特集

コロナでどう変わった? 小学生の生活と学び(後編)(2)

 

◆デジタル機器とうまくつきあうには何が必要?

Q.コロナ禍以降、お子さまがデジタル機器を使う時間は以前と比べて増えたと思いますか。

Q.お子さまが、ご家庭でデジタル機器に触れている時間は1日あたり何分くらいですか。

【平日】
平均 50.8分
最大値 400分(6時間40分)

【休日】
平均 79.3分
最大値 600分(10時間)

Q.お子さまがデジタル機器を使うことで、次のような変化がありましたか。

<フリーアンサーより>

  • 時間のコントロールが難しい。(1年生)
  • いくら制限をかけても抜け穴を見つけて動画を見ていたりする。(3年生)
  • 最初は学習のために使用していても、ついついネット検索やゲームなどほかのことで時間を浪費してしまう。(4年生)

――全体で8割以上の方が、「コロナ禍以前よりも、デジタル機器を使う時間が増えた」と回答されています。一時的なものかもしれませんが、生活時間が不規則になってしまったという回答が17%あり、動画を見たりゲームをしたりする時間が増えたという回答は67%となりました。
デジタル機器によって、子どもたちが気軽に新しい情報に触れやすくなった反面、生活時間への影響というのがやはり保護者としては心配になるところのようです。

ご心配はもっともだと思います。使える時間は何時まで、などとルールを決めることはやはり必要でしょう。
ただしそのルールは、子どもと保護者の方とでよく話しあって決めたものであり、子どもが納得していることが大事です。
インターネットの使い方などに関する過去の調査を見ていると、実は、親のほうはルールを決めているつもりなのに、子どもはそうは思っていないということが少なくありません。

――親子間で、とらえ方にギャップがあるのですね。それは驚きです。

はい。ですから、親子間の認識を同じにするためにも、よく話しあってルールを決めることが大事なんです。

そして、決めたことを守れなかったときは、ただ叱ったり、タブレットを取り上げたりするのではなく、守れなかった理由をお子さんに説明してもらうといいですね。聞いたうえで、ルールの改定が必要そうだったら、話し合いながら新しいルールを作る。
ルールによって行動を縛るのではなくて、「今日はこれをしたいから先にこれを終わらせよう」といったように子どもが自発的にルールを守ろうと思えるようにすること。それが、子どもの主体性を育てることになります。
子どもの主張を聞いて、ルールを一緒に作っていくというのも、やってみるとなかなか興味深いことかもしれませんよ。子どもの考えていることや興味のあることがよくわかりますから。

Q.家庭学習(宿題・Z会を含む)でデジタル機器を使うことについて、保護者さまのお考えをお聞かせください。

<フリーアンサーより>

  • 学校配布のタブレットでドリルをやってみた。子どもは「小1なのに中1の問題が解けた」などと言って喜んでいたが、選択式の問題で当てずっぽうで正解しただけ。 小1の問題も解答の正解の選択肢を暗記して正解して満足してしまい、結局、勉強の定着にはつながっていないと感じる。(1年生)
  • ぼーっとしていても動画はどんどん進んでいくので、真の理解にならないまま終わってしまうのではないか。常に親が付き添っていないと、ただ座って画面を眺めているだけの無味乾燥な勉強になりがち。(2年生)
  • 難しい問題になると、間違えた瞬間にアプリを閉じてしまうので、逃げずに踏ん張ったがんばったときにほめるなど、デジタル機器だからといって任せきりにはできないと感じる。(3年生)
  • 紙教材よりも親の目が行き届かないので、きちんと考えて答えを出した結果間違ったのか、適当に考えて間違え、正答を見て答えたのかなどがわかりづらい。(4年生)
 

◆デジタル学習の効果を高めるために

――デジタル機器を使って学習させることについては、とくに低学年の保護者の方から、「やはり親がそばで見ていないと、身についているか心配」という声が多く挙がりました。

そうした懸念はよくわかります。確かに低学年のお子さんの場合は、しっかりと勉強できているか、身についているかなど、不安に思うことがあるかもしれませんね。
デジタル教材と一口にいっても、ただ紙のドリルをデジタルにしただけのようなものもあれば、考えさせるように作られたもの――たとえば自分で問題を作るとかお話を考えるとかいったようなもの、あるいはほかの学習者とコミュニケーションをとったり作品を見られたりするものなど、デジタルならではの工夫を凝らしたものもあります。
デジタル教材によっては、お子さんがどのように使うかわかりづらいものもあるでしょう。

実際に保護者の方がお使いになってみると、「これはよくできているな」とか「これは注意が必要だな」と思うことがあるかもしれません。まずはお子さんと同じように使ってみて、使い方のコツを知っておけば、たとえば「とくに間違えた問題のときは、解説を読み飛ばさずに必ず読むんだよ」といったように、注意点を具体的に子どもに教えていくこともできると思います。
「このデジタル機器を勉強に使うんだよ」といって与えるのであれば、機器の使い方だけでなく、解けなかったり間違えたりしたときにどうするのかなど、勉強の進め方そのものも教えていくことが必要です。

その際、「人と一緒に学んでいく楽しさ」は学習の動機づけになるものの一つなので、お子さんの年齢にもよりますが、保護者の方がお子さんと一緒に問題を解いてみるのもよいと思います。
お忙しいなかでそうした時間をとるのはとても大変かとは思うのですが、お子さんが本当に「難しい、困った」と言っている問題だけでいいので、一緒になって考えてみる。スパッと解けなくてよいので、一緒に解説を読んだり調べたりして、解き方を見つけていく。
それが、身につく勉強のしかたを教えていくことになるのではないかと思います。

 

◆保護者の方の気がかりQ&A

Q.デジタル機器に慣れてしまうと、自分で考える力が育たないのでは?

