていたりすると、脳が萎縮してフル回転できない状態になってしまいます。子どもたちも、学校生活や友達づきあいの中でさまざまなストレスを抱えています。子どもの脳がこうした状態のとき、「やる気を出しなさい」「もっと○○しなさい」と親に強いられれば、その言葉がストレッサーとなり、ますますその子のメンタルエナジーは枯れていきます。家庭はそんな子どもたちが安心してくつろぎ、明日に向かうエネルギーを養う場です。
そこで親による「傾聴」は大きな手助けとなります。学校や社会でなされている「評価」や「指導」といったことを抜きにして、保護者が傾聴によって子どもの話を受け止めることで、子どもは、「自分の気持ちを十分にわかってもらえた」「自分と同じ気持ちになってもらえた」と感じます。それは、「自分は保護者から愛されている存在だ」と実感する体験であり、その体験によってメンタルエナジーが補充されることで、自分への自信や誇りが湧いてきて、目の前の課題に前向きに向き合えたり、未知の体験に興味を持って取り組んだり、トラブルに見舞われても乗り越えられたりする強い心を持てるようになります。

傾聴は、脳の中心であり感情と密接につながる前頭連合野や大脳辺縁系を活性化することがわかっています。その結果、人格の変化「パーソナルチェンジ」も促すことがあります。人間は他の生物と比べて可塑性が高い、つまり環境変化によって自分を変える学習能力がとても高い生き物です。寂しさや切なさ、嫉妬、怒り、不安、焦燥などの気持ちを傾聴によってしっかりと受け止めてもらえると、感情やものの見方がガラリと変化するのです。たとえば、引っ込み思案の子がみんなの前で話せるようになる、乱暴だった子が小さい子に優しくなるなどの例は多くあります。

⇒次ページに続く 子どものやる気を引き出す「傾聴」のポイント

プロフィール

松本文男(まつもと・ふみお)

長野県佐久市出身。NPO法人日本精神療法学会理事長。NHK文化センター専任講師(松本・前橋・川越・名古屋・西宮・京都・東京)。1947年京都大学(理学部・実験心理学) 卒業。1953年東京大学大学院博士課程 (医学部・大脳生理学)修了。シカゴ大学大学院博士課程(カール・ロジャーズ研究室)修了。1983年より長野大学教授並びに郵政省専任カウンセラーを20年務める。2013年カウンセラーとしての功績により瑞宝小綬章を受章し、瑞宝章受章者の代表として皇居にて天皇陛下に謝辞を奏上する。主な著書に、『子どものやる気を引き出す「聴き方」のルール』(大和書房)、『悩む十代心の病』(東京法令出版)ほか多数。

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