特集

コロナでどう変わった? 小学生の生活と学び(前編)(2)

 

「学校に行きたくない」という言葉の受け止め方

Q.コロナ禍で外出が制限されていた期間中、お子さまが次のような心身の状態になったことはありましたか。

<フリーアンサーより>

  • 学校よりオンライン授業の方がいいと言うようになったので、学校再開が不安だった。(1年生)
  • もともと学校に行くのを嫌がる子だったが、より行きたがらなくなった。家でイライラすることが多く、荒れていた。(3年生)
  • コロナ休校明けに学校では乱暴な子が増え、言葉の暴力も増えたそうで、息子が学校に行きたくないという日が増えた。(5年生)

――コロナ禍の2020年度は不登校の子どもの数が過去最多になったという報道もありました。今回のアンケートでも、程度の差はあると思いますが「学校に行きたくないということがあった」という回答が2割程度ありました。これをどのように考えたらよいでしょうか。

長期間の休み明けというのは、学校に行きたくないという気持ちが生じるケースは少なからずあるでしょう。2020年の一斉休校というのは、コロナ禍での異例の事態で、しかも休校期間が急遽延長されたということもありましたので、学校から離れた期間が長かったことの影響がより強く出てしまったこともあるでしょう。特殊な状況であるとともに、これまであった傾向がさらに強まった結果でもある、そのように考えられます。

長期間の休みのあと、「学校に行きたくない」ということがあったとしたら、やはりまずはその気持ちを丁寧に聞くこと、それをもとに一緒に考えることが肝要です。
保護者の方にしてみれば、「今行かないと行けなくなってしまうのでは」などと心配になる気持ちもあるでしょう。しかし、その気持ちを押し付けることは、親御さん自身もしたくないでしょう。お子さんが「学校に行きたくない」という気持ちを訴えている場合には、まずはその気持ちを受け入れるようにしてほしいと思います。

たとえば、フリーアンサーにあるように、「学校で乱暴な子が増えたり、言葉の暴力が増えたりしたので行きたくない」ということなのだとすれば、そうしたことがコロナ禍のストレスから起きやすい状況なのだとしても、まずは先生がそれを把握しているのかを確かめたり、どのように対応していくことができるのかを考えたりすることが必要でしょう。周囲の大人でなんとかできるのであれば、協力してそれに対処することが求められると思います。

――わかりました。では、「オンライン授業ができるなら学校は行く意味はないんじゃないか」といったような疑問をもっているお子さんには、どのように話すのがよいと思われますか。

そうですね。単に「家のほうが楽だから」という理由で学校に行きたくないと言っているのだとしたら、「学校に行ってみたらもっと楽しいことがあるかもしれないよ」「行ってみて、やっぱりオンラインのほうがいいかどうか、考えてごらん」と話してみたらどうでしょうか。

――学校に行けば、友だちに会えたり、一緒に遊んだりできる楽しみがあるということでしょうか。

それもありますが、やはり子どもたちには、仲間と一緒に学ぶ意義というのを感じてほしいと思うんです。
「一人で学ぶこと」と「誰かと一緒に学ぶこと」というのは大きく違います。一緒に学びながら他の人たちの発言や反応をその場で聞き、感じるというのは大事なことですし、自由に複数の友だちと話し合うことで、新たな発想が湧く可能性もあるでしょう。

オンライン授業にもいろいろなメリットはあるでしょうが、直接会って学ぶ意義を考えながら、学校の先生方はふだんの授業を考え、工夫をされていると思うんですね。子どもがそれをすぐに理解するのは難しいかもしれませんが、保護者の方からもそうした価値観を伝えていただくことはできるのではないかなと思います。

 

