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答えのない問題に立ち向かえる子に〜不確実な時代を生き抜くヒント(1)

「VUCA」という言葉をご存じでしょうか。変動(Volatility)、不確実(Uncertainty)、複雑(Complexity)、曖昧(Ambiguity)の頭文字をとった、将来の予測が困難な状況を意味する造語です。「VUCAの時代」といわれる現代。子どもたちを取り巻く状況も日々変化しています。その変化を乗り越え、力強く自分の足で歩いていくために、子どもたちにはどのような力が必要となるのでしょうか。そして我々大人たちも変わるべき点とは。シティズンシップ教育の第一人者である教育学者の小玉重夫先生にうかがいました。
(取材・文 松田 慶子)

目次

 

世界は、誰も正解がわからない時代に

――学校でタブレット端末が配られたり、宿題でネットでの調べ学習が出たり。コロナ禍の影響を除いても、小学校での学びが自分のころとはまったく違うと感じている保護者の方は多いようです。この変化は何を背景に起こっていて、子どもたちはどのような状況に置かれているのでしょうか。

タブレット端末配布の話が出ましたので、「GIGAスクール構想」を軸に、現代の子どもを取り巻く状況からお話ししますね。
「GIGAスクール構想」という言葉は、皆さん、聞いたことがあるのではないでしょうか。文部科学省が2019年に打ち出した教育改革の1つです。内容は、子どもたちに1人1台の端末と高速通信環境を提供するというもので、タブレット端末の配布はその一環です。当初なかなか進まなかったのですが、コロナ禍により授業のオンライン化が求められたことで急速に進展しました。
ところで、この「GIGA」って何のことだかわかりますか?

――情報容量のギガバイトの略ですか?

そう思う人が多いのですが、「Global and Innovation Gateway for All=すべての児童・生徒のための世界につながる革新的な入り口」の略です。つまり、子どもたち1人1人が、世界と直接つながることが重要で、そうできるような環境を整えようという取り組みといえます。

――なぜ、世界と直接つながることが大切なのでしょうか。

19~20世紀を通じ、人々は、年長者が蓄えた知識を若年者が学び社会に入っていけるようにすることが教育だと考えてきました。言い換えると、大人は正解を知っていて、子どもたちがその正解に近づけるように導くことが教育であり、それを行う場が学校だと考えたのです。これに基づき教育制度が整えられてきました。

しかし、今、社会は大きく変わっています。気候変動やグローバル化が進み、新型コロナウイルスのような新しいウイルスの影響はまたたく間に世界中に拡散しました。先に生まれた人が持つ知識では、解決できない。VUCAの時代と言われますが、誰も正解を知らない状況になっているといえます。
そうすると、大人が子どもに知識を伝えるという今までのやり方が通用しなくなります。

 

社会を変革する人の育成に、教育の目的がシフト

――身近な大人から教わることができないから、自分で世界とつながり答えを探さなくてはいけない。だからデジタルツールが必要、ということでしょうか。

いえ、どこかにある答えを探すという意味ではありません。
今までのやり方では行き詰まるので、誰かが社会を変えていかなくてはいけない。その変革する人材となることを子どもたちに期待しているのです。教育の目的の軸が、知識を伝えることから社会変革をしていく人の育成に移りつつあるといえます。ICT環境の整備は、学習の時間・空間的制限の克服や情報活用能力の育成などいくつかの面からそれを推進する手段です。

――ICT環境の整備自体が目的ではないのですね。

社会変革の担い手の育成は、世界的な潮流です。OECD(経済協力開発機構)が2019年に「Learning Compass 2030」(学びの羅針盤)という学習の指針を策定しました。その中でも、「エージェンシー」つまり社会をより良く変革していく主体をどう育成するかが教育の課題になっていく、とされています。

日本に話を戻すと、小学校では2020年に新しい学習指導要領が全面実施されました。その改訂も、未来の社会の創り手の育成を主軸にしています。
今年、成年年齢が18歳に引き下げられましたね。これも広い意味では、同様の考えに基づいています。より若いうちに社会に参画して、社会を変えていく主体として活躍してもらいたいという狙いです。

――子どもが社会を変える力をつけられるよう、学校や社会の仕組みを変えているのですね。

そうです。今はその過渡期なのです。

⇒次ページに続く 変革の担い手となるために、「探究する力」を育てる

プロフィール

小玉 重夫(こだま・しげお)

東京大学大学院教育学研究科教授。1960年生まれ。東京大学法学部政治コース卒業。同大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。慶應義塾大学教職課程センター助教授、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授などを経て現職。専門は教育哲学、アメリカ教育思想、戦後日本の教育思想史。教育における人間と政治、社会との関係を思想研究によって問い直すことを研究テーマとする。『教育政治学を拓く』(勁草書房)ほか、著書多数。

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