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子どもの失敗とどう向き合う?(1)

忘れ物やなくし物などのちょっとした失敗から、友だちとのトラブル、発表会や試験など大事な場面での失敗まで、子どもは実にさまざまな失敗をします。保護者の方からすれば「こうすればいいのに」と言いたくなることもあるでしょう。そこで、『失敗する子は伸びる』『ほめない子育てで子どもは伸びる』(小学館)の著者で、コミュニケーションや能力開発のコーチングに取り組む岸英光さんに、子どもの失敗をどうとらえたらよいかについてうかがいました。

目次

 

失敗することで、子どもは成長する

――失敗は、子どもにとっては成長につながり、財産になるものだと言われています。なぜ子どもには失敗経験が重要なのでしょうか?

おっしゃるとおり、失敗は成長につながるので、たくさん経験しておきたいものです。

失敗経験によって得られるものとしては、まず、「こうしたらこうなる」という知見が挙げられます。水の入ったコップを倒してしまうと、テーブルや服がぬれてしまうことがありますよね。すると、次からはそうならないようにしたり、同じことが起こったときに台ふきでぬれたテーブルを拭いたり、服がぬれたら着替えたりなど、すぐに対処できるようになります。

また、「こうしたらこうなる」の先を想像する力も鍛えられます。たとえば、友だちがやっているゲームの遊び方を教えてあげるつもりで、ゲーム機を横からつかんで取り上げようとしたら、友だちが「取られた!」と言って腹を立ててしまい、大人からも叱られた、ということがあったとします。

すると本人は、「何も言わずに取り上げると相手は『取られた』と思うんだ」「教えたいと思って行動しても、ケンカになったら先生から叱られるんだ」といったことを実感するでしょう。それは、「自分がいいと思ってやったことでも、きちんと伝えないと相手を怒らせることがある」「自分が思うとおりに相手も思うとは限らない」という学びにもなります。その学びが、相手の気持ちを読んだり、自分の行動がどんなことを起こす可能性があるかを想像したりする力になるのです。

とくに、「自分が思うとおりに相手も思うとは限らない」ということを理解し、相手の表情を読んだり、周囲の空気を感じたりといった複雑な情報を感じる力は、10歳ごろには完成すると言われています。したがって、10歳までに、コミュニケーションの失敗も重ねながらたくさんの人の気持ちに触れる経験を積めるとよいと思います。

――ほかにも、失敗経験を積むことで培われる力はありますか?

自分の行動の結果を自分で引き受けるという責任感もつきます。日本では「責任」というと、「やらねばならぬ」という義務感と混同されていたり、「失敗したら責められる/叱られる」「矢面に立つのが責任」といったイメージがもたれたりしていますが、責任は英語だと「responsibility」と表現され、respond(=答える)と同じ語源になっていることからわかるように、本来は、「現実に対して対応できる」ということなんです。成功したらそれを縦横に展開する、また、失敗したら次にどうすればいいか考えて別の形で展開しようとするのが責任感です。

失敗の経験は、自分の行動の結果を自分で引き受け、別の形で対応できるという責任感を培います。

 

子どもの失敗は、どう受け止めればいい?

――とはいえ、失敗を良しとしない保護者の方も多いように思います。大人は、子どもの失敗をどのように受け止めるとよいのでしょうか?

失敗を良くないこととする意識自体を、変えていく必要がありますね。

成功も失敗も、どちらも体験です。体験に悪い評価を下すと失敗のように見えて、良い評価を下すと成功のように見えるだけ。評価する人の意図にかなっていれば成功で、かなっていなければ失敗なだけなんです。つまり、第三者がその人の価値観で「良い=成功」「悪い=失敗」と区別し、評価するから「失敗はしないほうがいい」という判断が生まれるんです。

テストの点数もそうです。たとえば、100点満点のテストで70点をとったとする。ニュートラルな見方をすると、70点という点数は、「得点できた問題が70点分あって、得点できなかった問題が30点分ある」という事実を示しているだけです。

そして、得点できた要因を振り返ることで、30点分を補う方法が見えてきます。70点は、何をしたからとれたのか、残りの30点はどうしたらとれるのかを考えるんです。「(70点という点数が)良かった/悪かった」という評価を下す会話からは何も生まれません。

――となると、保護者は、子どもの失敗に直面した際には具体的にどう向き合えばよいのでしょうか?