◆「ウィズコロナ」の生活で気になる、友だちづきあいへの影響

<フリーアンサーより>

  • 保護者によって、コロナへの心配の程度や温度差があるため、以前は自由に友だちの家を行き来していたが、それをしてもよいものか、友だちごとに考えなくてはならない。こちらは誘いたいけれど、誘われた相手はどう思うか、気になってしまうので、なかなかいろいろなお友だちと遊ばせてあげられない。(1年生)
  • 友人たちとの遊びの機会があまり持てず、残念そうにしていた。また感染防止に対する意識の違いから、何でうちだけ遊びに行けないのかなどの疑問をよく投げ掛けられた。(2年生)
  • 行動が制限されるなかで、友だちとの人間関係の構築が難しいと感じる。人見知りの性格なので誘われることも少ない。高学年になると女の子はとくに仲間意識が強くなりグループを作ったりし始めるので、少し心配している。(4年生)
  • 仲がよかった子とコロナ対策に関しての親の考え方が違い、疎遠になってしまった。(6年生)

――先ほど、「学校で学ぶ意義」についてお話がありましたが、小学生というのは友だちとの関係を通じていろいろなことを学んでいく時期でもあるかと思います。友だちと遊ぶ機会が減少したことについて心配される声が多くありました。

そうですね。小学生、とくに高学年ぐらいになると、仲よしどうしでグループを形成するようになり、仲間意識が強くなって「そのグループに所属している自分」として自分のアイデンティティを認識していくということがあります。そうした時期に、たとえば分散登校のような形でグループをあてがわれると、仲のよかった子と離れてしまうために友だち関係が少し複雑になっていく、といったことは確かにあると思います。

この点については、可能であれば友だちどうしの関係性を取り戻す機会をつくれるよう、大人が少し手伝ってあげられるとよいと思いますね。もちろん、感染対策への考え方もご家庭によって違う部分はあると思うので、直接会うことが難しければ、オンラインで会話できるような場をつくるとか。
コロナの感染状況が落ち着いていた時期には、一定のルールのもと、お子さんどうしが遊ぶ機会をつくっていたご家庭もおそらく多いと思います。

相手のご家族の状況がわからなくて、なかなか誘いにくいと思われることもあるでしょうが、本当は誘われるのを待っているということもあるかもしれません。非常時だからこそ、そこは声を掛け合っていけるといいですよね。

――友だち関係に限らず、オンラインでコミュニケーションをとる場面は今後もたくさん出てきそうですね。

コロナ禍によって、オンラインでのコミュニケーションが急速に進んだわけですが、この期間だけの限定的なもの、仕方なく使っているものと考える必要はないと思います。今、子どもたちは、もちろん大人もそうなのですが、これからのコミュニケーション・スタイルの経験を積んでいるんだと捉えることもできます。

直接会ってするコミュニケーションとは確かに違う面はあるでしょうが、「自分の考えたことを人に伝える」ことをしているのは間違いないわけですから、オンラインでの会話もお子さんがコミュニケーションのしかたを学ぶ場として考えてもいいのではないでしょうか。

 

◆子どもの健やかな成長をはかるために

――今回のアンケートでは、保護者のみなさまのご心配の内容がわかった反面、「子どもと一緒に過ごす時間が増えるなかで、子どもの成長を感じた」というお声もたくさんいただきました。

どうしても、コロナに関してはネガティブなことばかり目が向いてしまいますが、コロナによってポジティブな変化があったということも、きっとあると思います。

――そうした面にも目を向けていただくと、保護者の方もお子さんも、ストレスに感じることが減ってくるかもしれませんね。

一つ知っておいていただきたいのは、保護者の方が強いストレスを抱えていると、それが子どもにも伝わっていくことがあるという点です。
子どもがイライラしていれば保護者もストレスを感じるでしょうし、その逆もあるので、どちらが先というものではないのですが、保護者の方ご自身もストレスをなるべく抱え込まないようにしていただきたい。ご自身のストレスは子どもにもかかわってくると理解して、しっかり休息をとってリフレッシュする、親子で楽しめることを探す、といったことをしていただきたいと思います。楽しめることを探すときには、ぜひ、お子さんのアイデアも取り入れていただくといいですね。

 