子どもがデジタル機器を手にしたことで、興味をひくもの、わかりやすいものにたくさん触れられるようになったと思うのですが、その反面、わかりにくいもの、考えないと理解できないものを避けるようになってしまわないでしょうか。また、手軽に検索したことでわかった気になって、自分の考えを深めることにならないのではないかと心配です。

A.(酒井先生より)
これは、子どもの情報リテラシーをいかにして育てるかという問題だと思います。
たとえば「動画を見て理解したような気になっている」のだとすれば、「見たあとに問題を解くことで本当に理解できたかをチェックするんだよ」などと、注意すべき点を補っていくことは必要だと思います。
情報リテラシーについては、学校で学んでいくこともあるでしょうし、家庭で教えられることもあると思います。たとえば、調べ学習の過程で、真偽が定かでない情報を使ってしまったり、書かれていることをそのまま自分の考えとして書いてしまったりといったことがあったら、注意してあげることが必要です。しかしそれは、失敗しながら学んでいくことなので、気づいたときにそのつど、保護者の方からも教えていっていただくのがよいだろうと思います。

 

Q.マスクのある生活が続くことで、コミュニケーション力が低下してしまわないでしょうか。

つねにマスクをつけていることで表情が乏しくなったり、表情を読み取る力がなくなってしまったりするのではないかと心配です。そういった影響は考えられるでしょうか。

A.(酒井先生より)
マスクをしていることが表情の読み取りにどう関わるかについては、コロナ禍になってから主に欧米で研究が進められています。表情がわかりづらい中でのコミュニケーションが、本人の表情の乏しさや表情を読み取る力に関わるかどうかは、今後の研究でわかってくるかもしれません。
ただ、ご自宅ではマスクを外して会話されているという家庭が多いでしょうし、表情の豊かさ、そこから相手の感情を汲み取る力といったものは、家族どうしのコミュニケ―ションからも十分養っていけるものだと思います。そういう意味でも、ご家庭でお子さんと面と向かって会話する、一緒になにかを楽しむという活動は大切だと思います。

また、保護者の方のコメントに、「お子さんの体験機会がなくなってしまったことが気がかりだ」というものがありました。確かに、行事など大きな思い出になったかもしれないことがなくなってしまったというのは、子どもたちにとってとても残念なことだと思います。私たち大人はこの事実を理解して、コロナの状況が落ち着いてきたら、ご家族や学校、地域で、子どもたちの体験を支える活動を実施していくことが必要だと考えます。

 

◆今、必要な子どもとのかかわりとは

――今回、コロナ禍による小学生の生活や学習への影響について、さまざまな観点からお話しいただきましたが、やはり、親子間のコミュニケーションを丁寧に行っていくことが大事といえそうですね。

そうですね。子どもにとって、自分のことを気にかけてくれる存在というのはやはりうれしいものだと思います。
年齢によっては「うるさいなぁ」と親をつっぱねるようなことがあるかもしれませんが、保護者の方は遠慮せずにかかわっていくようにしたほうがよいと思います。たとえば、生活に張りが出るような楽しみをつくること、デジタル機器を使って一緒に勉強すること、生活のルールについて話し合うことなど、かかわり方はたくさんあるのではないでしょうか。

子どもというのは、もう十分だなと思ったら自分から親離れしていくもの。それが自立ということなんだと思います。その前に保護者のほうが手を離してしまうと、子どもの側も、「もう頼るわけにはいかない」ということで、悩みがあっても言いづらくなってしまうかもしれません。
たとえば友だち関係でトラブルがあったり、進路で悩んだしたときに、やはりいちばんに助けになるのは保護者です。中学校に入って何か問題が起きてから、急に子どもとかかわろうとしてもなかなか難しい。ですから、子どもとたくさん話して、心の通じあえる関係をつくっておいてほしいと思います。
ただし、お子さんの友だちづきあいについては、子どもたちだけで過ごす時間も大切にしてあげてください。

言うまでもなく、これまでもお子さんとのかかわりを大切にしてきたご家庭が多いだろうと思いますが、コロナ禍は、もしかすると、そうした関係が築けているかを確認することになったかもしれませんね。
だれも経験したことのないコロナ禍の状況で、保護者の方もご苦労が多いことでしょう。しかしこのようなときこそ、お子さんとのかかわりを大切にしていただけたらと思います。

――お話、たいへんよくわかりました。ありがとうございました。

プロフィール

酒井厚(さかい・あつし)

東京都立大学人文社会学部教授。早稲田大学人間科学部を卒業後、同大にて博士号取得。国立精神・神経センター精神保健研究所、山梨大学を経て現職。専門は発達心理学、発達精神病理学。主な研究テーマは、子どもが他者に抱く信頼感と仲間関係の発達プロセス。日本パーソナリティ心理学会賞、日本子ども学会優秀発表賞など受賞。

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