ポイントは2つあります。

まずは、起こったことは何か?という現実に目を向けることです。「失敗だった」「成功だった」「良かった」「悪かった」などの評価はしないこと。

そして次に、子どもの感情を一緒に味わってあげてください。子ども自身が失敗したと感じて、たとえば「悔しい」という気持ちを表したなら、保護者の方は、それを一緒に味わうのです。そして、おもてに見えた感情の下にあるさまざまな感情を少しだけ掘り下げてみてください。「ほかに思うこと/感じている気持ちはある?」と。

子どものおもてに見える感情の下には、たとえば、「残念だ」「恥ずかしい」など、もっとたくさんの感情があります。それらの感情もできるだけ味わってみて、本人が言葉にして吐き出せたら、保護者はそれを受け止めるようにするといいでしょう。

このような経験を積んでいくと、自分の感情の扱い方がわかるようになり、ネガティブな感情をもったときもすっと味わい、通り抜けて次の行動に移れるようになります。あるいは、嫌なことも、やりたくないことも、その気持ちをもったままできるようになります。朝起きるのは嫌だけど学校に行くから起きる、やる気がでないけれど授業を受ける、というようにです。

――その場合、味わったつもりだけど味わえてなかった、といったことも起こりうるのではないかと思います。適切に味わうにはどうすればよいでしょうか?

まずは、保護者の方が、自分の中にあるさまざまな気持ちを味わいながら表現し、感情の種類を伝えていけるとよいでしょう。というのは、子どもはまだ、自分の気持ちの探り方を知らないので、大人が自身の中に生まれる複雑な気持ちをたくさん言葉にして表現してあげると、子どもは「なるほどそういう気持ちもあるんだ」と自分の中を探ることができます。

たとえば、子どもが危ないことをしているとき、「ダメだよ、危ないでしょう!」と怒りをぶつけるのではなく、「心配してすごくドキドキした」「ケガして入院したり、死んじゃって会えなくなったりしたら悲しい」「友だちをケガさせてあとでつらい思いをするんじゃないかと思った」「だから叱ったけど、叱りたくて叱ったわけじゃないんだよ」などと、すべての気持ちを説明するのです。

また、たとえば、子どもが他者と競った結果負けてしまって「悲しい」と気持ちを言葉にしたとき、次のように子どもが気持ちを言葉にできるようガイドするのもよいでしょう。

保護者:負けちゃったね。
子ども:うん…。
保護者:「悲しい」のほかにも何かあるかな?
子ども:がんばったのに勝てなくて、残念。
保護者:ほかにもある?「悔しい」とか?
子ども:ある!

こうして本人が自分の感情に気づき、言葉にする経験を積んでいくと、感情を味わい、通り抜けられるようになります。

⇒次ページに続く 「できるだけ失敗を回避してあげたい」という気持ちとどう向き合うか

プロフィール

岸 英光(きし・ひでみつ)

コミュニケーショントレーニングネットワーク®統括責任者・主席講師、岸事務所代表 エグゼクティブコーチ。大学卒業後、企業勤務と並行して最新の各種コミュニケーション・能力開発などのトレーニングに参加。自らコーチされることを通して日本人に即したプログラムをオリジナルで構築し、人間関係や能力開発に関する分野でセミナー・講演・研修・執筆活動を展開している。『ほめない子育てで子どもは伸びる』、『失敗する子は伸びる』(いずれも小学館)など著書多数。

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