ーーありがとうございました。

みなさまからいただいた、「コロナ禍において、お子さまの成長を感じたできごと」をご紹介します。

◆<フリーアンサーより>ご家族での生活や会話で感じられた子どもの成長

  • どんな状況でも、ちゃんと伝えて、説明することで理解して行動できるようになった。むしろ、大人よりもその状況を受け入れる順応性が高いと感じる。(1年生)
  • 家にいる時間が増えたぶん家族、とくにきょうだいの仲が深まったように思う。 家でしか遊べなくても、ふだん使っていなかった昔のオモチャを引っ張りだし仲よく遊んでいた。 子どものほうが、コロナ生活に不満も言わずに日々過ごしているようにも思う。 (2年生)
  • ちょうどコロナの始まりのころに引越し、入学を迎え、休校となるなかで友だちができるか不安だったが、まったくそんなことを感じさせず、楽しく毎日登校している。(2年生)
  • 活動を制限されたことで、普通であることのありがたさ、命や家族の大切さを学んだ様子。「できないときは、できることを探してそれをひたすらやるんだよ」と、話しました。素直に聞いてくれ、「勉強なら家でもできるから勉強をがんばる!」と言うようになりました。(2年生)
  • 当たり前の学校生活や普通の生活のありがたさや意味を噛み締め、お友だちを大事にしている。 さまざまな理不尽なこと、価値観の多様性について、親子で話すよい機会になった。(3年生)
  • コロナ禍でも前向きに行事を楽しみ、学校も4年生の今年がいちばん楽しいと言っていて、親としてとてもうれしく、心の成長を感じた。物事のマイナスの面ばかりではなく、プラスの面にも目を向けたり、日々の生活を楽しく暮らし、子どもの興味のあることや好きなことについてたくさん親子で話をしたりできたことはとてもよい想い出になった。(4年生)
  • Z会タブレットコースを受講してから、毎日学習するようになった。 活動制限により、親子の時間が増えて話す時間も増え、学習以外も知らないことを調べたり、Z会の国語で取り上げられている本を実際に購入して読み深めたりしている。(5年生)
  • 一人で学ぶより、仲間とグループで学ぶ方が他の人の意見も聞けて楽しいと言うようになった。他者とかかわる喜びを感じられるようになったように思う。(5年生)
  • すっかり長時間の留守番が得意になった。マイペースながらも、いつからか「休憩は○時まで」と区切りをつけて行動できるようになった。年齢的なものもあるだろうが、友だちや年少者思いになってきている。(5年生)
  • 家の仕事を積極的に手伝うようになった。とくに料理はレパートリーが増えた。(6年生)

◆<フリーアンサーより>コロナ禍で見つけた楽しみ・やりがい

  • 自然に触れる尊さを学んだ。外出できないことにより、さらに意識が外に向き、公園に行った時などは花や植物、空などの観察がより好きになった。(2年生)
  • 休校開始すぐに、軽い気持ちで始めたプログラミングがとても楽しいようで、自由にいろいろな作品を作り出していて頼もしいです。(3年生)
  • コロナ禍で親子で話す時間が増え、受験を検討するようになり、今年になって学校の成績も上がってきたし、以前よりもさらに学校での活動に積極的、かつ楽しんで取り組むようになった。(5年生)
  • 読書量が増えて難しい本も読めるようになってきた。料理の腕が上がった。計画的に自宅学習できるようになった。学校に通えることが当たり前ではないということに気づき、部活や林間学校ができたことを喜んだり、今までの日常のありがたさが理解できるようになった。(5年生)
  • あきらめることが多いなか、チャンスがあれば何でもチャレンジしてみたいと言うようになった。今は、苦手と言っていた長距離に挑戦し、駅伝大会に向けて練習している。(6年生)

プロフィール

酒井厚(さかい・あつし)

東京都立大学人文社会学部教授。早稲田大学人間科学部を卒業後、同大にて博士号取得。国立精神・神経センター精神保健研究所、山梨大学を経て現職。専門は発達心理学、発達精神病理学。主な研究テーマは、子どもが他者に抱く信頼感と仲間関係の発達プロセス。日本パーソナリティ心理学会賞、日本子ども学会優秀発表賞など受賞。

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