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子どものやる気を引き出す「傾聴」のしかた(2)

子どものやる気を引き出す「傾聴」のポイント

――どのような聴き方が傾聴といえるのか、具体的に教えていただけますか。

2つの基本的な聴き方をお伝えします。

1つめは、「〜してほしい」「〜してほしくない」という気持ちをひとまず全部棚上げして、先入観も願望もなるべく持たず、こだわりのない状態で話を聴くこと。そうして心を透明にした状態で「この子はいったいどんな気持ちなのか?」となるべく正確に感じ取ろうとしてみましょう。

2つめは、話から読み取れる感情を言葉にして返すこと。ただ聴いて心の中で納得しているだけでは、「受け止めた」ことにはなりません。また、子どもが言った言葉をオウム返しにしても、子どもは「感情をわかってくれた」とは感じません。相手の言葉から読み取れる感情を、言葉にして返す。それが、傾聴の「受け止める」ということです。とくに、悲しみや不安などのネガティブな気持ちを傾聴で受け止めようとするときは、相手が感じているであろう感情を想像し、それを理解し寄り添うような言葉を返します。そのために必要なのが、共感的理解、すなわち、「相手と同じ感情になる」ことです。

ここで、共感的理解に基づく、子どもが「わかってもらえた」と実感できる聴き方と、そうでない聴き方の例を紹介しましょう。

子どもが「わかってもらえた」と実感できない聴き方

子:「今日、ショウくんが、僕なんかリレーの練習をしても選手になれるわけないって」

保護者(以下「保」):「ショウくんが?」

子:「上から目線で笑ってさ、すっげーむかついたんだ」

保:「つまりバカにされたってことだね」

子:「……うん」

子どもが「わかってもらえた」と実感できる聴き方
子:「今日、ショウくんが、僕なんかリレーの練習をしても選手になれるわけないって」

保:「ショウくんが?」

子:「上から目線で笑ってさ、すっげーむかついたんだ」

保:「そうか、バカにされたような気がしたんだね」

子:「うん。バカにされたって感じがした……」

保:「それは悔しいね。お友達にそんなふうにされたら腹が立つね」

子:「そうなんだ」

前者は、客観的な視点での事実確認ですが、後者は、その子の怒りや悲しみ、恐怖、不安などの思いを、あたかも自分自身のものであるかのように自分の心にそっくりそのまま移す感じ取り方をして言葉を返しています。それにより、子どもは「わかってもらえた」と感じることができるのです。

 

――「共感的理解をする」ことも、「話から読み取れる感情を言葉にして返す」のも、なかなか難しいことのように感じます。何かポイントはありますか?

大きく3つあります。

1つめは、事実の確認にこだわらないことです。具体的にどんなことが起こったのか、誰と何があったのかといった事実は親にとって気になりますが、話の途中でいちいち前後関係を問いただしたりしていると、肝心の感情の部分を受け止め損ねてしまうことがままあります。話から読み取れる感情を言葉にして返すことに集中しましょう。

2つめは、うまく感情を言葉にできないときは、肯定をあらわすうなずきや短い相槌を返すだけでも構わないということです。たとえば、「うん、うん」「そんな気持ちなんだ」といった相槌でも、真剣に聴きながら返すのであれば、十分に役割を果たしますし、続けていくうちに、少しずつ子どもの気持ちを言葉で表現してあげられるようになるでしょう。

気持ちを受け止めて言葉を返したつもりでも、捉え方がズレていて「そうじゃないよ、わかってないなあ」と返されることもあるかもしれません。けれど、それでもいいのです。「ごめんね、わからなくて。本当の気持ちをもっと教えてくれる?」と真剣に聴き続けることが一番重要です。

3つめは、「〜すべき」といった正論や道徳、一般常識を持ち出さないこと、特に、保護者の価値観や成功体験を押し付けないことです。これらを聞かされると、子どもは自分の感情に理屈で応じられていると感じて「言いたいことをわかってもらえていない」という思いを抱きます。感性には感性で応じる。そして、その感性が相手のそれといささかのズレもないように心がけることが大切です。

⇒次ページに続く こんなときはどうすれば? ケース別、子どもの心を満たす傾聴のしかた

プロフィール

松本文男(まつもと・ふみお)

長野県佐久市出身。NPO法人日本精神療法学会理事長。NHK文化センター専任講師(松本・前橋・川越・名古屋・西宮・京都・東京)。1947年京都大学(理学部・実験心理学) 卒業。1953年東京大学大学院博士課程 (医学部・大脳生理学)修了。シカゴ大学大学院博士課程(カール・ロジャーズ研究室)修了。1983年より長野大学教授並びに郵政省専任カウンセラーを20年務める。2013年カウンセラーとしての功績により瑞宝小綬章を受章し、瑞宝章受章者の代表として皇居にて天皇陛下に謝辞を奏上する。主な著書に、『子どものやる気を引き出す「聴き方」のルール』(大和書房)、『悩む十代心の病』(東京法令出版)ほか多数。

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