特集

小学生の外国語(英語)習得で何が大切か 
〜海外の事例からわかること~(2)

わからなくて当たり前。外国語(英語)との向き合い方

――保護者としては、どのような姿勢で、子どもの外国語習得を見守ればいいのでしょうか?

まず、外国語学習において「わからない」のは当たり前と考えてください。成績評価のつく教科学習になると先生も親もついつい教え込んでしまいがちですが、正解が言えることを追い求めてしまうのは禁物です。
それから、小学校でALTの先生が英語を発話したあとによく見かける光景なのですが、一緒にティーム・ティーチングを行っている担任の先生が「みなさん、わかりましたか?」と確認するのはNGです。わからないといけないんだ、という気持ちにさせてしまいますから。外国語はわからなくて当たり前なのです。先生たちにはむしろ「わからなくてもいいんだよ」というメッセージこそ発してほしい。これは保護者の方にも共通することです。外国語習得において、わかったら、それは「すごいこと」なんです。ぜひ発想の転換をしていただけたらと思います。
また、言語習得には個人差が大きいことも忘れないでください。きょうだい間でもまったく異なります。早い遅いがあるのも当たり前です。
英語のインプットの方法にも、音から入る方がしっくりくる子もいれば、文字から入る方がすんなり進む子もいるなど人それぞれ。その子の事情に合わせてあげることがとても大切です。
アウトプットについても同じです。学習したことをすぐに使いたがる子がいる一方で、沈黙状態を経て発話に至る子もいる。それぞれが自分にあった方法で言語を身につけていくので、個人差を尊重し、過度なプレッシャーを与えないようにしていただければと思います。
学校の授業もインプット中心のアクティビティにして、アウトプットについてはそれぞれの子どもに任せて強制しない。これが理想的でしょう。

 ――日本の場合、依然教える側の技量を疑問視する声もあります。これについては先生はどのようにお考えですか?

小学校の担任の先生はとてもクリエイティブで能力は高いと評価しています。実際、アイディアも豊富で、充実した授業を展開している先生が多いですよ。小学校の先生に対する厳しめの評価は、むしろ保護者側の先入観によるものが大きいかもしれません。

必要なのはネイティヴのような発音ではなく、課題解決につながるコミュニケーション

――日本人としてはどのような語学力を目指して外国語学習をしていけばよいとお考えですか?

「国際コミュニケーションツールとしての英語」を目指せばよいと思います。自分の言いたいことをしっかり伝えられる、相手の言いたいことを十分理解できる英語力をつけることが大切です。そこにネイティヴのような発音は必要ありません。外国語として英語を学ぶ場合、ネイティヴのように英語を話せるようにはならないし、そもそも、その必要もありません。「意味の伝達」ができることを目指して学習を進めることが大切です。
今の子どもたちが大人になって求められるのは、きちんと自分の意見を持ち、国際コミュニケーションツールとしての英語を使いながらさまざまな国の人と対等に意見を交換し、知見を深め、さまざまなことを解決できる力を身につけていくことだと思います。
あと、忘れてはならないのがデジタルテクノロジーの存在です。英語を学ぶ手段として有効なテクノロジーがたくさんあります。日本では社会で広く英語が使われているわけではないので、オンライン英会話などのテクノロジーを使って、物理的に言語を使用する機会を増やすことも有効ですね。最近はスカイプなどのデジタル・ディバイスを使ってミーティングをする機会もかなり日常的になってきているので、そういうテクノロジーを通じたコミュニケーションに慣れておくことも、言語習得を考えると重要かなと思います。
とくに今の子どもたちはデジタル世代なので、学習スタイルも彼らの志向にあったものにしていくことも重要です。彼らは自分の興味のあることを突っ込んで勉強したいという傾向がありますから、そこに合わせた内容で勉強を進めていくことも大切。現実的には非常に難しいのですが。でも、その視点は外せないと意識してほしいなと思います。その点、小学校英語のよいところは「自由にできるところ」「縛りが少ないところ」なのではないかと考えています。とりあえず自由にやってみて、外国語を学ぶってけっこうおもしろい!という思いをもったまま、中学に進学してもらうことができると理想的です。動機づけを維持するのが重要なんですね。どれだけ正確な英語が話せるかとか、どれだけ文法を学んだとか、どれだけ語彙を覚えたとか、そういうことは学習目標にしない方がいいと思います。

――ところで、先生ご自身は現在米国の大学で教鞭をとられているわけですが、いつ英語を習得されたのですか?

私自身は大学に入るまで海外にはあまり行ったことがなく、本格的に英語を習得したのは日本の大学を卒業してアメリカの大学に行ってからです。今でも苦労することもあり、読むことも書くことも発音することも勉強途中です。「あー英語って難しい」と日々思いながら仕事をし、暮らしています(笑)。
我が身を省みてしみじみ思うのは、言語習得にはendpoint、終わりがないということです。どこまでも努力していかないといけない。これから英語を学び始める小学生には、「英語の勉強にゴールはないからこそ楽しんで学び続けてね。」と伝えたいです。保護者の方には、終わりがないのであまり目の前の結果に一喜一憂しないで、気持ちに余裕をもって見守ってほしいなと思います。

――どうもありがとうございました。

プロフィール

バトラー後藤裕子(ばとらー・ごとう・ゆうこ)

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、スタンフォード大学Ph.D.(教育心理学)。現在、ペンシルバニア大学教育学大学院言語教育学部教授。専攻は、子どもの第二言語・外国語習得および言語教育、バイリンガル習得、言語アセスメント。著書は『英語学習は早いほど良いのか』(岩波新書)、『日本の小学校英語を考える』(三省堂)、『学習言語とは何か―教科学習に必要な言語能力』(三省堂)など。

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